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【植物はあれもこれも薬草です】第1回「ビワ」 大寒の頃に葉を採取、むくみ、痛みを和らげる

植物はあれもこれも薬草です

岡山・松原徹郎

コロナ禍がようやく落ち着きつつあるいま、人々の健康・未病への関心が高まっています。この連載は、月刊『現代農業』の2020年1月~2021年12月まで全24回にわたって掲載された連載「植物はあれもこれも薬草です」です。身近な薬草を毎日の暮らしに取り入れるための知恵が満載です。病気になりにくい身体づくりを実現しましょう! 

棚田のむらは薬草の宝庫だった

ビワ バラ科ビワ属の常緑性高木。11月~翌年2月に開花。5~6月に果実が収穫できる イラスト 久郷博子
ビワ バラ科ビワ属の常緑性高木。11月~翌年2月に開花。5~6月に果実が収穫できる(イラスト:久郷博子)

 大阪府高槻市のベッドタウンから岡山県美作市の上山《うえやま》集落へ移住して、7年目を迎えています。もともと私は民間の自然環境調査会社に15年所属し、全国の植物・植生の調査業に従事していました。日本中の地域を踏査しましたが、そのほとんどがいわゆる里山でした。

 調査を続けて実感したのは、各地の里山は生活に利用されることなく数十年が経過し、かつての姿から大きく変わってしまったということでした。その証拠に、かつて手入れされて明るかった里山にはさまざまな植物が育っていました。しかし、手入れされなくなり、環境の変化によって今では多くが絶滅が危惧されるレッドデータブックに掲載されています。

 そうした植物を保全したいと思いましたが、かつての里山環境を再生し、維持しなければ何も変わりません。いつかは里山再生に携わりたいと思いながら、40歳近くになって出会ったのが棚田のある上山集落でした。

 その頃、上山集落では地元民と移住者が力を合わせ、鬱蒼とした「やぶ」と化した棚田を草刈りし、野焼きしてガンガン再生していました。

 初めて集落を訪問したときに、そこに生える植物を調べてみたら、棚田のある複雑な環境のおかげで、300種類近くもの植物が育っていることがわかりました。私には、上山集落が、廃れていく過疎地ではなく、新たに何かを実現できるエネルギーにあふれた場所に感じられました。

 「自分にとって最後のチャンスだろう」。もし上山集落で暮らすなら体力も必要だし、時間もかかると考え、妻とも相談したうえで移住を決意しました。

筆者が住む上山集落。草刈りと野焼きによって再生した棚田が広がる。さまざまな植物が息づく棚田のむらは薬草の宝庫でもあった
筆者が住む上山集落。草刈りと野焼きによって再生した棚田が広がる。さまざまな植物が息づく棚田のむらは薬草の宝庫でもあった

薬草利用を生業にする

 妻は薬剤師です。植物の判別ができる私と妻が一緒になってやれることは何かと考え、田舎で暮らすための生業に選んだのが薬草の利用でした。

 しかし、それまで薬草利用について専門に勉強したことはありません。そこで『食べる薬草事典』(農文協)などの著書を読んで感銘を受けた崇城大学の故・村上光太郎先生に直接お会いして教えを請いました。

 先生は一度話が始まると4~5時間ずっとしゃべり続けるほどエネルギッシュな方でした。教えてくださる薬草の話はどれも実際の体験やご自身の研究に基づいたものばかりで、田舎での生活の知恵や薬草を利用した健康特区の構想など先生のさまざまなアドバイスが、今も私の道標となっています。

 この連載では、失敗を繰り返しながらも、私なりに暮らしのなかで学んだ薬草利用の知恵を紹介していきます。

薬の王と呼ばれる樹、ビワ

▼大寒の頃、葉を収穫する

 今回紹介するのはビワです。ビワは薬王樹と呼ばれるほど広く薬用に活用されていた、れっきとした薬木。古くから家の周りに植えられてきました。

 初夏に成る実が美味なだけでなく、葉やタネも活用でき、わが家では主に葉を利用しています。採集するのは花が咲く前の一年で最も寒い大寒(1月下旬)の頃。濃緑でごわごわと厚みのある大きな古い葉をできる限り選んで収穫します。このような葉のほうが小さな若い葉より効果があります。

▼2回の煮出しで作るビワの葉茶

ビワの葉を煮出したお茶は赤い色をしている。葉はいつでもとれるが、大寒の頃にとる葉がとくによい
ビワの葉を煮出したお茶は赤い色をしている。葉はいつでもとれるが、大寒の頃にとる葉がとくによい

 収穫した葉の裏毛を歯ブラシなどで軽く取り除き、乾燥させてから幅2cmほどに刻んだものをお茶にします。茶葉をやかんに一つかみほど入れ、1時間以上沸騰させると淡い黄褐色になります。さらに一度冷ましてから、再び温めなおすとやや赤い液体となり、これを飲みます。

 鎮咳、去痰(痰を出しやすくする)、健胃、腎臓病などに効果があるとされています。高齢で足のむくみがひどい人に頻繁に飲んでもらったら、体の水分調節がうまくいったのか、むくみがかなり改善したこともありました。

▼打ち身によく効く焼酎漬け

 ビワの茶葉を焼酎に漬けると薬酒になります。お茶と同様の効果が期待できます。打ち身や捻挫した部分に直接塗る使い方もあり、内出血になるようなひどい打ち身でも、一晩塗って寝ると、痕が残らず痛みも治まります。

▼神経痛、筋肉痛には入浴剤で

 神経痛や筋肉痛にはビワの茶葉を鍋で煮出して入浴剤にします。葉を洗濯ネットなどに入れ、煮出した汁と一緒に風呂に入れます。

 農作業で体の節々が痛い時や疲れが残った時に入ると、翌日の体がかなり軽快になります。夏場の汗によるかぶれ、あせもがひどい時にもビワの葉風呂に入ります。

▼市販の湿布よりビワの葉湿布

 裏毛をとったビワの葉(乾燥させてもさせてなくてもよい)を何枚か少しずつ重ね、葉の表面(つるつるしたほう)を肩や腰など痛みのある場所にあてます。その上から使い捨てカイロをあてると温湿布になります。

 ビワの葉の成分がゆっくりと皮膚から吸収され、痛みを取り除いてくれます。市販の湿布でよくかぶれるという方も、ビワの葉湿布はかぶれにくいと思います。神経痛などで夜眠れない時、ぜひ試してみてください。

刈り払い機を担ぐ筆者と家族。7年前、当時小学生だった子どもたちの教育にもきっといいはずと移住を決意した
刈り払い機を担ぐ筆者と家族。7年前、当時小学生だった子どもたちの教育にもきっといいはずと移住を決意した

*月刊『現代農業』2020年1月号(原題:植物はあれもこれも薬草です(1)ビワ)より。情報は掲載時のものです。

――次回は「ハハコグサ」を掲載予定。どうぞお楽しみに。

松原徹郎さんが代表を務める「草楽(そうらく) 」のホームページやイベント情報、オンラインショップなどへのリンクは以下のとおりです。

▼草楽のイベント情報など(facebook)▼

https://www.facebook.com/ueyamasouraku

過去に月刊『現代農業』で連載された「植物はあれもこれも薬草です」は、「ルーラル電子図書館」でまとめて見ることができます。

大地の薬箱 食べる薬草事典

春夏秋冬・身近な草木75種
村上光太郎 著

薬草の恵みをもっとも効率よく取り入れる方法は「食べる」こと。そして薬草になる植物は春夏秋冬いつでも身近にある。75種の草木をおいしく食べる料理法を重視し、薬酒や薬草酵母、薬草茶の作り方まで紹介。

小さいエネルギーで暮らすコツ

太陽光・水力・薪&炭で、電気も熱も自分でつくる

農文協 編

輸入任せのエネルギー問題を再考!ミニ太陽光発電システムや庭先の小さい水路を使う電力自給、熱エネ自給が楽しめる手づくり薪ストーブなど、農家の痛快なエネルギー自給暮らしに学ぶ。写真・図解ページも充実。

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