果物の糖分と酵母菌が発酵を手助けしてくれる。酵素や抗酸化物質、ビタミンなど、作物の免疫力を上げて元気にする成分もいっぱい! 液肥づくりに使わない手はない。
古藤俊二
バナナもリンゴも身近にあふれている
私は、以前から循環型農園芸を実践してきました。例えば企業や家庭から排出される生ゴミのコンポスト化や、焼きガキの殻の石灰肥料化など、仕組みづくりから製品化までプランニングし、地域や農家に還元できました。
一歩離れて、スーパーや飲食店、一般家庭に目を向けてみて、私なりに気づいたことがあります。果物売り場にはだいたい一年中欠かさず、バナナとリンゴがあること。飲食店ではバナナやリンゴを使ったスイーツが多いし、一般家庭でも特にバナナはよく消費されているようです。バナナは南方の国から大量に輸入され、リンゴは青森県や長野県での生産量が多いこと、それぞれ日本人が好きな果物のベスト10に入っていることなどが考えられます。
皮には抗酸化物質がいっぱい
では、食べたあとの皮はどうなっているのでしょう。リンゴは皮ごと食べる人はいても、そう多くないし、バナナは必ず皮をむきます。一部は生ゴミリサイクルされているかもしれませんが、ほとんど廃棄ですよね。これはもったいないと考えました。
文献などで成分を調べると、バナナの皮はタンニンという強力な抗酸化成分が豊富で、リンゴの皮にはポリフェノール、β-カロテン、食物繊維などが多く含まれていることがわかりました。それもそうですよね。大切な実を守っている皮ですから、抗酸化物質は多いはず。これは、うまく使えそうだとひらめきました。
活性酸素が増えすぎて、作物が弱る
夏の高温乾燥で作物は悲鳴をあげています。特に近年の夏は35°C超えが当たり前ですし、夜は熱帯夜。作物はたまったもんじゃありません。作物は高温乾燥などのストレスを感じると自己防衛のために体内で活性酸素をつくります。ところが、高温乾燥が毎日続くと、活性酸素が増えすぎて、逆に自分の体が弱くなってしまうことが各研究機関によって解明されてきました。
「作物への適度なストレス」は免疫力の強化につながっていたかもしれませんが、近年の夏季の高温乾燥、秋季の熱帯夜、降雨不足、冬季の曇天、春季の高温化など、年間を通しての異常な天候は「作物への過度なストレス」となっているようです。それに伴って、活性酸素が体内に蓄積し、生育が悪化する要因の一つになっています。
なるほど、私たちの身体も暴飲暴食や寝不足などのストレスが原因で活性酸素が増えます。過剰な活性酸素は血管をもろくしたり、視力を低下させたりと、いい働きをしません。
菌液で発根力強化、脱ストレス
人の身体も作物もストレスから生まれる活性酸素を除去しなければなりません。そこで活躍するのが抗酸化物質です。バナナの皮やリンゴの皮に含まれるポリフェノールなどは利用価値大と考えました。
ただし、皮をそのまま土に投入しても、そう簡単に抗酸化物質は作物に吸収されないだろうと思い、発酵させることにしました。バナナの皮、リンゴの皮、ドライイースト、砂糖、水を材料にして「フルーツ菌ちゃん液」を手づくりするのです。
これを50倍に希釈して果樹や緑花木の株元にまけば、発根力強化。200~300倍に希釈して作物に葉面散布すると、生育ストレスの軽減になるでしょう。
これを50倍に希釈して果樹や緑花木の株元にまけば、発根力強化。200~300倍に希釈して作物に葉面散布すると、生育ストレスの軽減になるでしょう。
果物の皮も身近なバイオスティミュラント!?
活性酸素を除去したり、発根力を向上させたりするのに、新たな分野が着目されています。生物刺激剤のバイオスティミュラントです。これらの資材は植物やその周辺環境が本来持つ自然な力を活用することにより、健全な生育、ストレスへの耐性、収量、品質、収穫後の状態、貯蔵などに良好な影響を与えるものとされています。現在、ヨーロッパをはじめ、わが国でも微生物系やアミノ酸系、ミネラル系など多種多様な製品が出回っています。
南方の国の方々は、傷んだバナナを廃棄せず、生ゴミの発酵処理に活用していました。できた堆肥を畑に施し、作物を栽培するのです。
バナナやリンゴをはじめ、キウイフルーツ、ナシ、カキなど、旬の果物の皮にもそれぞれ特有の抗酸化物質があり、身近なバイオスティミュラントの一つなのかもしれません。
バナナの皮とリンゴの皮を使うねらい
弱った土は再生、元気な土であれば劣化させずに維持する。「苗半作」といわれるぐらい重要な苗の発根力。少ない水分でも生き抜く生命力。害虫被害にあっても戻ろうとする復元力……。やはり免疫力強化がテーマとなりますね。
皆さん、身近なものから、人、植物、環境づくり、いっしょに頑張ってみませんか。
(シンジェンタジャパン株式会社)
こちらの記事は、現代農業2024年10月号の試し読みです。ぜひ本紙でご覧ください
2024年10月号の「手作りバイオスティミュラント!? 作物の力を引き出す果物液肥」コーナーでは、以下の記事も収録されています。ぜひ本紙でご覧下さい。
- すぐ効く よく効く ブドウ発酵カルシウム(千葉・齋藤和さん、和守さん)
- エネルギーを生み出す!? ミカンとキウイとパイナップルの発酵液 只隈智国
- 3種類のオリゴ糖が作物にメッセージを送る 竹本大吾
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