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【新連載】イチゴの未分化定植・本圃増殖栽培 育苗本数が半分!? 夏の作業がラク!?

静岡県浜松市・内山智史さん

JA静岡経済連・渥美忠行さん

マークは文末に用語解説あり

昨年から未分化定植に取り組む内山さん(左、現代農業22年9月号p122)。この栽培方法を指導しているJA静岡経済連・渥美忠行さん(右、現代農業16年11月号p174)(写真はすべて赤松富仁撮影)

 3年前から静岡県で広まり始めた、未分化苗を定植して本圃で増やす栽培方法(正式名は「未分化定植・本圃増殖栽培」。現代農業2022年9月号p122も参照)。育苗数が減るから苗づくりのコストも、定植の手間もグンと減るらしい。魅力を感じて、取り組む農家も少しずつ増えてきた。でも、本当に未分化苗を本圃に植えて大丈夫なのだろうか?

常識はずれの未分化苗の定植

 向かったのは、就農5年目の内山智史さん(48歳)のハウス。9月1日、台風11号の影響で強い雨が降り、気温は31℃と蒸し暑い。ふつうはまだ定植には早い時期だ。

 ハウスに入ると、本圃にはすでに苗が植わり、定植した株から1本ずつランナー挿しされている。挿した株はまだ小さく、定植株の半分程度。高設ベッドの上に違う大きさの株が並ぶ、なんとも不思議な光景である。

 通常、11月下旬からの収穫を目指す場合、増やした苗を育苗して、花芽分化を確認してから9月下旬ごろに定植する。ところが、「今年の未分化苗の定植は7月27〜28日、ランナー挿しはお盆ごろから始めました。早いでしょ」と内山さん。

手さぐりで始めた1年目

 現在、10.8aの連棟ハウス2棟でイチゴを栽培する。昨年はハウス1棟で「紅ほっぺ」の分化苗をふつうに定植して栽培、もう1棟で初めて静岡県のオリジナル品種「きらぴ香」を導入し、分化していない苗を早くに定植。本圃でランナー挿しで増殖しながら栽培した。

 反収は紅ほっぺで5.7t、きらぴ香で3.9t。きらぴ香は薬害が出やすい品種であることや、給液装置のトラブルで除塩がうまくできなかったこと、かん水の失敗などが影響して収量が伸びなかった反面、紅ほっぺはいい苗づくりができたので順調だった。最終的な売り上げは一昨年より140万円落ちたが、失敗した原因もわかったし、単価も悪くないので、思い切って今年から品種をすべてきらぴ香に統一。ハウス1棟で未分化定植・本圃増殖栽培、もう1棟で普通栽培(分化苗の定植)を行なっている。未分化定植導入の理由は「作業がラクになった」ことだという。

「きらぴ香」を未分化定植・本圃増殖している内山智史さんのハウス。本圃でランナー挿しが終わったところ

育苗本数が半減、真夏の作業がラクに

 1ハウス当たり18.5cm株間で約7200株栽培する内山さん。ふつうはすべて育苗する必要があるが、未分化苗を植えて本圃でランナー挿しすれば育苗本数は半分ですむ。ランナーが出ている苗や出ていない苗があったが、今年はどちらも関係なく定植した。ランナーが隣の列に届くまで待って、挿した。

 昨年は、本圃で1株から2本ずつランナー挿しをして増やしていたが、株の大きさがばらついて、生育が揃うのに時間がかかってしまった。そこで、今年はランナーを減らし、1株1本に留めた。定植数は約2500本から約3600本に増えたが、それでも通常の栽培株数の半分。

「未分化定植をやる前は、暑い時期に日没までずーっとランナー受けや摘葉、防除、本圃の準備をやって、ひたすら作業に追われてました。でも今は、ゆっくり昼休憩がとれるようになり体がとてもラクになりましたよ」

 苗の本数が減るので、ポットや培土などの育苗の資材代が安くなる。早く定植できるので作業が分散する。定植本数も少ないから作業がラクだし、パートさんの人件費も減る。普通栽培の苗にきちんと手をかけられる。……など、いいことがたくさんある。

内山さんの未分化定植と普通栽培の作業

すべてきらぴ香。収穫ピークが重なるとパック詰め作業が大変になるので、半分は普通栽培にしてピークをずらす。普通栽培は9月下旬に定植するが、未分化定植は7月下旬から定植できるため、最大2カ月間育苗期間が短縮できる

本圃ならしっかり炭疽病対策できる

 ところで、早く本圃に植えたら管理する面積が増えて、かえって手間にならないだろうか? 内山さん曰く「むしろ防除するときに、薬剤がかかりやすくなっていいですよ」。

 静岡県では炭疽病がとくに問題になっていて、内山さんも就農した最初の2年間はかなり苦しめられた。就農した年は苗がほぼ全滅してしまった経験もある。以来、塩素剤やくん蒸剤を使った土壌消毒を徹底し、だいたい抑えられるようになった。それでも、この病気はイチゴの育苗期間と同じ6月下旬から9月下旬の高温期に発生しやすいため、育苗中の防除が欠かせない。

 普通栽培では、親株からポットや24穴トレイなどにランナー受けをして苗を増やすので、育苗中は葉が混み合い、薬剤が1株1株にかかりづらかった。しかし、本圃へ早めに定植することで、株同士の葉が重ならず薬液がしっかりかかるようになり、炭疽病に困らなくなったと感じている。

紙ポットで育苗中のきらぴ香(普通栽培の苗)。本葉3枚に摘葉しているが、葉が重なり混み合っている

 ベッドに定植する位置も工夫して、防除のときの動線をよくした。

 栽培のポイント

 真夏の苗づくりがラクになるし、防除もしやすい。未分化定植・本圃増殖栽培はなんだかよさそうだ。でも、花芽分化は低温・短日・低チッソで促進されるはずだ。本圃でこの環境を作れるのだろうか? 分化は遅れないのだろうか? そもそも、本圃でランナーを挿したら、生育が不揃いになるんじゃないの?

 この栽培方法を指導しているJA静岡経済連の渥美忠行さんにポイントを聞いてみた・・・

この記事の続きは2022年11月号をご覧ください

今号から「イチゴの未分化定植・本圃増殖栽培」の連載がスタートしました。12月号では、気になる今年の花芽分化と分化前後の管理について詳しく紹介しています。ぜひ定期購読でお楽しみください。

ことば解説

 ランナーは親株から出るつるのこと。地面を這って伸び、子株をつくる。『現代農業』では特に、イチゴの苗を定植したあと、本圃でランナーを挿して増殖することを「ランナー挿し」と呼ぶ。

 イチゴで大問題になる病気。6〜9月の高温期に発生しやすく、雨やかん水で広がる。育苗中に出ることが多く、葉、葉柄、ランナー、クラウンなど、あらゆる部位に感染。最終的には株が枯死する。保菌した苗を植えると、本圃でも発病する。

 生長点で、将来、花になる芽ができること。花芽分化のスイッチが入るのは温度や日長、肥料、生育段階などが関係し、その条件は作物によって違う。

増補改訂 イチゴの作業便利帳

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