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【大地の再生】(動画あり)第4回 水みちを作って、川底の泥を団粒化

大内正伸(絵と文)

現代農業2018年10月号~2019年2月号に連載された「空気と水の流れをよくして大地の再生」(全5回)および、季刊地域2021年夏・秋号「大地の再生」に掲載された記事の一部を期間限定で公開します。移植ゴテひとつからはじめられる環境改善のやり方です。

西日本豪雨被災地(広島県呉市安浦町)で水みちを切る矢野智徳氏。ボランティアにも作業を指導する
西日本豪雨被災地(広島県呉市安浦町)で水みちを切る矢野智徳氏。ボランティアにも作業を指導する

 矢野智徳さん率いる「大地の再生」チームは、昨夏に起きた「西日本豪雨」被災地の再生支援も行なっている。

 被災地は流木や泥にまみれているが、重機による片付けを経て、雨を重ねるごとに泥は流れる。ここに水脈整備を加えることで環境は急速に回復する。水を汚す原因となる「泥アク」(有機物が混ざった泥)が消え、空気も清らかになり風が流れ、たたずんでいて気持ちのいい空間に戻る。

 これは小さな移植ゴテひとつから始めることができる。

停滞する水を解放する

 土石流を受けた被災地では、周囲の片付けが終わっても水たまりができ、水はけの悪い土の場合それがいつまでも残る。放置しておくと、雨のたびに底に泥がたまり、それが乾くと泥ぼこりが立つ。また細かい粒子が土の隙間を塞ぎ、地中に水が停滞して還元(無酸素)状態となり、グライ化する(鉄やマンガンが還元化して土が灰色から青緑色になる)ことがある。すると周囲の植物の根がダメージを受け、また空中にも有機ガスが放散されるので、周囲の環境も疲弊していく。そして、ゼニゴケのような陰気な植物がはびこってしまう。

 これを消すにはスコップ、三つ鍬、移植ゴテなどの道具を使って溝を切り、水たまりの水をレベルの低いほうの側溝などへ導いてやればよい。

 移植ゴテひとつあれば、雨の日に水たまりができる庭などにも応用できる。水たまりの周縁から切れ込みを入れて、流れが導かれるのを確認しながら、深さ3~5cm、幅8~15cmの水切りを地面に走らせていく。最終的に落とし込む側溝や桝などがなければ、大きめの点穴をつくってそこに浸透させるようにしてもよい。

 乾いた水たまり跡は炭や有機物などで覆っておく。また水切り溝は、役目を終えても小さな「通気浸透水脈」として機能するから、塞がないで炭や小枝・割竹などを入れて、車のタイヤが横断するところは板などで覆っておくとよい。

移植ゴテで水切り
移植ゴテで水切り

走り過ぎの水を制御する

 山間部の民家周辺では、雨の日に水が走り過ぎる場所もできる。農道などではこれが顕著で、流れが土を削って泥水を発生させる。また雨水が地面に浸透するヒマがないばかりか、加速度のついた水流は周囲の浸透水まで引っ張ってしまう。これはやはり植物にとっていいものではない。

 水の走り過ぎを抑制するには、

(1)流れの抑制・分散化

(2)落差工(段差をつける)

(3)流れを蛇行させる

という方法がある。被災地での仮設工事ではこれを周囲の石や流木などを用いて簡略的に行なうが(右図)、農道や家の敷地内では「抵抗柵」(2018年11月号)を使うといいだろう。

流速の弱め方
流速の弱め方

沢や用水路の管理にも

 この考え方は沢や用水路の管理にも応用できる。流れの出口の石の間に落ち葉などが詰まり、停滞してよどんだ淵には底に泥だまりができてアクを出すが、落ち葉を取り去って程よい流れを取り戻してやると、泥が団粒化を起こしてアクが消え、水が透明になっていく。また川幅の一カ所に水が集中して流れが速すぎる瀬では、石を移動したり新たな石を設置して流れを分散化させることで、豪雨時の掘削を抑止し、浸透機能が高められる。これらの変化は、作業前後のせせらぎの水音にも現われる(耳に心地よい音になる)。

 沢や用水路の場合には、このような管理と同時に、水面にかぶさっている植物を「風の草刈り」(前号参照)で刈って空間をあけ、風の流れをスムーズにしてやるとよい。

生態系の再生は水脈が鍵

 水脈の「停滞」と「走り過ぎ」を避け、「程よい流れに分散」することで、周囲の植物は生き生きとよみがえり、細根を出して保水力や地面への支持力を高める。植物が大地の再生に味方してくれ、プラスの連鎖が生まれる。

 筆者も経験があるが、山間部で暮らしていると屋敷周りの樹木が様々な意味で重要なものだということに気づく。雨の多い日本の山村では屋敷に植え込みを作り、それと共存することで暮らしが安全・快適になるのだ。

 堰堤や擁壁などのコンクリート構造物は、土留め機能は高いが、通気・排水性が悪いので、空気や水の詰まりを起こしてグライ層やヘドロをつくる。だから昔の石垣は大変優れたものといえるし、植物の根はさらに「泥漉し」という機能を備えている。

 今回の西日本豪雨被害も、コンクリート構造物による長年蓄積された詰まりが大きな原因の一つだ、と矢野さんはみている。先人が植えた樹木も、収穫や見栄えだけにとらわれず、地域ぐるみで大切に育てる意識を取り戻したい。

*月刊『現代農業』2019年1月号(原題:水みちを作って、川底の泥を団粒化)より。情報は掲載時のものです。

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\新刊情報/

「大地の再生」実践マニュアル

空気と水の浸透循環を回復する

矢野智徳 著
大内正伸 著
大地の再生技術研究所 編
定価2,860円 (税込)
ISBNコード:9784540212390

造園技師・矢野智徳氏が長年培ってきた環境再生の考え方と手法を、広く・濃く伝える決定版。
「空気が動かないと水は動かない」―独自の自然認識をもとに提唱する新たな「土・木」施工。その手法を、ふんだんなイラストと写真でわかりやすく解説。身近な農地、庭先、里地・里山から始める環境再生技術。

著者

矢野智徳(やのとものり)1956 年、福岡県北九州市生まれ。合同会社「杜の学校」代表。
1984 年、造園業で独立。環境再生の手法を確立し「大地の再生」講座を全国で展開しながら普及と指導を続けている。クライアントは個人宅や企業敷地ほか、数年にわたる社寺敷地の施業も数多い。近年の活動では宮城県仙台市の高木移植プロジェクト、福島県三春町「福聚寺」、神奈川 県鎌倉市「東慶寺」のほか、災害調査と支援プロジェクトとして福岡県朝倉市、広島県呉市、愛媛県宇和島市、岡山県倉敷市、宮城県丸森町、千葉県市原市などに関わる。
 拠点となる山梨県上野原市に自然農の実践農場のほか、座学や宿泊できる施設に、全国からライセンス取得や施業を学びに有志が集う。2020 年「大地の再生 技術研究所」設立。WEBサイト大地の再生 結の杜づくり

大内正伸(おおうちまさのぶ)1959年生まれ。森林ボランティア経験をもとに林業に関わり技術書を執筆。2004 年より群馬県で山暮らしを始め、2011 年、香川県高松市に転居。2020年、自宅敷地で「大地の再生講座」を開催する。囲炉裏づくり等のワークショップや講演も多数。著書に『これならできる山づくり』『山で暮らす愉しみと基本の技術』ほか