岡山・松原徹郎
この連載は、月刊『現代農業』の2020年1月~2021年12月まで全24回にわたって掲載された連載「植物はあれもこれも薬草です」です。身近な薬草を毎日の暮らしに取り入れるための知恵が満載です。病気になりにくい身体づくりを実現しましょう!
旺盛な生命力の秘密は根
今回ご紹介するのは誰もがご存じのスギナです。人の住むところにスギナありといわれ、山地、野原、畑、土手、路傍など日当たりのよい場所によく生えています。多くの国で古来から民間医療に用いられてきた薬草です。
生命力が旺盛で、どんな荒れ地でもへっちゃら。畑に増えすぎて困っているという方も多いと思います。旺盛に繁茂する理由はよく発達する根。深さ50~60cmまでとんでもなく長い根を張ります。10cmの長さに切断した根を土に植えたら、数カ月後に80cmにも伸びたこともあるほどです。
スギナもツクシも根は一つ
スギナは比較的原始的なシダ植物で、花やタネをつけず、代わりに胞子で子孫を増やします。
また、シダ植物の中でも、光合成を行なう器官と生殖を専門に行なう器官が分かれている種類に属します。光合成を行なう器官がスギナで、生殖を行なう器官が春先に出るツクシです。同じ一つの根から、スギナもツクシも出てくる点が特徴です。なお、同じように器官が分かれるシダ植物の仲間には、ワラビやゼンマイなどがあります。
ミネラル満点で体を活性化
スギナはカルシウム、マグネシウム、リン、カリウムを豊富に含んでいます。逆にナトリウムの含有量は少ない。そのため、スギナを摂取すると、人の体の細胞の働きが円滑になり、腎臓が活性化する作用が高いとされています。
スギナの葉を乾燥したものは問荊《もんけい》という生薬になります。むくみ改善に効果のあるケイ酸も多く含み、煎じ液が腎臓病の薬、あるいは利尿剤に用いられてきました。肺結核、肋膜炎、去痰、膀胱炎などにも効くとされています。
私の薬草の師匠だった故・村上光太郎先生は、スギナの最も優れた効果は「一緒に飲んでいる医薬品の効果がよくなること」だとよくいっていました。体を活性化させるニンニクのような薬草ともいえるかもしれません。
肌のかゆみ、炎症にスギナ風呂
体外からの薬効も期待できます。生の葉の汁は皮膚炎によい。私は夏の日焼けがひどいときなどに塗っています。また、乾燥した葉をお風呂に入れると、かゆみや炎症止めの入浴剤になります。
なお、葉を直接お風呂に入れても、40℃程度のお湯で溶け出す成分はわずか。そのため、まず一度やかんなどに葉を入れて火にかけ、煮出した液をお風呂に入れると効果が高まります。
ツクシを素揚げで丸ごといただく
スギナを利用するなら、まず春先のツクシ採りから楽しみましょう。採集したツクシのはかまの部分を手で取って、軽く茹でるだけで、卵とじや佃煮をはじめ、なんにでも使える食材になります。多少の苦さが春を感じさせます。ビタミンA、C、Eなど栄養も非常に豊富でミネラル補給にも有用です。
いちいちはかまを取るのが面倒という方は油で素揚げ。塩などで適度に味付けするだけで、はかまごとそのままバリバリ食べられます。
ツクシは、前年の秋、ある程度の長さがある根に芽を形成し、それが春になって出てくるので、秋冬に耕したりしていない日当たりのよい場所を中心に探してみましょう。とにかく生長が早く、1日1~2cm伸び、すぐにはかまの部分が開いて胞子も散ってしまいます。胞子を飛ばす前のほうが風味もよく、薬効成分も多いといわれるので、マメにチェックして取りそびれないようにしたいですね。
なお、場所によってははかまの中に砂が入ることがあります。素揚げを楽しむ際は、砂地の近くを避けて採集を。
スギナは乾燥させてふりかけに
わが家では毎年5~6月、生長したスギナもたくさん採集します。長く旺盛に伸びた地下茎でたくましく育ち、他の雑草が大きくなるよりも早い時期から葉がびっしりつきます。
ツクシの生えている場所の近くを一度草刈りして、多少耕しておくと、他の雑草より優先的に育って、たくさんのスギナをラクに採集できます。
採集するときは根元から刈り取り、即座に天日乾燥します。ただ、紫外線が強い時期なので、乾ききる前にきれいな緑色が色あせてしまいます。きれいな色を残したい場合は電気乾燥機を使います。
乾燥スギナをお茶で楽しんでもいいですが、わが家ではもっぱら自家製ふりかけの材料に使います。2~3mm程度に細かく砕き、干したエビ、チリメンジャコなどと混ぜるだけ。クセもなくなかなかいけます。
◇
スギナ、ツクシともにわずかにステロイドを含みます。また、カリウムを大量に含んでいます。日々の摂取はほどほどにしておきましょう。なんでも、よい塩梅に留めることは基本ですね。
*月刊『現代農業』2021年2月号(原題:スギナ)より。情報は掲載時のものです。
――次回は「ナズナ」を掲載予定です。どうぞお楽しみに。
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