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【第2回】イチゴの未分化定植・本圃増殖栽培 花芽分化を促すには遮光、換気、チッソ切り

静岡県浜松市・内山智史さん

マークは文末に用語解説あり

内山智史さんと未分化定植したきらぴ香(定植株は草丈23cm、ランナー挿しした株は草丈18cm。10月3日撮影)。就農5年目、10.8aの連棟ハウス2棟で栽培(写真はすべて赤松富仁撮影)

 未分化定植・本圃増殖栽培――。その名の通り、未分化の苗を7月下旬から8月上旬に定植し、本圃でランナー挿しをして殖やす栽培法だ。真夏の育苗作業がとてもラクになることから、静岡県のイチゴ農家の間で広まり始めている。この技術の最大のポイントは、本圃でどうやって花芽分化を揃えるか。低温と低チッソが分化のカギとなる。

本圃で花芽分化した!

「今日、未分化定植した株を再検鏡したら、花芽分化していましたよ」

 9月29日、内山智史さんに電話するとそういっていたので、翌週、1カ月ぶりにハウスを訪ねた。

 昨年、未分化定植した株とランナー挿しした株の生育が揃ったのは11月上旬。そう聞いていたので、まだ生育差があると思っていたのだが、あれ? 予想以上に差が縮まっている。内山さん曰く、「生育差があまりないのは今年は9月が暑かったのと、本圃でランナー挿しする本数を2本から1本に減らしたぶん、生育が早かったんだと思います」。

右が未分化定植した株(9月1日撮影)。定植した株とランナー挿しした株ともに本葉3枚。ここから9月下旬まで定植したほうは本葉3枚、本圃で挿したほうは本葉4枚になるように摘葉して生育差を減らす

 未分化定植(7月27〜28日定植)と、分化した苗を定植する普通栽培の両方で「きらぴ香」をつくっている内山さん。普通栽培の苗は9月16日から検鏡に出し始め、23〜27日に約7200本定植した。未分化定植したほうは定植した株とランナー挿しした株をそれぞれ検鏡したところ、25日に分化初期だった。普通栽培の定植が終わった29日に再検鏡すると完全に花芽が分化していた。

 気温が低かった昨年と比べると、どちらも約1週間ほど花芽分化は遅いが、「9月中にちゃんと分化したし、普通栽培の定植も終わってほっとしました」と内山さんは胸をなで下ろす。

 暑かった今年の9月、未分化定植のほうはどうやって本圃で花芽分化を促進させたのだろう。

昨年は未分化苗定植のほうは9月21日、普通栽培(紅ほっぺ)のほうは9月19日に花芽分化した

 花芽分化前

ハウス上部の熱気を追い出す

 花芽分化のカギとなるのは、「短日」「低温」「低チッソ」の3点セットだ。短日については、自然と日長が短くなっていく時期なので、本圃でコントロールするべきは、温度とチッソである。

 まだまだ残暑が厳しい9月、内山さんはハウス上部の内張りの位置に張った遮光率40%の寒冷紗で遮光して、サイドを開放し、谷換気もしてハウス内の温度をできるだけ下げるようにした。昨年は9月の気温が涼しかったので、これらの換気と遮光だけで乗り切ったというが、今年は妻面の上側も開けることにした。

「妻面を開けていたほかの農家のハウス内の気温を見ると、うちよりも少し温度が低かったんです。もっと涼しくしたいと思って妻面も開けました」

 妻面上部のフィルムを固定しているパッカーを外し、フィルムを下ろして上部を開放。こうして熱気が溜まりやすいハウス上部の空気を出してやることで、「開ける前よりけっこう涼しくなりましたよ」と内山さんはいう。

内山さんのハウス。妻面上部のフィルムを下ろしたことで、ハウス上部に溜まる熱気が完全に抜けるようになった

ランナー挿しが終わったら一気にチッソを切る

 花芽分化を促すもう一つのポイントがイチゴの株の硝酸イオン濃度を下げることだ。未分化苗を定植し、ランナー挿しが終わったら低チッソの管理に切り替える。

 内山さんの場合・・・

この記事の続きは2022年12月号をご覧ください

2022年11月号から「イチゴの未分化定植・本圃増殖栽培」の連載が始まっています。

ことば解説

 生長点で、将来、花になる芽ができること。花芽分化のスイッチが入るのは温度や日長、肥料、生育段階などが関係し、その条件は作物によって違う。

 ランナーは親株から出るつるのこと。地面を這って伸び、子株をつくる。『現代農業』では特に、イチゴの苗を定植したあと、本圃でランナーを挿して増殖することを「ランナー挿し」と呼ぶ。

 チッソを含む陰イオンで、作物が吸収する主要な栄養源の一つ。

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