岡山・松原徹郎
この連載は、月刊『現代農業』の2020年1月~2021年12月まで全24回にわたって掲載された連載「植物はあれもこれも薬草です」です。身近な薬草を毎日の暮らしに取り入れるための知恵が満載です。病気になりにくい身体づくりを実現しましょう!
奈良時代から栽培されてきた
そろそろ秋も深まる季節。今回はカキです。植物としての正式な名前は「カキノキ」で、その実が皆さんおなじみのカキです。
カキノキもれっきとした薬木です。「カキが赤くなると医者が青くなる」ということわざもあります。カキが赤くなる時期は、天候がよく食べ物も美味しくなるので、体調を崩す人は少なく医者いらずという意味のようですが、カキがもつ健康への効果も手伝って生まれた言葉だと私は思います。
カキノキは、中国が原産といわれていますが、弥生時代から日本にもあったようです。奈良時代には栽培もされていました。その後、次々と品種改良され、江戸時代末にはすでに200品種、現在では1000品種以上あるといわれています。
驚くほど水に強い
農家の庭に必ずカキが植えられるようになったのは江戸時代末から近代にかけてのこと。カキが日本の秋の景色の定番になったのもこの頃のようです。
また、カキは水に強い。昔、植生調査の仕事をしていて、ダム沿いの植物を調べたことがあります。その際、斜面に生えているカキが、どうやら1カ月ぐらいは水の中に沈んでいても平気で生きていることがわかり、驚愕した覚えがあります。実際、日本で大規模にカキを栽培している産地の多くは川沿いにあります。カキの水に対する強さを考えるとうなずける話です。
ヘタ、実、タネ それぞれに薬効あり
カキの薬効でいちばん有名なのは、じつはしゃっくり止めに役立つヘタ。干したヘタを煎じて飲みます。
果実を青いうちにとって作る柿渋、熟した果実を使って作る干し柿や柿酢には、それぞれ大量にタンニンやミネラル類が含まれています。これらの働きで動脈硬化や高血圧、体内の止血などに効果があるとされています。
これからの季節なら生のカキをそのまま食べることが多いと思いますが、二日酔いに効き、酒毒を消してくれます。また、タネの黒焼きをなめると認知症に効果があるともいわれています。
ただし、カキを食べると、利尿作用で用を足すときに体温が奪われたり、大量のタンニンが鉄分を奪って貧血になったりして身体を冷やす原因となります。便秘になりやすくなるので食べ過ぎにはちょっとご注意を。
ビタミンたっぷりの柿の葉茶
私が住んでいる村にも、家周りや田畑沿いにカキの古木がたくさんあります。わが家もそのまま食べる以外に、干し柿を作ることもあります。ただ、最近は10~11月頃に異常に暖かい日が多く、そのたびにカビが出てしまうのであまり作らなくなっています。
かわりに、毎年必ず作るようになったのは柿の葉茶です。6~7月の大きくなった葉を採り、1~2日陰干ししてカラカラに乾かすだけ。この乾燥葉を煮出すと、やや渋みはありますが、香りがよくスッキリした味で夏にぴったりのお茶になります。今ではわが家の夏の風物詩となりつつあり、毎年作ったそばから煮出して飲んでいます。
カキの葉にはレモンの数倍~20倍のビタミンCが含まれています。しかも熱変性しないプロビタミンCという成分で、肌のしみやそばかす、ニキビを緩和する美肌効果があり、免疫力アップにも役立ちます。
また、タンニンやルチンという成分も含まれていて、血圧を安定させたり、血管の状態をよく保ったりするなどの影響をもたらします。
私も柿の葉茶を日常的に飲み続けるようになってから、ひどい日焼けの後でもヒリヒリが早く収まったり、抵抗力がつくのか猛暑の中でも元気に動けたりすることを感じています。
ちなみに、葉で寿司飯を包む柿の葉寿司は香りづけや飾りではなく、ビタミンCの殺菌効果で長持ちさせる知恵です。
必ず葉を加熱してから干す
なお、柿の葉茶を作るとき、一つだけポイントがあります。それは「葉を煮てから、または蒸してから干す」ことです。時間はどちらも数十秒でかまいません。じつはカキの葉をちぎると、葉の中の酵素が働いてビタミンCが失われていきます。そこで加熱して酵素の働きを止める必要があるのです。
実際、加熱処理をしないで干すと、ビタミンCがほとんどない柿の葉茶になってしまいます。カラカラに乾かしておけば、夏以降も一年中柿の葉茶を楽しめます。ただし、9月以降の葉はタンニンが増えすぎて逆に悪影響もあるようです。盆前までに採った葉で作るのがおすすめなので、ぜひ来年の夏に忘れずに作ってみてください。
◇
うちの村でもそうですが、食べ物が何でも豊富にある昨今では、木にカキがなっていても採る人は少なく、カラスやヒヨドリがつついている光景をよく見ます。邪魔だから切られてしまう古木も多い。
でも、健康に役立つカキの価値が見直される時代が、いずれまたやってくると思っています。何せカキノキの学名は、ラテン語で「Diospyros kaki=神様の食べ物」っていうそうですから。
*月刊『現代農業』2021年10月号(原題:カキ)より。情報は掲載時のものです。
――次回は「ナツハゼ」です。どうぞお楽しみに。
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