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〈子実トウモロコシ〉作業時間が短い、水管理がいらない 中山間地でこそ栽培するべきだ

転作の子実トウモロコシが各地で爆速拡大中。
輪作に組み込むメリットや、防除の工夫も見えてきた。
目指すは飼料用トウモロコシの自給率100%。
各地で栽培に燃える農家の取り組みを紹介する。

子実トウモロコシをコーンヘッダー付きのコンバインで収穫する様子(赤松富仁撮影)

山形・川井大輔

マークは文末に用語解説あり

筆者(47歳)と妻。静岡県から移住し、就農9年目。子実トウモロコシ40aのほか、イネ2ha、ソバ6.5haを栽培

担い手不足の中山間地で農業

 採卵鶏300羽のほか、子実トウモロコシ、水稲、ソバ、その他に雪下ニンジンとツルムラサキを栽培しています。すべてほぼ1人で作業していて、規模はあまり大きくありません。

 私が住む山形県西川町は山林が大半を占める中山間地域で、人口減少と高齢化が日本の平均よりはるかに進んでいます。当然農家も高齢化と担い手不足に直面していて、農協の青年部に所属しているのはわずか7人。そのうち6人は県外や町外からの移住就農者です。私より若い農家となると、本当に数えるほどしかいません。

 当地にはソバ生産組合があり、水田転作として70haほどを耕作しています。就農して2年目に入った頃、大きい農業法人からソバを6ha栽培してほしいと打診がありました。当時はソバを栽培するつもりがまったくなかったので最初は断ったのですが、他に頼める人がいないということで試験的に引き受け、現在に至ります。

 当時はまともなトラクタすら持っていなかった移住者の私に依頼が来たことに驚き、農家の高齢化と担い手不足の現実をまざまざと見せつけられました。

収穫後の子実トウモロコシ。飼っているニワトリに与えるほか、フレコンで県内の畜産農家に販売する

求めていたのはこれだ!

 西川町のソバの播種時期は7月後半から8月上旬で、今年のようにずっと雨続きだとまともに発芽せず、収量は大幅に減ります。当地ではソバをずっと連作しているパターンがほとんどで、圃場の排水性の悪さもあって収量が伸びず、どうにかならないかと考えていました。

 そんな6年前、たまたま子実トウモロコシ栽培についての投稿をSNSで見かけました。トウモロコシは直根型の作物で、地中深くまで根を伸ばすことで排水性が向上し、圃場に残る茎や葉で土壌改良効果が期待できるとのことでした。これをソバ連作の間に挟めばソバの収量も伸びるかもしれないし、播種時期(子実トウモロコシは5月中旬播種)がズレることで作業に余裕ができる。私が求めていたのはこれだ!と、さっそく茨城県で予定されていた収穫実演会に申し込んだのですが、そのときは台風で現地に甚大な被害が出てしまい、残念ながら実演は中止になりました。

 もうこうなったら実際にやってみるしかないと思い、子実トウモロコシの種子をネットで探して購入。収穫機械のアテもないまま、2018年に20aで試験栽培に踏み切りました。その後、私が栽培を始めたことを聞きつけた県の農業普及指導員の先生が訪ねてきてくださり、いろいろとお話ししました。

 先生があちこちに交渉してくださり、1、2年目はデモ機としてクボタのコンバイン、3、4年目と5年目の今年はヤンマーのコンバインをお借りできることになりました。

育ててわかった栽培のポイント

 実際に5年間栽培してみて、実感している栽培のポイントを紹介します。

排水対策はするべき

 サブソイラプラソイラでの心土破砕や、明渠弾丸暗渠等の排水性を上げる作業はしたほうがいいと思います。私の場合、昨年までとくに排水対策をしなくても600kg/10a程度は収穫できていましたが、今年初めて弾丸暗渠を施工したところ、明らかに生育がよくなり、さらに増収できそうです。

品種選びはアドバイスを受ける

 初年度はよくわからず、とりあえず手に入る種子を購入しましたが、やはり種苗メーカーのアドバイスを受けて品種を選んだほうがいいと思います。今年はカネコ種苗に土地の気候と刈り取り時期に合う品種(KD641)を選定してもらいました。

安価な堆肥を活用する

 トウモロコシは肥料食いの作物です。肥料価格が高騰している現在、化成肥料だけだと採算が合わなくなる可能性があるので、牛糞や鶏糞を積極的に利用するべきだと思います。

メリットは盛りだくさん

 つぎに、トウモロコシを栽培することで、実感しているメリットを紹介します。

後作ソバの収量が2倍

 2年間子実トウモロコシを栽培した圃場で、翌年はソバに戻しました。長雨の影響で通常より2週間遅く播種しましたが、生育は旺盛で収量も地域平均の2倍(80kg/10a)程度まで伸びました。明らかに子実トウモロコシの効果が出ていて、輪作に組み込むメリットを十分に感じました。

中山間地でも作業時間が短い

 10aのだいたいの作業時間ですが、・・・

この記事の続きは2022年12月号をご覧ください

この記事のほか、2022年12月号では子実トウモロコシ栽培がよくわかる次の記事も掲載しています。

  • 後作ダイズでマメシンクイガの食害が激減 大島正晃

ぜひ本誌でご覧ください。

ことば解説

 トラクタで引っ張る作業機の一つ。長い爪が数本付いた構造をしている。この爪が水田の作土下にあるすき床層(心土)や、畑土壌の硬い層(耕盤)を破砕。水みちをつけて排水をよくする。

 心土破砕と天地返しの二つの機能を併せ持つトラクタ作業機。挿し込まれた爪に沿って、せり上がるように土が動く。線状に溝を切るサブソイラと違い、幅広でV字形の溝ができる。

 排水対策用に施工する渠(水路)の一つ。地下部にある暗渠とは違い、地表にあって上部が開け放たれた構造の溝。「開渠」とも呼ぶ。雨天時の表面流水や地下の耕盤の上から浸み出す水を受け止め、圃場の外へと流し出す。

 排水対策のための補助暗渠の一つ。サブソイラなどで弾丸状の穿孔器(直径8〜10cmの弾丸形)を引っ張って地中に穴をあけたもの。浸み込んだ水はここを通り、本暗渠や明渠へと流れていく。

最新農業技術 畜産vol.9

農文協 編

元雪印種苗(株)の橋爪健氏が飼料作物の最新品種を紹介。トウモロコシから、ソルガム・スーダングラス、北海道・寒地型牧草のチモシー、オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、メドウフェスク、ケンタッキーブルーグラス、スムーズブロームグラス、都府県・寒地型牧草のイタリアンライグラス、トールフェスク、フェストロリウム、ムギ類のエンバク、ライムギ、オオムギ、暖地型牧草のギニアグラス、ローズグラス、バヒアグラス、パリセードグラス、セタリア、マメ科牧草のアカクローバ、シロクローバ、アルファルファ、ガレガまで。

草地・飼料作物大事典

農文協 編

寒地から亜熱帯まで地域ごとの草地の維持管理や更新、トウモロコシ、アルファルファなど主な耕地型飼料作物栽培方法、ロールベール、フォレージマット含む各種サイレージ、乾燥の調製、エコフィード、TMRまで網羅的に取り上げている。注目の飼料イネは、低コスト安定栽培技術から、ホールクロップサイレージ(WCS)の調製・保管・給与法、放牧利用、玄米利用までスペースをとり詳しく紹介。専門家約100名が執筆。