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【植物はあれもこれも薬草です】第5回「ハコベ」 強力な消炎作用 歯肉炎にハコベ塩

岡山・松原徹郎

この連載は、月刊『現代農業』の2020年1月~2021年12月まで全24回にわたって掲載された連載「植物はあれもこれも薬草です」です。身近な薬草を毎日の暮らしに取り入れるための知恵が満載です。病気になりにくい身体づくりを実現しましょう!

5月は日陰でたくさん見つかる

ハコベ ナデシコ科ハコベ属。白い5弁の花をつける。花弁がそれぞれ2つに深く裂けているので10花弁のように見える イラスト 久郷博子
ハコベ ナデシコ科ハコベ属。白い5弁の花をつける。花弁がそれぞれ2つに深く裂けているので10花弁のように見える (イラスト:久郷博子)

 5月頃になると春の薬草も盛りを過ぎてきます。ただし、この時期の草の生育は、日陰と日なたで大きく変わります。日なたではもうタネをつけている草も、日陰ではまだつぼみがついたばかりといった具合です。日なたと日陰に大きな生育差が出る傾向は、5月いっぱいまで続きます。

 今回紹介するのはハコベ。私の住む上山集落では4月が盛りの薬草ですが、地域によっては5月でも少し日陰な場所にまだまだたくさん見られます。ハコベの効能は半端ないので、ぜひ知っていただきたい身近な薬草の一つです。

開花期を迎えたハコベ
開花期を迎えたハコベ
ハコベから作ったハコベ塩で歯を磨ぐ。薬草の力で口の中の悩みもスッキリ解決
ハコベから作ったハコベ塩で歯を磨ぐ。薬草の力で口の中の悩みもスッキリ解決

ハコベが生えていたらいい畑

 ハコベ類は日本全国にとどまらず、寒帯~熱帯まで世界各地に分布するグローバルな草です。ハコベは総称で、日本には十数種のハコベが生えています。全草が真緑で葉も花もやや大きいミドリハコベ、葉も花も小さく茎がやや褐色を帯びるコハコベ、すべてが大きいウシハコベがメジャーでしょうか。最も近代になって入ってきたコハコベを最近はとくによく目にします。

 種類によって草丈は10~60cm程度。越年草もしくは一年草ですが、気候によっては多年草として何年も育つことがあります。葉は対生で、茎の片側だけに長く白い毛が一列に生えているのが特徴です。水田や畑のアゼなどの湿った場所によく群生します。

 草刈りや耕耘をやらないようになった場所で、他の背の高い多年草が覆うようになると、ハコベはすぐに姿を消してしまいます。また、土中のミネラルを多く要求するようで、堆肥や有機物が多く施された畑は群生します。化学肥料ばかりやっている畑ではいつの間にか見えなくなるので、指標性がある草といえます。私はハコベが生えていたら「いい畑」と判断しています。

強力な消炎作用、活用の歴史は長い

 ハコベは万葉集にも登場します。中国では新芽を野菜として、1700年前から食べてきた歴史もあります。ビタミン類、ミネラル類、フラボノイド、サポニン、クマリンを豊富に含みます。全草を天日で乾燥したものが繁縷という生薬となり、体の炎症を止める効能が非常に優れています。

 民間薬としても健胃、整腸、便秘、腹痛、利尿、催乳などさまざまな疾病の治療に用いられてきました。とくに消炎作用は強く、搾り汁を塗れば歯槽膿漏や歯肉炎、胃腸炎、虫垂炎(盲腸)が緩和し、皮膚の腫れや荒れも鎮めるなどの効果が知られています。どの成分がどう効いているのか未解明な部分は多いですが、ハコベのもつ豊富なミネラルがその要因かもしれません。

カイワレダイコンのように食べる

生のまま食べてもおいしい 生食する場合は指でつまんで柔らかい部分だけを採取する
生のまま食べてもおいしい 生食する場合は指でつまんで柔らかい部分だけを採取する

 次に利用法です。皆さんも実際にやってみるとわかりますが、ハコベは非常に水気の多い草で、乾燥させるとカッスカスになってしまいます。繊維質ばかりが目立ち、淡褐色に変色し、使い勝手も悪い。そのため、ハコベは生のまま使うか、搾り汁を使うのが効率的だと思います。

 生のまま野菜のように使う場合は、生えているハコベの先端を指でつまみ、簡単にちぎれる部分だけ採集します。自然と切れる部分までが繊維が柔らかく、食べやすい食材となるためです。クセがなく苦みもほとんどない草なので、カイワレダイコンのように、そのままサラダに加えたり、味噌汁の実として浮かべたりして使えます。天ぷらにしたり、お好み焼きの具に加えたりするのもオツです。

長期保存できるハコベ塩

 搾り汁を利用して作るハコベ塩は、長期保存ができて一番おすすめの利用法です。搾り汁を使う場合は、できるだけ効率よく大量に汁をとれるよう、採取するときに根元付近からガバッと抜き取ります。どうしてもゴミや他の草が混じるため少し面倒ですが、ミカンコンテナ一つ分とれば大きめのボウル約半分の汁が搾れます。葉も茎も大きいウシハコベはとくに効率よく搾り汁がとれるので、慣れた人はウシハコベばかり狙うようです。

 搾り汁ができたら、塩を体積で同量程度混ぜた後、フライパンで弱火で炒りながら乾燥させていくと、きれいな緑色のハコベ塩ができます。ハコベ塩は料理に使ったり、歯磨き粉の代わりに使ったりします。歯槽膿漏や歯肉炎をはじめ、内皮外皮さまざまな炎症への効果が期待できます。私は年に1回ぐらい逆流性食道炎のようになることがあるのですが、ハコベ塩を適量、何回かに分けて舐めるだけで、かなり症状が緩和するので助かっています。

 ハコベは鳥のエサにもされてきたようで、ヒヨコグサという呼び名もあります。実際、ニワトリにいろいろな草を混ぜて食べさせると、最初にハコベから食べていきます。ニワトリのほうが体によいものを知っているなと思う今日このごろです。

搾り汁でハコベ塩

ハコベは水気が多く、手で搾るだけで大量の搾り汁が出る
ハコベは水気が多く、手で搾るだけで大量の搾り汁が出る
搾り汁と同量の塩を混ぜ、乾燥させてハコベ塩を作る。薬効豊富な調味料として重宝する
搾り汁と同量の塩を混ぜ、乾燥させてハコベ塩を作る。薬効豊富な調味料として重宝する

*月刊『現代農業』2020年5月号(原題:植物はあれもこれも薬草です(5)ハコベ)より。情報は掲載時のものです。

――次回は「クワ」を掲載予定です。どうぞお楽しみに。

過去に月刊『現代農業』で連載された「植物はあれもこれも薬草です」は、「ルーラル電子図書館」でまとめて見ることができます。

この連載の著者の松原徹郎さんが代表を務める「草楽(そうらく) 」のホームページやイベント情報、オンラインショップなどへのリンクは以下のとおりです。

▼草楽のイベント情報など(facebook)▼

https://www.facebook.com/ueyamasouraku

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