下村京子/上村匡司(イラスト)
現代農業2018年10月号~2019年2月号に連載された「空気と水の流れをよくして大地の再生」(全5回)および、季刊地域2021年夏・秋号「大地の再生」に掲載された記事の一部を期間限定で公開します。移植ゴテひとつからはじめられる環境改善のやり方です。
「大地の再生」は、庭づくりにも活かせる。「大地の再生 結の杜づくり」中国支部の下村京子さん、上村匡司さんに解説してもらった。
植栽までの手順
- 庭全体の動線(水脈・気脈)を確認する。動線は、人がよく歩くために自然に低くなっている。
- 動線に合わせ緩やかなS字曲線の風の通り道(=気脈)ができるように、高木を植える大まかな位置を決める。元からあった植栽や隣家からはみ出たサクラの枝も活かす。
- 畑や広場の位置を決める。
- 高木の位置を微調整。道路やまわりの家から、ウッドデッキが目隠しになるように。また、西日対策も考える。畑のそばにも木や果樹を植えて多様な光環境をつくると、やわらかな葉野菜をつくったり、収穫時期をずらすのに役立つ。
防草シートでカチカチ
今回の依頼主は、岡山県吉備中央町にお住まいの女性です。彼女は、自然豊かな場所で気持ちのよい暮らしをしたいと思い、この地の閑静な住宅街にあるログハウスに縁あって住むことになりました。
周囲の自然環境は気に入ったものの、大家さんが草管理がたいへんだったためか、引っ越してきたときから庭に防草シートが敷かれていました。おかげで草は生えませんが、防草シートの下の地面は硬く、所々に水溜まりができていました。また夏は、太陽光を受けたシートの蓄熱・反射熱の影響で不快な蒸し暑さを感じます。この庭をなんとか気持ちのよい空間にしたいと、「大地の再生」講座に参加した際にご相談いただいたのが始まりでした。
私は、どのような庭にするのかを決める前に、一日も早く防草シートを剥ぎ、土が柔らかくなるよう環境を整える必要があると感じました。なぜなら、土が硬い=微生物が少ない。かつては植物の根によって増えていた微生物が、防草シートにより草も生えない庭になりバランスを崩してしまっていると思ったからです。
点穴と有機物で土が柔らか
すると、広島県尾道市で大地の再生の活動をしてきた西山優子さんらが、さっそく現地で作業に取りかかってくれました。防草シートを剥ぎ、敷地の外周にあるブロック塀との境目、それに敷地内全体にもまんべんなく「点穴」を掘ってくれました。
点穴とは、硬く締まった土中の空気の流れをよくするための穴で、剣先スコップで簡単に掘れます。直径20cm、深さ20~30cmほどの小さい穴で、前号では、炭やイナワラ、小枝などで穴を詰まりにくくしましたが、このときは穴を掘っただけです。ただし、防草シートを剥いでむき出しになった土を覆うように、枯れ葉や刈り草などの有機物をまいておいてくれました。
有機物は微生物の大好物です。5カ月後に私たちが行ったときには土が柔らかくなっていました。季節は、冬から春に移り変わる時期で、草もポツポツ生え始めていました。草の根が張ることで表土がさらに柔らかくなり、植物の生長に必要な酸素を自ら取り入れようとしている様子を、庭を歩きながら足裏で感じることができました。
どんな庭にするか
大地の再生では、草を一方的にコントロール(抑制)するのではなく、草に寄り添って共生するやり方をとります。それが前号でも紹介した「風の草刈り」です。この方法を伝えながら、まわりの風景に馴染み、柔らかく優しい風が家の中にも届く、空気と水が循環する庭が想像できました。
依頼主である彼女のほうも、気持ちのいい空間にしたいという思いが、さらに想像をかき立てたようです。好きなお庭や樹木の写真を見せてもらいながら、庭のイメージが膨らんでいきました。ワクワク、楽しい時間です。
彼女と話をしているうちに出てきたテーマが「魔女の庭」です。このテーマに合うシンボルツリーは、生薬でも有名なサンシュユ。春先に黄色い花が一面に咲き、秋には赤いグミのような実がなります。庭木に使うことは少ない木ですが、いろいろ楽しめる木なので「魔女の庭」に相応しいと思います。
植栽のマウンドは寄せ植えに
植栽は寄せ植えに
大地の再生の講座形式で行なった庭づくりは、テーマが魔女の庭だけに女性の参加者が多くなりました。周りの環境を整える作業から植栽まで、大地の再生の視点と技術をお伝えしながら行ないました。
植栽の中心となる木は、サンシュユの他にゲッケイジュ、ビワ、アンズ、ラ・フランスなど。大きくなる木のまわりに、ブルーベリーやユスラウメなどの小さい木やハーブ、野菜などを寄せ植えにします。木の根元は木陰になりやすく、軟らかい葉野菜が育ちます。そして最後に、近くの林から分けていただいた腐葉土を庭いっぱいにまいて作業終了―。
草を味方にしながら、豊かで気持ちのいい空間。こういうお庭は、雨の日も晴れの日も、毎日外に出るのが楽しみになってきます。やがて木が生長して、木陰になったデッキに腰掛け、薬草茶やハーブ茶を飲みながら、庭でとれた野菜や果実、木の実をいただく豊かさ。草も食べられたらいいなぁ、薬草が生えてきたらいいなぁ、と想像が膨らみます。
*大地の再生とは 山梨県在住の造園技師・矢野智徳さんが長年にわたる観察と実践を経て見出した手法で、地上と地下の空気と水を循環させることで植物が元気になり、周囲の環境に好循環をもたらす。
草の管理
- 草は抜かない。刃がギザギザのノコギリ鎌で、下から上に撫でるように「風の草刈り」。
- 風の草刈りと木陰によって、おとなしい雑草になる。草も含めて、植物の根のまわりで増える微生物が健康な土壌をつくる。
- ある程度草が生えるまで、落ち葉などを敷いて微生物のすみかをつくってやるとよい。
詳しくは『季刊地域』2021年秋号をご覧ください
*『季刊地域』2021年秋号(原題:大地の再生で心地よい庭づくり)より。情報は掲載時のものです。
*動画は画像をクリックするとルーラル電子図書館へ移動します。
*動画は会員限定コンテンツです。
\ 書籍情報 /
矢野智徳 著
大内正伸 著
大地の再生技術研究所 編
定価2,860円 (税込)
ISBNコード:9784540212390
造園技師・矢野智徳氏が長年培ってきた環境再生の考え方と手法を、広く・濃く伝える決定版。
「空気が動かないと水は動かない」―独自の自然認識をもとに提唱する新たな「土・木」施工。その手法を、ふんだんなイラストと写真でわかりやすく解説。身近な農地、庭先、里地・里山から始める環境再生技術。
矢野智徳(やのとものり)1956 年、福岡県北九州市生まれ。合同会社「杜の学校」代表。
1984 年、造園業で独立。環境再生の手法を確立し「大地の再生」講座を全国で展開しながら普及と指導を続けている。クライアントは個人宅や企業敷地ほか、数年にわたる社寺敷地の施業も数多い。近年の活動では宮城県仙台市の高木移植プロジェクト、福島県三春町「福聚寺」、神奈川 県鎌倉市「東慶寺」のほか、災害調査と支援プロジェクトとして福岡県朝倉市、広島県呉市、愛媛県宇和島市、岡山県倉敷市、宮城県丸森町、千葉県市原市などに関わる。
拠点となる山梨県上野原市に自然農の実践農場のほか、座学や宿泊できる施設に、全国からライセンス取得や施業を学びに有志が集う。2020 年「大地の再生 技術研究所」設立。
WEBサイト:大地の再生 結の杜づくり(https://daichisaisei.net/)。
大内正伸(おおうちまさのぶ)1959年生まれ。森林ボランティア経験をもとに林業に関わり技術書を執筆。2004 年より群馬県で山暮らしを始め、2011 年、香川県高松市に転居。2020年、自宅敷地で「大地の再生講座」を開催する。囲炉裏づくり等のワークショップや講演も多数。著書に『これならできる山づくり』『山で暮らす愉しみと基本の技術』ほか