連載記事一覧 植物はあれもこれも薬草です 【植物はあれもこれも薬草です】第7回「ヤブカンゾウ」 根は生薬、葉は山菜 蕾は鉄分豊富な高級食材 2023-07-19 岡山・松原徹郎 この連載は、月刊『現代農業』の2020年1月~2021年12月まで全24回にわたって掲載された連載「植物はあれもこれも薬草です」です。身近な薬草を毎日の暮らしに取り入れるための知恵が満載です。病気になりにくい身体づくりを実現しましょう! ヤブカンゾウ ユリ科ワスレグサ属。八重の大きな花が特徴。蕾はアスパラガスにも似た味わい(イラスト:久郷博子) 1年の間に何度も楽しめる 植物の多くは、春先に芽を出し、夏に育ち、秋に枯れていきます。そのどこか一つの時期に採集して薬草や食材として利用するのが普通です。しかし、なかには時期ごとに何度も採集して利用できる薬草もあります。今回紹介するのは、そうした1年に複数回利用できる植物の代表例、ヤブカンゾウ。 春先は葉を山菜のように食べられて、梅雨が明け始める頃からは蕾や花が食べられる楽しみの多い植物で、そのどれもが薬効を期待できる有用な薬草でもあります。 もともとは奈良時代くらいのかなり古い時代に、食用目的で海外から持ちこまれたといわれており、現在は本州以南の里山などに広く分布しています。皆さんもオレンジ色の大きな花が固まって咲いている姿を見かけたことがあるのではないでしょうか。 同じ仲間にノカンゾウやユウスゲがあります。これらはもともと日本に自生していた種類で、現在はごくたまに草地などに生えています。どれも姿が似ていますが、ヤブカンゾウの花が八重なのに対し、これらの花は一重です。その他、信州などの高原でみられるニッコウキスゲも仲間です。 不眠症の生薬、シカ害に強い ユリ科の植物なので丸い塊がいくつも連なったような形の球根が特徴です。これを干したものが萱草根《かんぞうこん》という生薬になり、利尿、消炎、止血、膀胱炎、不眠症に用いられています。さらに、中国では忘憂草《ぼうゆうそう》とも呼ばれることがあります。服用すると憂鬱なことを忘れさせてくれる作用がある、というのがその名の由来のようです。 私の暮らす美作市上山集落にも棚田の周辺にとても多くのヤブカンゾウが生えます。明るい環境が好きなため、草刈りや野焼きを10年ほど続けてきたこの地域では、周辺の地域よりもたくさん生えている気がします。また、最近ニホンジカが増え、いろいろな野草が食害にあっていますが、ユリ科の植物はシカがあまり好まないのか、過密になるほど頭数が増えない限りは食べられずにすむようです。 採集は若葉からスタート 春の山菜のように楽しめるヤブカンゾウの若い葉。草丈15cmなら葉も軟らかい 毎年3月下旬になるとヤブカンゾウの採集が始まります。最初に楽しむのは葉です。群生しているヤブカンゾウを探し、草丈15cm以下の若い葉を摘み取ります。これ以上大きくなると、ゆでても繊維質が気になるのでサイズには気を使います。 葉は軟らかく、苦みや香りもほとんど気にならず、少し甘い上品な味です。一番の特徴はシャキシャキとした歯ごたえ。薄めの塩水で1~2分ほどゆでて、味噌、塩、マヨネーズなど好きな味付けで和えるだけで総菜が一つ完成です。わが家では味噌汁の具や炒め物にも使います。ヤブカンゾウの葉がとれる時期は毎年2~3週間ほどですが、その間は毎日わが家の食卓はヤブカンゾウの葉で賑わいます。 蕾はホウレンソウの20倍の鉄分 蕾入りのホットサンドは、おいしくて身体にいい、家族にも好評の一品(黒澤義教撮影) 梅雨も終わり、晴れ間が多くなってくる頃には、ヤブカンゾウも大きく生長します。草丈は数十cmになり、花茎が伸びて小さいバナナのような蕾がたくさんつき、次々と開花していきます。次に採集するのはこの蕾。中華料理では金針菜という高級食材として、野菜感覚で炒め物やスープなどに使われています。市販品もありますが乾燥したものがほとんど。生の蕾をとって食べるほうがおいしい。 わが家のおすすめメニューは金針菜のホットサンドです。パンに生のままヤブカンゾウの蕾とチーズを挟んで焼きあげます。風味が引き立ち、歯ごたえがよく、噛むと甘みも感じられてとても美味。もともとは中華料理の食材ですが、洋風料理にも合うのでわが家ではパスタやピザにもよく使います。 ヤブカンゾウの蕾には、タンパク質、ミネラル類、ビタミンBやC、カロテン、アミノ酸のアスパラギン酸などがバランスよく含まれています。とくに鉄分は豊富で、ホウレンソウの20倍も含んでいることがわかっています。 また、花もサッとゆでたり、炒め物や揚げ物にして、やはりおいしく食べられます。 草刈りでのダメージには注意 蕾と花。生育段階ごとに何度も採集できるありがたい薬草だ なお、蕾や花をとりたいなら、春先の草刈りで少し注意が必要です。ヤブカンゾウの芽が出てから草刈りをして、芽を刈ったりしてダメージを与えてしまうと、蕾がつかなかったり、ほとんど花が咲かなかったりします。芽が出てからは草刈りを我慢するか、ヤブカンゾウ以外の草だけを刈るようにします。 ヤブカンゾウの葉や蕾がとれる時期はちょうど季節の変わり目。体調を崩しやすい時期に採集できるのもこの草のいいところ。身近に生えていたらぜひ大事にして、積極的に食して未病に役立てたい薬草です。 ――次回は「ゲンノショウコ」を掲載予定です。どうぞお楽しみに。 ビワ( 6月6日) ハハコグサ (6月16日) タンポポ (6月21日) カキドオシ (6月27日) ハコベ(7月4日) クワ(7月12日) ヤブカンゾウ(7月19日) ゲンノショウコ(7月26日) ハギ(8月4日) オオバコ(8月24日) アザミ(9月6日) ヒキオコシ(9月14日) タラノキ(10月12日) スギナ(10月26日) ナズナ(11月17日) フキ(12月6日) イタドリ(1月9日) ドクダミ(2月21日) ツユクサ(3月19日) ノブドウ(4月23日) メナモミ(6月14日) カキ(7月13日) ナツハゼ(8月22日) ヨモギ(9月27日) 過去に月刊『現代農業』で連載された「植物はあれもこれも薬草です」は、「ルーラル電子図書館」でまとめて見ることができます。 過去の連載を読む この連載の著者の松原徹郎さんが代表を務める「草楽(そうらく) 」のホームページやイベント情報、オンラインショップなどへのリンクは以下のとおりです。 ▼草楽のホームページ▼ ▼草楽のネットショップ▼ ▼草楽のイベント情報など(facebook)▼https://www.facebook.com/ueyamasouraku 大地の薬箱 食べる薬草事典春夏秋冬・身近な草木75種村上光太郎 著薬草の恵みをもっとも効率よく取り入れる方法は「食べる」こと。そして薬草になる植物は春夏秋冬いつでも身近にある。75種の草木をおいしく食べる料理法を重視し、薬酒や薬草酵母、薬草茶の作り方まで紹介。 小さいエネルギーで暮らすコツ太陽光・水力・薪&炭で、電気も熱も自分でつくる農文協 編輸入任せのエネルギー問題を再考!ミニ太陽光発電システムや庭先の小さい水路を使う電力自給、熱エネ自給が楽しめる手づくり薪ストーブなど、農家の痛快なエネルギー自給暮らしに学ぶ。写真・図解ページも充実。 この記事を見た人への現代農業WEBおすすめコーナー 農家のくらし知恵袋 Tags: 薬草, 健康, 漢方