北海道・三栗祐己
現代農業で2021年4月から1年間掲載されていた人気連載「北の国から、幸せ自給生活」が、新しい要素を盛りだくさんに加え、現代農業WEBで復活しました! 住まいや電気(太陽光発電)、水道などを自分たちでつくりながら、働きすぎず、穏やかに豊かに暮らしている三栗さん一家のお話です。半月に1回お届けします。

妻の沙恵です。
2月といえば、ちょうど麹の仕込み時期ですね。
我が家で使う主な調味料は、味噌、塩、醤油、油、砂糖、みりん。そのうちの味噌と醤油は自給しています。とくに、味噌は家族4人で年間36kgつくっています。
日本は、麹からつくられる調味料が多いですよね。それらは微生物の力を借りて発酵・熟成され、でき上がります。それってとても豊かなことだと思うんですよね。
麹をつくる
美味しい味噌をつくりたくて、製麹(せいぎく。麹をつくること)を「麹の学校」を主催するなかじさん(うかたま2023年春号)から教わり、つくるようになって8年たちます。いつも食べてるお米を、和セイロで蒸し、そこに種麹(たねこうじ。麹のもと)をまき、育てていきます。

お米が蒸し上がったときはいつも、幸せな気持ちになります。娘はこの香りにさそわれて、いつも皿を持って味見をしにやって来ます(笑)。
蒸したお米に種麹をふったら、丸2日かけて、お米に麹を生やしていきます。途中で手入れ(固まった米粒をバラバラにすること)をする度に、部屋中に麹の優しい香りが漂います。

この麹は、味噌、醤油、甘酒……と様々な調味料に変わっていきます。
手前味噌をつくる
味噌は、おもに麹と大豆、塩からつくられています。
我が家の味噌の配合は、麹1kg、大豆1kg、塩450gで、2年間熟成させます。ここは年間通して涼しいので、2年位おくと美味しくなるんです。

せっかく複数の樽で保存するので、麹歩合(こうじぶあい。麹と大豆の割合)をそれぞれ変えて仕込んでいます。
例えば、「基本の配合で仕込んだ」樽と「麹のみ1.5kgに増やした」樽とするなど。
麹の量が増えほど、発酵も早まるので熟成期間も短くなります。その場合は、一年ほどの熟成期間をおいてから楽しみます。そうそう、2年熟成する場合は、カビ防止のため、私は味噌の表面に酒粕で蓋をし、さらにその上にラップ+袋に入れた重石用の塩を軽くのせ、空気が入らないようにします。3年おいた味噌も試してみましたが、こちらは旨味よりも酸味が勝りました。2年ものは、色もしっかり濃くなっておいしいんですよ。
いろんな味噌をつくる
小豆やひよこ豆など大豆以外の豆を使った味噌もつくってみましたが、やはり定着したのは、麦麹や豆麹、米麹など、麹の種類のみをかえた味噌です。
日本の味噌の種類は大まかに「米味噌」「麦味噌」「豆味噌」の3つですが、地域によって、麦麹と米麹が混ざった甲州味噌があったり、豆麹に大麦の入った郡上(ぐじょう)味噌があったり、本当に奥が深くて面白いんです。味噌マニアの私は、旅先では必ず、地元の味噌をつくる味噌蔵を訪ねるようにしています。
いま、我が家には定番の2年味噌のほかに、甲州味噌、豆味噌、九州味噌など数種類の樽が並んでいます。「味噌で医者いらず」を目指して、日々美味しく養生しています。
特に上に挙げた味噌の中でも甲州味噌はオススメです。ほうとうに使われている味噌で、なんでも美味しくいただけます。麦麹が使われているので整腸作用もあります。今年は、いつも仕込んでいるお味噌の半量を甲州味噌で仕込まれてみてはいかがでしょうか?以下にレシピを載せておきます。
甲州味噌のレシピ
・米麹 500g
・麦麹 500g
・大豆 1kg
・塩 450g
*麦麹はインターネットのwebショップなどで購入できます。電話で注文できるところもあります
手前醤油をつくる
醤油をつくるには、まずは、醤油用の麹「醤油麹」を育てるところからはじまります。この麹の原料となる大豆は、納豆菌とくっつきやすいので、温度管理に少々神経をつかいます。

出来立ての麹を虫眼鏡で見ると……なんだかワクワクしてきませんか?私はこの出来立ての麹を見たくて仕込んでいるようなものです。

このワクワクが楽しみで仕込んでいます。
醤油用の麹と塩、我が家の山の水で仕込んだ我が家だけのお醤油。

そうして1年から2年ほど熟成させると、透明だった液体が、黒くなるんです。これが「もろみ」です。この光景を見ていると、瓶の中は、小宇宙だなあといつも思います。
で、このもろみを搾ると、醤油になります。
保存方法(醤油を絞る)
さあ、絞ってみますよ。
絞る量が少なければ、コーヒーを落とす様にコーヒーフィルターを使ってポタポタ落ちてくるのを待ちます。でもコーヒーフィルターの場合は、なかなか全ての醤油を絞りきれないので、もっと圧力をかけることのできる醤油絞り器を自作しました。家が小さいので収納を考え、卓上サイズなんですよ。

醤油絞り器のつくり方
ホームセンターで買ってきた重石付きの漬物器を使います。
①漬け物器の底にドリルで穴を開ける
②板を2枚用意して重ね、下の板の底からボルトを立ち上げ、上の板には蝶ナットをセットする
③漬物器と垂れてきた醤油をうける容器の間に挟む木の棒を二本噛ませる

この道具を使うとしっかり絞れるので、残った醤油かすは、フライパンに入れてストーブの上で容易に乾燥させられます。

梅酒をつくる瓶(4L)一本分くらいの醤油の量ならば気楽にできます。味噌づくりに慣れた方は、手前醤油にもトライしてみては?
*お醤油用の麹もインターネットで手に入ります
絞る手順
① もろみをサラシで作った袋に入れ、漬物器に重石を乗せる
②重しとジャッキの間に隙間ができるので、ステンレスのタッパーなどを挟み、ゆっくり圧をかけていく(上の写真ではビンを使っていますが、割れる可能性があるので、別のものをオススメします)
③ 下の写真くらいの量を絞るに2時間ほどかかる

手づくりの調味料は、日々の暮らし中に小さな喜びを与えてくれるとても重要なアイテムです。
子ども達にも、「食べ物は自然の力を借りながら時間をかけてつくられるんだ」と、驚きや喜びとともに伝わってくれたら嬉しいなと思っています。
次回(3月中旬)は、漬け物づくりです。お楽しみに。

- 第1話(6月12日) 私のパーマカルチャー
- 第2話(6月26日) 極寒のマイホーム
- 第3話(7月10日) 雨漏りとペンキ塗り
- 第4話(7月24日) トイレを手作りする
- 第5話(8月21日) お風呂を手作りする
- 第6話(8月28日) 断熱のお話
- 第7話(9月18日) 我が家の電力自給
- 第8話(9月27日) 北海道大停電 頼りは太陽光発電と人のぬくもり
- 第9話(10月13日) 水を自給する
- 第10話(10月25日) 暖房を自給する(前編)
- 第11話(11月9日) 暖房を自給する(後編)
- 第12話(11月28日) スーパーで野菜を買わない実験
- 第13話(12月15日) みんなで畑づくり 柵の設置、定植
- 第14話(1月5日) ニワトリ小屋づくり(前編)
- 第15話(1月22日) ニワトリ小屋づくり(後編)
- 第16話(2月20日) 食の自給① 梅干し&納豆
- 第17話(2月29日) 食の自給② 麹、味噌、醤油
- 第18話(3月15日) 食の自給③ 冬を乗り切るための漬け物づくり
- 第19話(4月9日) 食の自給④ 薪ストーブを使ってつくる干し野菜&おやつ
- 第20話(5月16日) 服作り(前編)
- 第21話(6月24日) 服作り(後編)
- 第22話(9月13日) 石けん作り
- 第23話(10月21日) 暮らしから学ぶ
- 第24話(12月17日・最終回):旅から学ぶ
本連載が、単行本になりました!

北海道札幌市の山奥で「パーマカルチャー研究所」を運営。パーマカルチャーとは、持続可能な暮らしのこと。家族4人で自給自足の暮らしをしながら、その暮らしから得られたパーマカルチャー的価値観を伝えることを仕事としている。著書『北の国から 家族4人で幸せ自給生活』(農文協)が発売中。
(写真提供:金本綾子)

三栗さんも執筆している単行本「自分で地域で 手づくり防災術」が2023年11月1日に発行予定です!
自分で地域で 手づくり防災術
農文協 編
手づくり防災術とは、国や公共のインフラ(公助)に頼りすぎず、自給の力(自助)や地域の力(共助)で自然災害に備える工夫のこと。自然に逆らうのではなく、自然の力を生かしたり、回復させたりしながら災害を小さくする知恵や技が農村にはある。オフグリッドソーラーやロケットコンロによる小さいエネルギー自給や、スコップと草刈り鎌を使い空気と水の流れを回復させる「大地の再生」、水田の貯水機能を活かした「田んぼダム」、早期避難のための手づくり防災マップなど、土砂災害や豪雨災害、地震から地域を守る40のアイデアを収録。
↓こちらの本にも三栗さんの記事「オール電化から電力自給開始で、電気に愛着のある暮らし」が掲載されています。ぜひご覧下さい。
小さいエネルギーで暮らすコツ
太陽光・水力・薪&炭で、電気も熱も自分でつくる
農文協 編
輸入任せのエネルギー問題を再考!ミニ太陽光発電システムや庭先の小さい水路を使う電力自給、熱エネ自給が楽しめる手づくり薪ストーブなど、農家の痛快なエネルギー自給暮らしに学ぶ。写真・図解ページも充実。
パーマカルチャー 農的暮らしの永久デザイン
ビル.モリソン 著
田口恒夫 訳
小祝慶子 訳
都市でも農村でも、自然力を活かして食物を自給し、災害に備える農的暮らしの環境調和型立体デザイン。農地、家まわりの土地利用、水利用、家屋の建て方まで具体的に解説。経営システム全体で環境への適応をめざす。