岡山・松原徹郎
この連載は、月刊『現代農業』の2020年1月~2021年12月まで全24回にわたって掲載された連載「植物はあれもこれも薬草です」です。身近な薬草を毎日の暮らしに取り入れるための知恵が満載です。病気になりにくい身体づくりを実現しましょう!
日当たりのよいやせ地を好む
11月、そろそろ寒くなってくる時期。今回はナツハゼという木を紹介します。
ツツジ科の木で、樹高は1~3m程度の低木です。斜面の上や尾根付近で、日当たりがよく乾いたやせ地に生えます。アカマツ林の下に生えていることが多く、群生しているのは稀です。
昔は里山にたくさん生えていたそうなので、年配の方は実をとって食べたことがあるのではないでしょうか。地方名も多い植物で、私の村では「ヤマナスビ」と呼ばれていて、やはり子供が実をとって、おやつに食べていたそうです。
秋に連なる光沢ある黒い実
ナツハゼは国産の野生種のブルーベリーとも呼ばれます。地域によってややズレはありますが、9~11月に黒く熟した直径5~6mmの実が連なるようにたくさんなります。私の村の場合、標高が高く寒くなるのが平地よりやや早いため、毎年10月頃に実が黒くなります。よく見るとわかるのですが、光沢のある黒い実に白いハチマキのような模様がついているのが特徴です。私も最近知りましたが、福島県や長野県ではナツハゼを栽培して出荷している農家もいるそうです。
ブルーベリー以上のアントシアニン
ナツハゼは実に薬効があります。黒い色素はアントシアニンというポリフェノール。実の含有量は高く、ブルーベリーの3~6倍もあり、優れた抗酸化作用があることが明らかにされています。
ポリフェノールは、ほぼすべての植物がもっている苦みや渋み、色素の成分です。自然界には数千種以上のポリフェノールが存在し、カテキンやイソフラボンといった成分もその一種。アントシアニンは黒や紫色の食べ物に含まれ、ブルーベリーやナス、黒豆やブドウ、ワインなどに豊富です。
抗酸化作用は、活性酸素を取り除き、酸化の働きを抑える効果のこと。人の体の中では活性酸素が日々発生しています。いわばエネルギーがあり余っている状態の酸素で、必要なものでもありますが、増えすぎると動脈硬化、ガン、老化、免疫機能の低下など体に害を及ぼします。ナツハゼの実を食べることでこれを防げるのです。
その他にも、目の疲労回復や血液の浄化作用、滋養強壮などの薬効も知られています。
果実酒やジャムにして楽しむ
黒く熟した実は生で食べられます。ただ、甘みは少なく、酸味が勝る感じで、小さいタネもあるので、種なしブドウのようにパクパク食べるものではないかもしれません。ブルーベリーのように、ヨーグルトドレッシングのサラダに散らしたり、スイーツの材料に利用したりするのがよいでしょう。
わが家では熟した実を水で洗って少し陰干ししてから、同量程度の砂糖を加え、2~3倍のホワイトリカーに漬けて冷暗所に半年ほどおき、果実酒にして楽しんでいます。上品なワインのようで、疲れがたまったときなどに飲むと、少量でもかなり体がラクになる気がします。
また、実をつぶしてから網などにこすりつけて裏ごしし、小さいタネを取り除き、鍋に入れ砂糖を加えて弱火で煮込むとおいしいジャムになります。
山の手入れ不足で減少中
かつては各地にたくさん生えていたというナツハゼですが、今はそんなに見かけない地域があるかもしれません。
里山の木を切って利用しなくなったため、かつてのように傘をさしながらでも歩けるくらい日当たりのいい、アカマツ林が少なくなってしまったからです。ナツハゼと同じ仲間で、やはりアカマツ林を好むツツジなども同様に少しずつ減っている地域が多いですね。
私の村も、かつては尾根筋のほとんどがマツタケ山で、ナツハゼも実をとるために切らずに残していたようで、以前はたくさんあったと聞きますが、今では探すのに苦労しています。
探すなら、日当たりが確保されている道の脇や林縁が一つの狙い目でしょうか。みなさんもぜひナツハゼを探して地域を歩いてみてください。健康食品もさまざま市販されている時代ですが、手間はかかっても、身のまわりにある資源を探してとることはやっぱり楽しいですよ。
*月刊『現代農業』2021年11月号(原題:ナツハゼ)より。情報は掲載時のものです。
――次回(最終回)は「ヨモギ」です。どうぞお楽しみに。
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