植物はあれもこれも薬草です 連載記事一覧 【植物はあれもこれも薬草です】第15回「ナズナ」 毛細血管を丈夫にする 料理は春の楽しみ 2023-11-17 岡山・松原徹郎 この連載は、月刊『現代農業』の2020年1月~2021年12月まで全24回にわたって掲載された連載「植物はあれもこれも薬草です」です。身近な薬草を毎日の暮らしに取り入れるための知恵が満載です。病気になりにくい身体づくりを実現しましょう! ナズナ アブラナ科ナズナ属。葉はややくすんだ濃い緑色で、ダイコンの葉のように切れ込みがある。変異する個体も多く、葉の縁が羽根状に裂けているものもある(イラスト:久郷博子) 昔からおなじみのぺんぺん草 今回は皆さんもおなじみのナズナを紹介します。畑、田んぼ、草地など、草刈りなどで人の手が入っていて、日当たりがよい場所ならどこにでも生えています。結実した実が三角形で、三味線のバチに似ているので、ぺんぺん草ともいわれていますね。 日本だけでなく、北半球に広く分布しているグローバルな草で、日本にはかなり昔にムギとともに渡来したとされています。古くから食べられる草として知られていて、とくに冬場の野菜代わりに利用されてきました。 家紋に取り入れられることもあるほど、非常に身近な草ですが、れっきとした薬草です。開花期のナズナを根がついたままの状態で乾燥させたものが、薺菜《せいさい》と呼ばれる生薬になります。アミノ酸、フラボノイドなどのさまざまな成分を豊富に含んでいて、副交感神経に対する刺激作用、唾液や胃液の分泌促進、血圧降下作用などいくつもの効用があるとされています。 なかでも最もあらたかな効能は止血作用。漢方では水腫、下痢、吐下血、月経過多、眼の充血などの薬として使われてきました。含有成分の一つ、ルチンに毛細血管を丈夫にする作用があるようです。 一般の葉菜類に比べてタンパク質に富み、カルシウムや鉄分、ビタミンAを多く含むという分析結果もあります。 第2話で紹介したハハコグサと同じ、春の七草の一つ。季節の変わり目の体調管理にぜひ役立てたい薬草だ 味もいい いろいろな草を利用するわが家ですが、その中でもナズナは一家で標的にしている草で、かなり貪欲に採取しています。その理由は、薬効もさることながら、食べると美味しいから。 ダイコンやキャベツ、ハクサイなどアブラナ科植物には野菜として食べられているものがたくさんあり、ナズナもその仲間です。葉はブロッコリーに似た旨みの強さが特徴で、野菜感覚で好きな料理に気軽に使えます。 わが家では素材の味を生かすため、シンプルなお浸しや細かく刻んで熱々のご飯に混ぜたナズナ飯が定番。どちらも春のごちそうです。 葉の変化に惑わされず採取 冬場のロゼット状のナズナ。野菜代わりに美味しくいただくなら、花茎が伸びる前を狙って採取する ナズナは二年草で、春頃土に落ちたタネが、秋になると芽生え、冬は地面から放射状に葉を伸ばしたロゼットという状態で越冬します。翌年の早春から再び花茎を伸ばし、開花して夏になる頃には地上部が枯れていきます。 葉の形は、芽生えた頃はさじのような形、その後は鳥の羽根のような形になり、花を咲かせる頃には細長く先のほうが細い形(長披針形)と、生長に応じて変わります。 花が咲いて実がついた頃なら、遠目からでも簡単に見分けられるはずですが、食材として狙うのは、春を迎えて再び大きくなり始める頃のロゼット葉。そのため、最初は見つけるのにちょっと慣れが必要かもしれません。毎年よく生える場所を覚えておくと採取がラクになるでしょう。 できるだけ一カ所にまとまって生えている場所を集中的に狙い、細いダイコンのような根が地中深くまで伸びるので、それも一緒に掘り取る覚悟で採ってしまうほうが効率よく採取できます。 葉は陰干しで長期利用 生の葉は日持ちしませんが、乾燥させると長期保存が可能です。数日陰干しするだけで、きれいな緑色を残しながら乾燥できます。日光に当てすぎると紫外線で緑色が分解してワラのような色になってしまうので注意します。毎日こまめに様子を見られないという場合は、電気乾燥機を使うと早く乾燥できるのでおすすめです。わが家では、手軽に薬効を得たいと、乾燥した葉をミキサーで粉末にして料理に少量入れたりもします。 葉を乾燥させると長期保存できる。乾燥させた後、ミルなどで粉末にしておくと使いやすくて便利 根はきんぴら、花はおやつ 葉だけでなく、白い根はささがきにしてきんぴらでいただきます。また、トウが立ってタネがついたら、干して軽く振るだけでタネが大量に落ちて簡単に集まります。タネをフライパンで炒ってお茶にして楽しんでいる方もいます。 それと花。そろそろ田起こしかなーなどと田んぼを見回りながら、ナズナの花を見かけたらつまんでパクリ。おやつ代わりによく食べます。これもまた春の楽しみ。嘘だと思う方も、まあ一度やってみてください。意外においしくてビックリするはずですから。 *月刊『現代農業』2021年3月号(原題:ナズナ)より。情報は掲載時のものです。 ――次回は「フキ」を掲載予定です。どうぞお楽しみに。 ビワ( 6月6日)ハハコグサ (6月16日)タンポポ (6月21日)カキドオシ (6月27日)ハコベ(7月4日)クワ(7月12日)ヤブカンゾウ(7月19日)ゲンノショウコ(7月26日)ハギ(8月4日)オオバコ(8月24日)アザミ(9月6日)ヒキオコシ(9月14日)タラノキ(10月12日)スギナ(10月26日)ナズナ(11月17日)フキ(12月6日)イタドリ(1月9日)ドクダミ(2月21日)ツユクサ(3月19日)ノブドウ(4月23日)メナモミ(5月中旬) 過去に月刊『現代農業』で連載された「植物はあれもこれも薬草です」は、「ルーラル電子図書館」(無料お試しあり)でまとめて見ることができます。ぜひご覧下さい。 過去の連載を読む この連載の著者の松原徹郎さんが代表を務める「草楽(そうらく) 」のホームページやイベント情報、オンラインショップなどへのリンクは以下のとおりです。 ▼草楽のホームページ▼ ▼草楽のネットショップ▼ ▼草楽のイベント情報など(facebook)▼https://www.facebook.com/ueyamasouraku 大地の薬箱 食べる薬草事典春夏秋冬・身近な草木75種村上光太郎 著薬草の恵みをもっとも効率よく取り入れる方法は「食べる」こと。そして薬草になる植物は春夏秋冬いつでも身近にある。75種の草木をおいしく食べる料理法を重視し、薬酒や薬草酵母、薬草茶の作り方まで紹介。 小さいエネルギーで暮らすコツ太陽光・水力・薪&炭で、電気も熱も自分でつくる農文協 編輸入任せのエネルギー問題を再考!ミニ太陽光発電システムや庭先の小さい水路を使う電力自給、熱エネ自給が楽しめる手づくり薪ストーブなど、農家の痛快なエネルギー自給暮らしに学ぶ。写真・図解ページも充実。 この記事を見た人へおすすめのコーナー 農家のくらし知恵袋 Tags: 漢方, ナズナ, 薬草, 健康