北海道・三栗祐己
こんにちは。パーマカルチャー研究所の三栗祐己です。
我が家では、太陽光発電で電気を自給したり、冷蔵庫や電子レンジを使わないなど、電気の利用に関してもちょっと変わった暮らしをしています。
今回は、我が家の電気事情についてお話しします。
太陽光発電に挑戦
タイで見た自作の水供給システム
2013年、家族で訪れたタイのパーマカルチャー・ファームで、僕は初めて、太陽光発電をオフグリッドで使っているのを見ました。
オフグリッドとは、電力会社の電線とは完全に切り離されていて、電力を自給自足している状態のこと。このファームは山奥にあり、水道も電気も通っていませんでしたが、自作の水供給システムがあったのです。
システムといっても非常にシンプル。井戸の屋根の上に太陽光パネルが設置され、パネルでつくられた電力は屋根裏のバッテリーに蓄えられます。蓄えた電気で井戸のポンプを動かし、50mほど離れたキッチンに水を補給するというわけです。
キッチンで実際に水を使わせてもらいましたが、水圧が特に弱いことはなく、蛇口もあるため、そこだけ見れば村に水道が通っていないとはわからないと思います。
こんなに簡単な方法で水供給システムが作れること、必要な太陽光パネルやポンプが思ったよりも小さくてすむこと、そして何よりそれを実際に使って暮らしていることに感動してしまいました。
日本に帰ってからもしばらくはその興奮が冷めやらず、自分も太陽光発電をやってみたいと思いました。しかし当時のアパート暮らしでは、屋根の上に太陽光パネルを設置することなどできません。
A4サイズ、7Wで始めた太陽光発電
そもそも太陽光発電といえば、普通は一軒家の屋根の上に設置するもので、初期費用がとても高いというイメージがありますよね。僕もそうでした。しかし調べてみると、オフグリッド太陽光発電はかなり小規模から始められることがわかりました。
僕が最初に購入したのはA4サイズの小さなソーラーパネルです。2万円ほどで購入できて、アパート暮らしでも、手軽にすぐ使うことができます。最大出力は7Wと小さいのですが、パネルの裏面で単3電池4本を充電することができます。また、USBケーブルを繋げられるので、ソーラー発電の電気を単3電池に溜めて、携帯電話などの充電ができます。
さっそく自分の携帯電話を充電してみると「今、通話できるのは、太陽のエネルギーのおかげだ!」と、なんだか誇らしい気分になりました。
100Wの太陽光システムを導入
その後、もっと大きな発電をしてみたいと思い、100Wのオフグリッド太陽光システム一式(ソーラーパネル、専用バッテリー、充電コントローラー、インバーター)を6万5,000円で購入、当時住んでいたアパートのベランダに設置しました。5Wの小さな照明はもちろん、スマホやパソコンの充電、キッチンの照明などに使うことができました。100Wあれば、テレビや扇風機も動かせます。
現在は、主に100Wのソーラーパネルと、新たに購入した「ポータブル電源」(下)を組み合わせて使っています。
オフグリッド太陽光システムの概要と、新しく導入したポータブル電源について、詳しくは第8話でお話します。
レンジ、TV、冷蔵庫にサヨウナラ
ゲーム感覚で電気代を減らしていく実験
ただし、太陽光発電で浮く電気代は大したことありません。頑張っても、月々200円程度でしょう。それよりも、ソーラーシステム導入の一番のメリットは、家で使う電気を強く意識するようになったことです。わが家は月々どれくらいの電気を使っているのかを、よく考えるようになりました。そして、ゲーム感覚で電気代を減らしていく実験を始めました。
電気の契約アンペア(A)を、20A→15A→10Aと段階的に減らし、ドライヤー、炊飯器、電子レンジ、オーブンを手放していきました。これにより、オール電化時代に8,000円だった電気代は、1,000円台にまで下がりました。
冷蔵庫を捨てて冷凍庫を購入
でも、冷蔵庫を手放すことにはかなりのハードルを感じていました。そんな時に冷蔵庫なし生活を送る人と話す機会があり、「冷蔵庫をやめて冷凍庫だけを使ったらいいよ」とアドバイスをいただきました。冷凍庫があれば肉・魚の冷凍保存ができるうえ、発泡スチロールの箱に中身を凍らせたペットボトルを入れておけば冷蔵庫代わりになるというのです。
冷蔵庫を捨てるために冷凍庫を買うという若干の矛盾を感じながらも、冷蔵庫を手放すことができました。
電気代、月500円生活の実際
冷凍庫も手放し、契約アンペアは5A
2015年には、タイのパーマカルチャー・ファームに家族4人で2カ月間滞在しました。ここでは、もちろん冷蔵庫も冷凍庫も使いません。電気を使わない自然のなかでの暮らしは、日々、驚きに満ちていました。
なかでも驚いたことの一つは、健康のために食べるべきだと思っていた肉や魚をまったく食べない暮らしをしていたことでした。その暮らしを続けた僕たち家族に健康上の悪影響はまったくなく、むしろ体調がよくなったくらいです。肉とか魚って、別に食べなくても生きていけるんじゃない? そんなことを実感して帰国。家に帰ってきて、冷凍庫を見て妻と話しました。「これ、もういらないよね」。
契約アンペアを10Aから5Aに減らすと、電気代は1,000円を切るようになり、最も電気を使わない時は500円台にまで下がりました。(ちなみにこれは、山暮らしをする前の2016年、4人家族のアパート住まいのときのお話です)
妻から見た電化製品の少ない暮らし
このような話をしていると、必ずと言っていいほど聞かれるのが、「その暮らし、奥さんは大丈夫なんですか?」ということです。そこで、あらためて妻に聞きました。
妻も、2011年の原発事故をきっかけに、暮らしについて考えるようになりました。とくに、「自分の暮らしを支えているエネルギー、水、食料、衣服などがどのようにつくられ、届いているのかについて、ほとんど知らなかった」と。タイのパーマカルチャー・ファームに行ったときには、「暮らしに必要な物が全部、身近なところで手に入る!」と、妻も僕と同様に感動していました。
ですから彼女も、電化製品の少なくなったいまの暮らしをこんなふうに楽しんでいます。
- 冷蔵庫なし……食べ物がムダにならなくなった。冷蔵庫があると、とりあえず冷蔵庫に入れて安心し、その存在を忘れて腐らせてしまうこともあった。いまは、タイでの暮らしと同じように、作ったおかずはその時か次の食事で食べきってしまうので、食べ物をムダにしてしまうストレスから解放された。
- テレビなし……家族との会話が増えた。子供たちがテレビばかり見て困るということもない。
- 炊飯器なし……圧力鍋を使って炊飯。鍋炊きって、なぜか炊飯器よりおいしい。
- 電子レンジ・オーブンなし……冷えた食べ物は鍋などで温められるからそれで十分。油と砂糖の入った洋菓子を食べることもほとんどなくなった。
- ドライヤーなし……タオルで拭いて、あとは自然乾燥で問題ありませんよ。
ちょっと(だいぶ?)変わった暮らしですが、僕たちは、不便さよりも、少ないモノやエネルギーで暮らせる快適さのようなものを感じて、日々過ごしております。
次回(9月下旬)は、引き続き、オフグリッド太陽光システム、そして、2018年に発生した北海道ブラックアウト(大停電)時の我が家の暮らしについてです。お楽しみに。
- 第1話(6月12日) 私のパーマカルチャー
- 第2話(6月26日) 極寒のマイホーム
- 第3話(7月10日) 雨漏りとペンキ塗り
- 第4話(7月24日) トイレを手作りする
- 第5話(8月21日) お風呂を手作りする
- 第6話(8月28日) 断熱のお話
- 第7話(9月18日) 我が家の電力自給
- 第8話(9月27日) 北海道大停電 頼りは太陽光発電と人のぬくもり
- 第9話(10月13日) 水を自給する
- 第10話(10月25日) 暖房を自給する(前編)
- 第11話(11月9日) 暖房を自給する(後編)
- 第12話(11月28日) スーパーで野菜を買わない実験
- 第13話(12月15日) みんなで畑づくり 柵の設置、定植
- 第14話(1月5日) ニワトリ小屋づくり(前編)
- 第15話(1月22日) ニワトリ小屋づくり(後編)
- 第16話(2月20日) 食の自給① 梅干し&納豆
- 第17話(2月29日) 食の自給② 麹、味噌、醤油
- 第18話(3月15日) 食の自給③ 冬を乗り切るための漬け物づくり
- 第19話(4月9日) 食の自給④ 薪ストーブを使ってつくる干し野菜&おやつ
- 第20話(5月16日) 服作り(前編)
- 第21話(6月24日) 服作り(後編)
- 第22話(9月予定) 石けん作り
\祝単行本化!/
1年間にわたり現代農業WEBで連載してまいりました本連載が、単行本になりました!
北海道札幌市の山奥で「パーマカルチャー研究所」を運営。パーマカルチャーとは、持続可能な暮らしのこと。家族4人で自給自足の暮らしをしながら、その暮らしから得られたパーマカルチャー的価値観を伝えることを仕事としている。著書『北の国から 家族4人で幸せ自給生活』(農文協)が発売中。
(写真提供:金本綾子)
小さいエネルギーで暮らすコツ
太陽光・水力・薪&炭で、電気も熱も自分でつくる
農文協 編
輸入任せのエネルギー問題を再考!ミニ太陽光発電システムや庭先の小さい水路を使う電力自給、熱エネ自給が楽しめる手づくり薪ストーブなど、農家の痛快なエネルギー自給暮らしに学ぶ。写真・図解ページも充実。
パーマカルチャー 農的暮らしの永久デザイン
ビル.モリソン 著
田口恒夫 訳
小祝慶子 訳
都市でも農村でも、自然力を活かして食物を自給し、災害に備える農的暮らしの環境調和型立体デザイン。農地、家まわりの土地利用、水利用、家屋の建て方まで具体的に解説。経営システム全体で環境への適応をめざす。