北海道・三栗祐己
祝単行本化!2023年6月から1年間にわたってお届けしてまいりました本連載が、このたび、一部書き下ろしを加えたうえ編集され、『北の国から 家族4人で幸せ自給生活』三栗祐己・三栗沙恵 著(農文協)として発売されました。
現代農業で2021年4月から1年間掲載されていた人気連載「北の国から、幸せ自給生活」が、新しい要素を盛りだくさんに加え、現代農業WEBで復活しました! 住まいや電気(太陽光発電)、水道などを自分たちでつくりながら、働きすぎず、穏やかに、豊かに暮らしている三栗さん一家のお話です。
*今回の執筆は三栗さんの奥さんの沙恵さんです。
20話からは、衣食住の「衣」の自給、服作りがはじまります。
7年ほど前からはじめた服作り。友人からミシンを貰ったのがきっかけで、中学の家庭科以来のお裁縫です。
服作りにハマる
あるとき、鼠蹊部(太ももの付け根あたり)を締めつけすぎない「ふんどしパンツ」を縫ってみたところ、思いのほかうまく出来上がり、それ以来服作りの楽しさにすっかりハマってしまいました。そして今、気づけば家族4人分の服を作っています。
子供服から始まり、自分用、パパ用、家族分の肌着・帽子・カバン 、布ナプキン、エプロンと、普段身につける衣類はほぼ全てトライしました。
探すのに少し手間はかかりますが、作るときに薬剤を極力使っていない綿などの生地をつかうようにしています。
我が家の服作りの手順
準備
家族全員分の服を作るので、まずはそれぞれの希望を聞いて企画書をつくります。
それをもとに、イメージ図を描き、生地の種類や柄等を決めていきます。
私は裁断から縫製までの工程が3時間程度に収まることを目安に、型紙を選ぶようにしています。それくらいの作業ボリュームならば、早起きして子どもたちが寝ている間にできますから。
型紙の用意ができたら、生地を水に浸す「水通し」という作業をします。
ほとんどの生地は水分を含むと縮む性質があるので、この作業で最初の洗濯で意図せず生地が縮んでしまうことを防ぐのです。
裁断
ここからは、ズボンを例に説明します。
水通しが終わったら裁断します。
4つに裁断した本体と、ポケットなどの細かなパーツとをパズルのように組み合わせていきます。
ミシン作業
裁断した布を一つずつ縫い合わせていきます。
ここまでは「ズボン」の仕立て工程でしたが、ここからは「襟付きシャツ」作りの途中経過です。
手間がかかるメンズシャツ。途中経過
こちらはパーツを縫い合わせ、「前見頃」(シャツの全面)と「後ろ見頃」(平面)が出来上がった状態。
こちらに「袖」と「襟」がつき、最後にボタンをつけていきます。
仕上げ
襟付きシャツ作りの仕上げは、片方にボタンホールを開け、もう片方にボタンを縫い付けたら出来上がり。
先ほどの写真で登場した仕立て中のメンズパンツも、脇を縫って、ウエスト布を縫い付け、ゴムを入れたら出来上がりです。
完成品がこちら。
家族の体型に合わせて手足や首まわりを調整できるのも手作りのいいところ。写真のメンズシャツ、裁断前は、生地がパジャマにしか見えませんでしたが、仕立て上がったらバチっと決まりました(笑)。
*
ミシンを踏みながらいつも思うのです。家族のために仕立てる服は、お守りみたいなものだなあ、と。その日一日、それぞれが元気で過ごせるように、昔のお母さんもそんな風に思いながら着物を解いて、家族の服を仕立てていたのでしょうか。
さて、家族みなの服が仕上がりました。今度は自分の番です。自分の服はことさらワクワクしながらミシンを踏みます。
そんなときに、ふと、自分に秘められていた力に驚きました。「ここまでうまく縫えるようになったのは、自分の好奇心の賜物だなあ。自分には何かを生み出せる「魔法の手」という宝物が与えられていて、そして、その手が、自分を喜ばせ、こんどは他の誰かを笑顔にさせることができる」。改めてこの人生に感謝で一杯になりました。
好きな服を着て過ごす日々は、誰に褒められずとも心弾む日々。
暮らしにかける時間が、多くのことを気づかせてくれるんですね。
初心者へのアドバイス――上達への近道
ここからは私の体験談をもとにした初心者へのアドバイスです。
あるとき、服を作ってみたいと思い、洋裁の本を購入し、いざ始めようとすると様々な壁にぶつかりました。まず本に書かれている生地の名前の種類がわからない。
女の子用ならフリフリ襟のTシャツも可愛いな。でもTシャツの生地なんて家庭用ミシンで縫えるの!?などなど疑問の数々……。
さらに、購入した本から型紙を写しとろうとしたら、いくつものサイズの線が並んでいて写し取るのに一苦労……その上縫い代も自分で新たにつけねばなりません。右も左もわからぬ状態で、洋裁本をもとに作った服はあまりにも手間がかかりすぎて、一枚作っておしまい、でした。
ということで、ここでは型紙のおすすめの購入方法をご紹介します。
①パターンナーさんが営む型紙専用のネットショップ
私がそんなときに見つけたのが、パターンナーさんが営む型紙専用のネットショップ(以後、型紙屋さん)でした。パターンナーとは、型紙を起こすプロのことです。
型紙屋さんでは、サイズごとに別々の型紙が販売されていて、もちろん縫い代も初めから付いています。ですから、それをハサミで切り取ったらすぐ始められます。
そして疑問があれば、パターンナーさんに聞くこともできます。
「この型紙にはこんな生地が向いているよ」
「それならここの生地屋さんはどうかな?」
「その体型ならば市販で買うサイズよりも少し大きい方がいいね」
型紙に添えられる仕様書(作り方)もとっても丁寧で、ネットの型紙屋さんは私にとって洋裁学校になりました。
これまでは、洋裁本どおりに作ると生地が薄すぎて「想像したのと全然違う!」こともありましたが、型紙屋さんの型紙で作ると、着てみたらとても可愛い。値段は少し張りますが、困ったときはすぐに相談でき、そして、型紙を写しとる手間ががかからないため時短できます。
②オリジナルの型紙を売っている生地屋さん
次におすすめは、オリジナルの型紙を売っている生地屋さんです。はじめての場合は、「生地と型紙のセット」がいいでしょう。一度作ると、生地選びのコツもわかります。セットの生地は間違いなく型紙に合うものなので、最後まで安心して作ることができます。
成功体験を味わいながら、まずは「楽しい」という気持ちを育てていく。
それが、独学でスキルを上げていく、1番の近道だと思います。
次回は、服作りの続き(後編)です。お楽しみに。
- 第1話(6月12日) 私のパーマカルチャー
- 第2話(6月26日) 極寒のマイホーム
- 第3話(7月10日) 雨漏りとペンキ塗り
- 第4話(7月24日) トイレを手作りする
- 第5話(8月21日) お風呂を手作りする
- 第6話(8月28日) 断熱のお話
- 第7話(9月18日) 我が家の電力自給
- 第8話(9月27日) 北海道大停電 頼りは太陽光発電と人のぬくもり
- 第9話(10月13日) 水を自給する
- 第10話(10月25日) 暖房を自給する(前編)
- 第11話(11月9日) 暖房を自給する(後編)
- 第12話(11月28日) スーパーで野菜を買わない実験
- 第13話(12月15日) みんなで畑づくり 柵の設置、定植
- 第14話(1月5日) ニワトリ小屋づくり(前編)
- 第15話(1月22日) ニワトリ小屋づくり(後編)
- 第16話(2月20日) 食の自給① 梅干し&納豆
- 第17話(2月29日) 食の自給② 麹、味噌、醤油
- 第18話(3月15日) 食の自給③ 冬を乗り切るための漬け物づくり
- 第19話(4月9日) 食の自給④ 薪ストーブを使ってつくる干し野菜&おやつ
- 第20話(5月16日) 服作り(前編)
- 第21話(6月24日) 服作り(後編)
- 第22話(9月予定) 石けん作り
\祝単行本化!/
1年間にわたり現代農業WEBで連載してまいりました本連載が、単行本になりました!
北海道札幌市の山奥で「パーマカルチャー研究所」を運営。パーマカルチャーとは、持続可能な暮らしのこと。家族4人で自給自足の暮らしをしながら、その暮らしから得られたパーマカルチャー的価値観を伝えることを仕事としている。著書『北の国から 家族4人で幸せ自給生活』(農文協)が発売中。
(写真提供:金本綾子)
三栗さんも執筆している単行本「自分で地域で 手づくり防災術」が2023年11月1日に発行予定です!
自分で地域で 手づくり防災術
農文協 編
手づくり防災術とは、国や公共のインフラ(公助)に頼りすぎず、自給の力(自助)や地域の力(共助)で自然災害に備える工夫のこと。自然に逆らうのではなく、自然の力を生かしたり、回復させたりしながら災害を小さくする知恵や技が農村にはある。オフグリッドソーラーやロケットコンロによる小さいエネルギー自給や、スコップと草刈り鎌を使い空気と水の流れを回復させる「大地の再生」、水田の貯水機能を活かした「田んぼダム」、早期避難のための手づくり防災マップなど、土砂災害や豪雨災害、地震から地域を守る40のアイデアを収録。
↓こちらの本にも三栗さんの記事「オール電化から電力自給開始で、電気に愛着のある暮らし」が掲載されています。ぜひご覧下さい。
小さいエネルギーで暮らすコツ
太陽光・水力・薪&炭で、電気も熱も自分でつくる
農文協 編
輸入任せのエネルギー問題を再考!ミニ太陽光発電システムや庭先の小さい水路を使う電力自給、熱エネ自給が楽しめる手づくり薪ストーブなど、農家の痛快なエネルギー自給暮らしに学ぶ。写真・図解ページも充実。
パーマカルチャー 農的暮らしの永久デザイン
ビル.モリソン 著
田口恒夫 訳
小祝慶子 訳
都市でも農村でも、自然力を活かして食物を自給し、災害に備える農的暮らしの環境調和型立体デザイン。農地、家まわりの土地利用、水利用、家屋の建て方まで具体的に解説。経営システム全体で環境への適応をめざす。