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【植物はあれもこれも薬草です】第12回「ヒキオコシ」 とにかく苦い胃腸の特効薬 

岡山・松原徹郎

この連載は、月刊『現代農業』の2020年1月~2021年12月まで全24回にわたって掲載された連載「植物はあれもこれも薬草です」です。身近な薬草を毎日の暮らしに取り入れるための知恵が満載です。病気になりにくい身体づくりを実現しましょう!

ヒキオコシ シソ科ヤマハッカ属。苦味成分に抗菌作用と抗腫瘍作用があることもわかってきた イラスト 久郷博子
ヒキオコシ シソ科ヤマハッカ属。苦味成分に抗菌作用と抗腫瘍作用があることもわかってきた(イラスト:久郷博子)

日当たりのよい丘や岩場で見つかる

 いよいよ寒い季節がやってきました。植物は地上部を枯らしてしまう時期。根を利用するものを書こうと思ったのですが、あまりにもいい薬草があるので少々時季外れですが紹介します。

 その名はヒキオコシ。聞きなれない名前かもしれませんが、シソ科の多年草で、北海道から九州に広く分布しています。年に2~3回程度草刈りされるような、日当たりのよい丘陵、山野に自生しています。私の住んでいる地域では棚田の石垣によく生えているので、明るい岩場も適地のようです。

 最初は見分けが少し難しいかもしれません。草丈は50~120cmとやや高く、葉は対生で9月頃に白い小さな花を咲かせるのが目印です。多年草で毎年同じ場所に生えるので、一度見つけられればその後は探しやすくなると思います。なお、日本海側や北日本には、紫色の花を咲かせる近縁種のクロバナヒキオコシが分布します。

日当たりのよい場所で草丈1m以上に大きく育つヒキオコシ
日当たりのよい場所で草丈1m以上に大きく育つヒキオコシ

とにかく苦い延命の草

 ヒキオコシという草の特徴はその苦みです。試してみるとすぐわかりますが、全草が苦い。葉の一部でも舌の上に載せたら、10分は舌に衝撃が残るほど苦みがあります。センブリという草も苦い薬草として有名ですが、それとも少し異なる苦みで、舌への衝撃は同等かそれ以上です。

 延命草というなんとも素晴らしい別名を持ちます。効能はなんといっても健胃作用。消化不良、食欲不振、腹痛、二日酔いの胸焼けなど、この薬草の煎じ汁を少し飲めばすぐによくなります。

 その昔、弘法大師が旅の道中で、道端で苦しんで倒れ込んでいる旅人に会い、近くに生えていた草を噛ませたら、立ちどころに治り起き上がったという言い伝えがあります。その草こそヒキオコシ。名前の由来もそこからきているそうです。

ヒキオコシの葉。少し噛んだだけでもしびれる苦みが口中に広がる(どちらも黒澤義教撮影)
ヒキオコシの葉。少し噛んだだけでもしびれる苦みが口中に広がる(どちらも黒澤義教撮影)
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苦味自体が薬効となる

 「苦味健胃」という言葉があり、そもそも薬草は苦味自体に薬効があります。胃壁には舌と同じように苦味受容体があり、苦い食べ物が胃に入ると、胃酸が多く出るようなのです。これをきっかけとして、食べたものを早く消化し、胃腸の動きを活発にすると考えられます。

 主な胃腸薬として用いられるキハダ、センブリ、ニガキなども苦味成分が薬効をもたらしているのです。ゴーヤー、コーヒー、青汁など苦い食べ物は意外と多く、大人になるとこうした食べ物のほろ苦さが心地よく感じられるのは、私たちが苦味健胃を本能的に実践しているためかもしれません。

5本で1年分の胃腸薬が作れる

 ヒキオコシは少量でもかなりの苦味(薬効)が得られるので、日常的に用いるというよりは、不調時の特効薬といった使い方になります。そのため、背の高い地上部を5本分もとれば、家庭で使う1年分の胃腸薬には十分。

 採取時期は花の咲く9月。地上部をとり、ハサミで数cm程度に細かく刻んで天日で乾燥させます。多量のアクが含まれているため黒っぽく変色していきますが問題はありません。

 使い方は乾燥したヒキオコシ10g程度を適量の水で煎じるだけ。強烈な胃腸薬のできあがりです。

急な腹痛が30分で回復した

乾燥させたヒキオコシ。煎じて飲めば胃腸の不調も吹き飛ぶ
乾燥させたヒキオコシ。煎じて飲めば胃腸の不調も吹き飛ぶ

 私も日常的に利用しているヒキオコシですが、村に来た台湾からの旅行者が腹痛を起こした時に、この煎じ汁を飲ませたところ、30分もたたないうちに回復して「日本は素晴らしい」と喜ばれました。

 また、慢性的な胃炎に悩んでいる人に乾燥葉を口に入れ、毎日噛みしめてもらっていたらすっかり治ってしまったということもありました。噛みしめるなんて苦そうと思うかもしれませんが、胃が悪い人は苦味の感度が下がっているようであまり感じないそうです。

 現代はストレス社会。暴飲暴食や精神的な悩みで胃に負担をかけている人が少なくありません。薬局の胃薬ももちろん効くでしょうが、身近にある自然のもの、自分の身の回りでとったものを利用できるということを覚えておくといっそう「安心」ですよね。

*月刊『現代農業』2020年12月号(原題:ヒキオコシ)より。情報は掲載時のものです。

――次回は「タラノキ」を掲載予定です。どうぞお楽しみに。

連載

過去に月刊『現代農業』で連載された「植物はあれもこれも薬草です」は、「ルーラル電子図書館」でまとめて見ることができます。

この連載の著者の松原徹郎さんが代表を務める「草楽(そうらく) 」のホームページやイベント情報、オンラインショップなどへのリンクは以下のとおりです。

▼草楽のイベント情報など(facebook)▼

https://www.facebook.com/ueyamasouraku

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