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サツマイモ越冬保存術 車内でお手軽キュアリング、紙袋で簡単保存

福島・菅野元一さん

イモの技術を伝えていきたい

 小さいころから冬に食べるサツマイモは決まって保存食としての干しイモだった。「サツマイモは越冬できないのだろうか。一年中おいしい焼きイモを食べられたらいいのに。種イモも自分で越冬させられたらいいのに」と考え、イモの研究をしてきた。最近はジャガイモの品種改良に取り組んでいる。

 サツマイモ、ジャガイモをはじめとしたイモ類は近年特に人気があり、作物の中でも重要な部門だと感じている。縁あって長い間、農業高校で多くの方に技術を教えてきた。リタイアして教える機会が少なくなったが、次世代に技術をわかりやすく伝えることの必要性を感じ、現在も体力の続く限り畑に出ている。

 今回は私がいつも実践しているサツマイモを越冬させる保存方法を紹介する。

キュアリングで腐りにくくなる

 サツマイモは収穫したら、キュアリング処理をしてから貯蔵する。キュアリングとは、収穫後3〜4日間、サツマイモを高温・高湿度条件下(温度30〜35℃、湿度90%)に置く処理のことである。表面の傷がかさぶた状にコルク化して、雑菌の侵入を防ぐことができ、腐りにくくなる。サツマイモ収穫時は必ずイモの先端部が傷つくのでキュアリングは大切である。

加温も加湿もなしでキュアリングができる

 キュアリングは加湿器やエアコンなどを入れた大きな設備で大規模にやる方法が一般的だが、自分の畑で収穫したイモを身近なものだけで加温も加湿もせずにキュアリングする方法を考えた。サツマイモの収穫は秋である。この時期に無加温でキュアリングの条件に近くなるのは車の中だ。車内であれば、ポリ袋があれば簡単にキュアリングができる。

 準備として、収穫したイモは半日ほど畑で乾かして泥を払う。サツマイモを温湿度計と一緒にポリ袋に入れ、その袋を水を入れたペットボトルと一緒にさらに大きなポリ袋に入れる。どちらの袋にも空気を入れて膨らませ、保温性を高める。

 車内で放置すると温度と湿度が上がりキュアリングに最適な環境が再現できる。もし真昼に高温になりすぎるときは車窓の開閉で調節する。夜冷え込む時期はあらかじめペットボトルを黒い靴下などで包んだり、墨汁で黒くした水を入れておく。黒いペットボトルは熱いときに熱を吸収し、冷めにくいので保温材になってくれる。もしくは覆う袋の枚数を増やして対応してもよい。

 3〜4日置いたら袋から出して、並べて乾かす。

サツマイモ
イモは晴天時に収穫。半日ほど畑で乾かし泥を払っておく
車内に3〜4日放置。袋を置く場所は太陽光が当たる座席など。数時間なら40℃ほどまで気温が上がっても問題なかった
「サツマイモ越冬中」の札は保存しているのを忘れないために付けている

保存しやすいのは中太りのイモ

 キュアリングが完了したら、保存に適したイモとそうでないイモを区別しておくといい。

 保存しやすいイモは中太りで皮の厚いもの。そのような特徴の品種や、その中でもより太った皮の厚いイモを越冬させるものとして優先的に選ぶ。理由は私たちの体を見ればわかる。しもやけになりやすいのは、耳→足→手の順であり、同じ手足でも、小指→薬指→中指と、末端から順に並ぶ。この原理をサツマイモに当てはめると、イモの先端部や細い部分ほど弱くて腐りやすい。保存に向かない細い形のサツマイモは、保存したとしても優先的に食べるといい。

紙袋に入れて居間で保存

 保存するサツマイモを入れるものは、通気性のあるものなら何でもいい。ポリ袋や衣装ケース、発泡スチロールなどは通気性が悪く、イモから出てくる水分が結露して腐る原因となりやすい。身近にあるものなら紙袋か布袋がおすすめだ。イモを新聞紙で包み、断熱材としての古着やタオル、毛布の切れ端などと一緒に紙袋に入れる。布類で隙間を埋めるが、ぎゅうぎゅうに詰めすぎないようにして、上部は軽く紙か布で覆うだけにする。

 袋を置く場所は居間が一番である。居間はストーブかコタツがあり、冬期でもサツマイモ保存にいい13〜15℃ほどになっている。ポイントは居間の中でもより暖かい天井付近、高い棚の上に置くか吊るすことだ。

保存条件のポイントは通気性

 なぜこのような方法で長期保存できるのか。ヒントはサウナ風呂の原理にある。生物は乾燥状態なら比較的高温でも生存できる。普通の風呂では50℃もあればやけどするが、水を張らないサウナ風呂なら70〜90℃でも耐えられる。これは低温でも同じことで、乾燥状態なら大丈夫。腐るといわれる9℃以下であってもサツマイモは生きることができる。私の実験では、冬数時間なら5℃以下になってもサツマイモは耐えられた。つまり、居間の温度が夜に一時的に下がっても、通気性のいい状態であれば問題ないということだ。私はこの方法で何年もサツマイモの越冬保存に成功している。

 サツマイモの保存にはいろいろな方法があるが、皆さんには気楽に試してほしいという思いで、温度調節や湿度調節をしなくてもいい方法を紹介した。この方法なら設備や道具のない家庭でも実践でき、冬中サツマイモを楽しめるだろう。

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現代農業2022年12月号では、サツマイモ関連の以下の記事も掲載しています。ぜひ本誌でご覧ください。

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