現代農業WEB

最新研究 「くん炭が病気を抑える」メカニズムが解明!? バチルス菌「IA株」を発見 

現代農業2022年12月号の特集「モミガラくん炭&竹炭」とあわせて読みたい過去の記事を期間限定で公開します。こちらは2018年1月号の記事。――「くん炭を入れると作物が病気に強くなる」。そんな農家の実感を、科学的に裏付けてくれそうな研究の話です。

近畿大学・阿野貴司

くん炭がいいのはなぜ?

 稲作では収穫されるモミのうち約2割がモミガラとなり、国内の排出量は年間約200万tと見積もられています。世界的に循環型社会への関心が高まっていて、農業においても環境保全型農業が推進されている現在、こうした農業廃棄物をいかに活用するかが課題だといえます。

 一方、日本では古くからモミガラをくん炭にして土壌改良材として有効利用してきました。くん炭を土壌に施用することで、ミネラルの供給やpH調整ができるだけでなく、くん炭中の豊富な微細孔が土壌の排水性や通気性、保水性の改善といった物理性を改善することが知られています。微細孔はさらに、菌根菌や根圏微生物といった有用微生物の棲みかとなり、作物の生産性を向上させると考えられています。

 しかし、くん炭が土壌中の有用微生物を刺激して植物の生長を促進する詳細なメカニズムは、まだほとんど明らかにされていません。そこで私たちの研究室では、その現象を微生物学的なアプローチで解明することを試みました。メカニズムを明らかにすることで、くん炭の農業利用を促進し、モミガラを土壌に還すことで環境保全型農業に貢献することを目的に研究しています。

くん炭があると殖える細菌

 初めに、くん炭があると生育が促進される微生物を環境中から探しました。くん炭を添加(5g/L)して作った寒天培地でさまざまな微生物を培養し、くん炭の有無による微生物の増殖面積を比較しました。その結果、くん炭培地で特異的に増殖するバチルス(バシラス)属の細菌「IA株」が得られました。(上の写真)バチルス属は土壌中にも一般的に見られる細菌です。

 くん炭を添加した培地と添加していない培地での増殖面積を比較すると、その差は培養2日目から生じ、培養5日目にはくん炭培地での増殖面積が非添加培地の3倍にもなりました(図1)。くん炭があるとIA株の増殖、運動性が向上することがわかりました。

 同様に液体培養もしてみました。くん炭を添加(5g/L)した液体培地と添加していない液体培地にIA株を植菌して5日間培養し、IA株の生菌数をそれぞれ測定しました。すると、くん炭を添加することで、生菌数が10倍も増加することがわかりました。

 また、くん炭を添加することでIA株の胞子形成率は0・2%から75%まで上昇しました。これは、IA株が十分に増殖し、一部の菌が胞子化(生き残るために休眠すること)したことを示しています。

抗菌物質で病原菌を抑える くん炭が多いほど抑える

IA株の抗菌物質が病原菌(リゾクトニア)を抑えた。くん炭を添加しなかったIA株培養液の上清(上澄み液)ではリゾクトニア菌が全面に広がったのに対し、くん炭を添加した培養液の上清ではリゾクトニア菌の増殖を抑える「阻止帯」が形成された

 ところで、バチルス属細菌はさまざまな抗菌物質を生産することが知られています。そこでIA株も抗菌物質を生産しているか調べました。

 IA株を培養後、菌体を取り除いた培養液(培養上清《じょうせい》液)が、苗立枯病を引き起こすカビ、リゾクトニア菌の生長を抑制するか試験したところ、上写真のように、みごとに増殖を抑制しました。くん炭を添加しなかったIA株培養液の上清ではリゾクトニア菌が全面に広がったのに対し、くん炭を添加した培養液の上清では、リゾクトニア菌の増殖を抑える「阻止帯」が形成されました。IA株はリゾクトニア菌の生育を抑える抗菌物質を生産しており、その生産量はくん炭を添加することで増加することが明らかになりました。

 さらに、くん炭の量を増やしたらどうか。IA株を培養する培地に添加するくん炭を増やして、その抗菌物質生産濃度を測定しました。その結果、くん炭添加量が増加するにつれて抗菌物質の生産量も増加し、30g/Lの時に最大量を示しました(図2)。これは、くん炭を添加せずに培養した時の8倍の生産量です。

土壌中でもIA株が活躍!?

 本研究により、くん炭が存在すると生育が促進するバチルス属細菌IA株を単離することに成功しました。そして、このIA株はくん炭を添加した培地において(1)運動性が上がる(2)増殖が促進される(3)抗菌物質の生産が促進される、といった特徴をもつことがわかりました。

 本研究は実験室内で行なったものであり、土壌中で同じ効果があるかどうか、まだわかりません。しかし、農家の皆さんが実証してきた「くん炭を施用すると植物が病気にかかりにくくなる」といった現象と、今回、研究室のフラスコ内で起きたことは、密接に関係すると考えられます。

 今後は、くん炭があるとなぜIA株の増殖、抗菌物質生産を促進するのか、IA株の他にもくん炭で活性化される微生物が存在するのか、そして、田畑にくん炭を施用すると作物の生育や耐病性が実際に向上するのか、といったことを科学的に解明していきたいと考えています。

*月刊『現代農業』2018年1月号(原題: 最新研究 「くん炭が病気を抑える」メカニズムが解明!? バチルス菌「IA株」を発見)より。情報は掲載時のものです。

この記事が掲載された現代農業2018年1月号「もっと上手に もっと大量に モミガラくん炭最前線」コーナーには、他にもこんな記事が載っています。

  • サラサラでガンメタリック モミガラくん炭が直売所で大人気!
  • 図解 そもそも、くん炭ってなに?
  • 鉄板で囲って保米缶2.8杯分のモミガラを一気にやく

これらの記事はルーラル電子図書館でもご覧いただけます。