祝単行本化!2023年6月から1年間にわたってお届けしてまいりました本連載が、このたび、一部書き下ろしを加えたうえ編集され、『北の国から 家族4人で幸せ自給生活』三栗祐己・三栗沙恵 著(農文協)として発売されました。
北海道の山の中で、住まいや電気(太陽光発電)、水道などを自分たちでつくりながら、働きすぎず、穏やかに、豊かに暮らしている三栗さん一家のお話です。
*今回の執筆は三栗さんの奥さんの沙恵さんです。
北海道・三栗祐己
石けんを手づくりするきっかけになったのは、タイのパーマカルチャー・ファームでの暮らしです。ここのシャワールームでは、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と油で作ったシンプルな石けんを使っていました。ここから出る排水は、そのまま山の中へ流れていくのですが、その排水の流れる道筋でも、野草たちがしっかりと育っていたんです。
手づくり石けんに興味を持った私は、帰国後、知り合いのお店から廃油を分けてもらって作るようになりました。現在、我が家で使う石けんも、タイのパーマカルチャー・ファームと同じ、苛性ソーダで作った石けん(コールドプロセス製法)です。「洗濯用」と「入浴用」の2種類にわけて作っています。
廃油で作る洗濯用石けん
石けんはおもに「油と水、苛性ソーダ」から作られます。油に苛性ソーダが混ざることで鹸化反応をおこし、石けんになるのです。以下は、我が家での作り方です。(苛性ソーダは劇薬で注意が必要なため、詳細な作り方は割愛しました)
まず、苛性ソーダ水を作り、そこに廃油を入れて20分しっかりと撹拌していきます。苛性ソーダが目に入ると失明する恐れがあるので、ゴーグルは必須、跳ねないように丁寧に混ぜていきます。
苛性ソーダは直接触れると危険な劇物です。取り扱いの際は、保護メガネ、ゴム手袋、肌の露出の少ない服装などで慎重に作業する必要があります。
混ぜたものを、一升サイズのパックに入れてある程度固まるまで一週間ほど待ちます。
カットできる硬さまで固まったら、ナイフでカットをしてからさらに三週間ほど熟成させる。しっかりと熟成させることで、油脂の酸性と苛性ソーダのアルカリがしっかり結びつき、上質な石けんができます。
我が家では、洗濯のときや油を使った料理の後の食器洗いにこの石けんを使っています。
固形石けんを洗濯に使うときのコツ
この石けんは固形のままでは溶けにくいので、使う前にあらかじめお湯で溶かして液状にしておきます。冬は常にストーブをつけているので、その上に石けんと水を入れておけば、自然に液状に。
野草を生かした入浴用石けん
我が家では、さきほどの洗濯用石けんとは別に作っています。入浴用石けんは、直接肌に触れるものなので、食用油が劣化した廃油ではなく、未使用のオリーブオイルを使用します。
シラカバ樹液で石けんをつくる
毎年3月末、シラカバ(白樺)の木から樹液を取ります。この樹液で「樹液石けん」を仕込むのです。「苛性ソーダ水」を作るときの水をシラカバの樹液に置き換えるようなイメージです。ですから、その他の作り方は「洗濯用石けん」と同じです。
シラカバの樹液は美容にいいとのことで、北欧では化粧品にもなっているそうです。でも、冷蔵庫のない我が家では化粧水だと日持ちしないので、石けんに加工します。
石けんで髪の毛も洗うならば、「クエン酸リンス」もおすすめ。クエン酸大さじ1を300ccのお湯にといてリンスのように使ってみてください。その際、洗い流すことも忘れずに。
台所で石けん作り
牛乳パック一本分くらいの量を仕込むのならば、換気をしっかりすれば、キッチンで作る事も可能です。もちろん手袋やゴーグルなどは忘れずに。
仕込んだあとは熟成棚に並べます。肌に触れるものなので、アルカリ数値を下げるため、洗濯石けんよりも長めのひと月半ほどしっかり熟成させ、鹸化を促します。
あるとき、シナモンの粉末を大量に落としてしまったことがありました。そのシナモンを無駄にしたくなくて、シナモン石けんを作ったこともありました。
この石けん、一つ使い終わる度に、「次は何を使おうかな?」と、楽しくなるんですよ。
手ごね石けん
石けん作りに使う苛性ソーダは劇物なので、取り扱いには注意が必要ですが、ここで紹介する安全な「石けん素地」を使った「手ごね石けん」ならば、子どもと一緒に作ることができます。ぜひ、ご家族で楽しんでみて下さい。
〈用意するもの〉
- 石けん素地(アロマオイルを扱うお店などで購入できる) 50g
- はちみつ 小さじ1
- 乾燥よもぎ粉末1グラム、水20グラム、ジップロック
- 炭粉末 小さじ1〜2(お好みで)
- 水 15g
- 保存用袋(ジップロックなど)
「米ぬか石けん」の場合は、米ぬか小さじ2程度、「ヨモギ石鹸」の場合は、ヨモギ1gに水を入れて沸かし、ヨモギ茶を作っておく
〈作り方〉
- 石けん素地と、米ぬか(または炭)をジップロックに入れ、振って混ぜる
- 1に、水分とハチミツを入れて混ぜる。(ヨモギ石けんの場合はヨモギ茶と石けん素地を混ぜる)
- 5分ほど混ぜたりこねたりしたら、袋から取り出し、好きな形を作る。もし、袋からとり出すときに、固くてボソボソしているようならば、少し水を追加してこねる。
- 形ができたら、クッキングシートなどの上に置いて、3日から5日ほど乾燥させたらできあがり。(乾燥させて溶けにくくする)
手ごね石けんを作っているうちに、薪ストーブから炭を取り出して炭石けんを作ろうと思いついたり、精米機から米ぬかを取り出して米ぬか石けんを思いついたり……。気がついたら娘も隣でコネコネ。娘が「ワカメ入れてみてもいいかなあ」と言い出しましたが、それはさすがに止めました。おうちにあるコーヒーや酒粕を混ぜ込んでみても楽しいと思いますよ。
*
自分の暮らしの一部を手作りしてみると、当たり前に使っていた頃とは違う視点が生まれます。石けんと環境のことを自分ごとのように考えるきっかけになったり、そんないつもと違う自分の視点を、とてもおもしろく思います。
それから、暮らしの中にまた楽しみが増えることも醍醐味。どんなものを作ろうか考えることも、子供たちと手を動かすことも、お風呂でワイワイ使うことも、全てが楽しいです。
みなさんの暮らしのなかにもワクワクが少しでも増えますように。
- 第1話(6月12日) 私のパーマカルチャー
- 第2話(6月26日) 極寒のマイホーム
- 第3話(7月10日) 雨漏りとペンキ塗り
- 第4話(7月24日) トイレを手作りする
- 第5話(8月21日) お風呂を手作りする
- 第6話(8月28日) 断熱のお話
- 第7話(9月18日) 我が家の電力自給
- 第8話(9月27日) 北海道大停電 頼りは太陽光発電と人のぬくもり
- 第9話(10月13日) 水を自給する
- 第10話(10月25日) 暖房を自給する(前編)
- 第11話(11月9日) 暖房を自給する(後編)
- 第12話(11月28日) スーパーで野菜を買わない実験
- 第13話(12月15日) みんなで畑づくり 柵の設置、定植
- 第14話(1月5日) ニワトリ小屋づくり(前編)
- 第15話(1月22日) ニワトリ小屋づくり(後編)
- 第16話(2月20日) 食の自給① 梅干し&納豆
- 第17話(2月29日) 食の自給② 麹、味噌、醤油
- 第18話(3月15日) 食の自給③ 冬を乗り切るための漬け物づくり
- 第19話(4月9日) 食の自給④ 薪ストーブを使ってつくる干し野菜&おやつ
- 第20話(5月16日) 服作り(前編)
- 第21話(6月24日) 服作り(後編)
- 第22話(9月予定) 石けん作り
\祝単行本化!/
1年間にわたり現代農業WEBで連載してまいりました本連載が、単行本になりました!
北海道札幌市の山奥で「パーマカルチャー研究所」を運営。パーマカルチャーとは、持続可能な暮らしのこと。家族4人で自給自足の暮らしをしながら、その暮らしから得られたパーマカルチャー的価値観を伝えることを仕事としている。著書『北の国から 家族4人で幸せ自給生活』(農文協)が発売中。
(写真提供:金本綾子)
住まい・水・電気・薪・衣食までぜんぶ
三栗祐己・三栗沙恵 著
衣食住の生活技術や水・エネルギーの自給で、豊かで楽しい暮らし。プレハブの住まい、オフグリッド太陽光発電、薪ストーブ、野菜の貯蔵や保存食作り、衣類や石けんの手作りなど、「自給生活」を楽しむコツを大公開。