大内正伸(絵と文)
現代農業2018年10月号~2019年2月号に連載された「空気と水の流れをよくして大地の再生」(全5回)および、季刊地域2021年夏・秋号「大地の再生」に掲載された記事の一部を期間限定で公開します。移植ゴテひとつからはじめられる環境改善のやり方です。
現代土木はコンクリートやアスファルトを多用して空気や水の流れを遮断する。土中配管なども埋め戻しの際には石・砂・土だけで転圧をかける。これでは植物の入る余地はなく、周囲の土はグライ化する(鉄が還元化して土が灰色や青緑色になる)。そして夏は暑く、冬は底冷えする環境になる。
「大地の再生」を主宰する矢野智徳さんはこれに抗い、コンクリートやアスファルトに有機物を組み合わせ、植栽を積極的に取り入れることで自然と共存する土木工事を構築してきた。
2割程度の有機物を混ぜる
一般のアスファルト舗装は地面を掘削し転圧をかけた後に砂や砕石で路盤を作り、その上にアスファルト混合物を敷き詰め転圧したものだ。轍《わだち》のへこみができにくく、砕石敷きのときのスリップもない。かといってコンクリートほど硬くはなく、車の乗り入れは快適である。しかし雨の浸透性はまったくない。また、蓄熱しやすくヒートアイランド現象に大きく加担している。
一方、浸透性アスファルトも開発されているが、数年のうちに目詰まりがおき、また空隙のせいで路面が傷みやすくアスファルト混合物中の砕石が剥がれやすい。
矢野さんの「有機アスファルト」は、まず路盤を砕石で固めるようなことはせず、重機で地均ししたあと下地を作り、最終的に「アスファルト混合物の中に2割程度の有機物(木質チップなど)を混ぜたもの」を敷いていく。この間、適宜水を噴霧し(熱で水蒸気化し、水と油が融合しつつ微細な空隙を作る)、さらに上から砂、チップをまく。施工直後の外見はアスファルト舗装にはまったく見えない。
有機アスファルトは硬化後、有機物が中で植物の根のように繋がって空気や水を通すようになる。その結果、夏の高温時の表面温度は普通のアスファルト舗装に比べ10℃以下にも低くなるという。また、耐用年数は15~20年と案外長持ちする。
これまでの施工例は庭に連続する駐車場などだが、舗装のきわは転圧せずに残し、境界の土にシバを張ることで、やがて生長したシバが有機アスファルトの隙間にも伸びて、チップと緑が交錯したグラデーションを作る(265ぺージ下写真)。また木の根も入り込むので樹木もよく育ち、雑草なども生えてくるようになる(抜かずに「撫で刈り」で管理する)。
経年変化でひび割れもできるが、それは空気を通すための「場を生かす」もの(形成)であり、普通のアスファルトが「風化」によって起こす剥離やひび割れ(淘汰)とは性質がちがう。
デメリットは素人には施工が難しいことだろうか。なにしろ温度が下がると硬化が始まるので、レーキによる均しにスピードと慣れが要求される。水もかけすぎてはいけない。また道具洗いに灯油が必要で、乳化剤をまく場合は専用の道具が要る。
セメント粉も上手に使う
「大地の再生」視点からすると既製のU字溝は水脈・気脈を分断するものだが、矢野さんはコンクリートそのものを否定しない。よく使われるのはセメント粉や「土モルタル」である。
たとえば斜面に庭石などを据える場合、石が転ばぬ角度に床掘りして十分転圧をかけ、ぐり石を敷くのが普通だが、矢野さんは土中の空気と水の流れを重視し、強く搗き固めることをせず、砂利敷きにセメント粉をまいてからその上に石を置くのである。そして安定補強のため谷側に木杭を打ち、低木をセットで植える。セメント粉は雨で硬化し、そのとき微細な空隙ができて植物の根と共存できるようになる。木杭はいずれ腐るが、その頃には植栽の根がその空隙を埋め、空気と水を通しながら石は強固に守られるのだ。
また、もう一つの「土モルタル」とは、砂利土にセメント粉と粗腐葉土を混ぜて軽く練ったもので、硬化後は水を通しにくくなるが、空気が通る程度の微細な穴はできる。これをコルゲート管と組み合わせると、U字溝に代わる軽快かつ自然親和的な排水路・側溝が作れる(下図)。
全体を見通すことが重要
ただし、これらの構造物は周囲の環境から独立しているだけでは正しく機能しない。流れてくる水や空気はどこから来て、構造物を通過後どこに流れていくのかを見通し、敷地全体の不具合に再生の手を入れねばならない。さらにその上で溝や点穴のメンテナンス(泥のかき出しや有機物の補填)や、風の草刈りによる管理も必要になる。
しかし、その管理も続けているうちに軽減されてくる。なぜなら気脈・水脈が通じた後の植物の回復は驚くほど早く、やぶ化せずにやがて個々が棲み分けして自然に風が通るようになるからだ。さらに微生物も含めた動植物たちが、作業に味方してくれ、回復はマジックのように劇的に進むのである。
この「大地の再生」で最も重要な概念は何か? という問いに、矢野さんは「道であり脈である」と答えた。近年、私たちはコンクリート土木でその息の根を止めてしまったが、既存の構造物に脈を通す工法を考えればいいのだし、山林・竹林に有機資材は溢れているのだから、この原理を取り戻せば日本列島の再生も決して夢ではない。
読者の皆さんは、この連載のうち一つでも取り入れてそれを実感してほしい。また矢野さんの「大地の再生講座」(daichisaisei.net)に参加されることをお勧めしたい。
*有機アスファルトの作り方は2019年2月号をご覧ください。
*月刊『現代農業』2019年2月号(原題:有機アスファルトと土モルタル)より。情報は掲載時のものです。
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*動画は会員限定コンテンツです。
\ 書籍情報 /
矢野智徳 著
大内正伸 著
大地の再生技術研究所 編
定価2,860円 (税込)
ISBNコード:9784540212390
造園技師・矢野智徳氏が長年培ってきた環境再生の考え方と手法を、広く・濃く伝える決定版。
「空気が動かないと水は動かない」―独自の自然認識をもとに提唱する新たな「土・木」施工。その手法を、ふんだんなイラストと写真でわかりやすく解説。身近な農地、庭先、里地・里山から始める環境再生技術。
矢野智徳(やのとものり)1956 年、福岡県北九州市生まれ。合同会社「杜の学校」代表。
1984 年、造園業で独立。環境再生の手法を確立し「大地の再生」講座を全国で展開しながら普及と指導を続けている。クライアントは個人宅や企業敷地ほか、数年にわたる社寺敷地の施業も数多い。近年の活動では宮城県仙台市の高木移植プロジェクト、福島県三春町「福聚寺」、神奈川 県鎌倉市「東慶寺」のほか、災害調査と支援プロジェクトとして福岡県朝倉市、広島県呉市、愛媛県宇和島市、岡山県倉敷市、宮城県丸森町、千葉県市原市などに関わる。
拠点となる山梨県上野原市に自然農の実践農場のほか、座学や宿泊できる施設に、全国からライセンス取得や施業を学びに有志が集う。2020 年「大地の再生 技術研究所」設立。
WEBサイト:大地の再生 結の杜づくり(https://daichisaisei.net/)。
大内正伸(おおうちまさのぶ)1959年生まれ。森林ボランティア経験をもとに林業に関わり技術書を執筆。2004 年より群馬県で山暮らしを始め、2011 年、香川県高松市に転居。2020年、自宅敷地で「大地の再生講座」を開催する。囲炉裏づくり等のワークショップや講演も多数。著書に『これならできる山づくり』『山で暮らす愉しみと基本の技術』ほか