現代農業に2004年から14回にわたり連載した「果菜の作業コツのコツ」を週1回(全14回)期間限定でお届けします。キュウリの大産地、宮崎県の研究者だった著者の経験と観察、農家との付き合いの中でつかんだ果菜つくりの極意満載、目からウロコです。*本連載は再編・加筆され、2023年2月に単行本化されています。
元宮崎県総合農業試験場・白木己歳

立たせるな、寝かせろ
苗は深植えになるような鉢上げをすると、発根が遅れて生育が停滞する。スムーズに発根させるためには、根の部分を、通気性に優れていて根が張りやすい、鉢土の表層域におくことが大切であり、浅植えになるように鉢上げしなければならない。浅植えというと、普通、苗をまっすぐ立てる人が多いが、このやり方は作業性が劣る。また、苗が腰高に仕上がるうえ、次に述べる方法に比べて根量も少ない。そのため、苗が大きくなると頭が重く、根の突っ張りもきかないので倒伏しやすい。

作業が五倍くらい早い、丈の低い根量の多い苗になる
鉢上げには苗を寝かせる方法をすすめたい。作業のやり方は、鉢土を片手でひとつかみ取り、そこに苗を横たえて土を戻すのである。垂直に倒れないように立てて植える方法に比べ、作業の調子をとりやすい。一人が苗を鉢の上においていき、一人がその後ろから植えていく。植え手は土をつかみ取るとき、加減せずにガバッと握ることが、調子に乗る上で大切である。垂直に立てて植えるやり方に比べ五倍くらいのスピードで作業が進む。
そして、胚軸は少ししか土の上に顔を出さないので丈の低い苗になる。また、土の下の胚軸も浅い部分に位置することになり、発根が早く、根量も多くなる。当然、倒伏しにくい苗になる。
浅植えは鉢上げの原則であるが、「浅植えでありさえすればいいのだ」というふうにとらえると、胚軸が埋まることは即深植えだというような硬直さから逃れることができ、技術の地平が広がる。
なお、このやり方では鉢上げする苗の胚軸が長い場合、苗の頭は鉢の端っこに位置し、そこで首をもたげることになるが、それでかまわない。苗は鉢の真ん中に立たなければならない理由はないのである。それどころか、端っこに立ったほうが葉のかぶらない土面が広くなるので、育苗全期間を通じて水をかけやすい。また鉢施薬もやりやすくなる。
トマトの鉢上げ例



増収につながる、挿し木にも使える
平成九年夏、筆者が農業試験場のハウスでこの方法によりピーマンを鉢上げしているところに、たまたま西都市のピーマン農家の青年たちが来合わせたことで、技術の伝承がかなった。この技術は、青年たちのプロジェクトによって増収面も明らかにされ、翌年の4Hクラブ全国大会で発表された。
以上の鉢上げの理屈は、断根接ぎ苗などの挿し木の場合にも当てはまる。つまり、垂直よりも斜めに挿したほうが、胚軸の大部分から発根するし、丈の低い腰の据わった苗になる。
*月刊『現代農業』2005 年4月号(原題:鉢上げは苗を寝かせろ)より。情報は掲載時のものです。
【果菜の作業コツのコツ】公開予定
接ぎ木直後はしおれたほうがいい 2月2日(公開終了)
断根接ぎ木は当日までの天気で決まる 2月9日(公開終了)
鉢上げは苗を寝かせろ 2月16日(公開終了)
「よい苗」はポットとセルではちがう 2月23日(公開終了)
定植後からの防除では遅すぎる!(最終回) 3月9日
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\新刊情報/
深掘り 野菜づくり読本
白木己歳 著
定価1,870円 (税込)
ISBNコード:9784540211034
土壌消毒は根に勢いをつけるため、水を控えたければ土を鎮圧すべし、元肥には残肥を使うなど、ベテランほどよく間違う「思い込みのワナ」を解きほぐし、作業の意味を深掘り。技術の本質を見抜き、「栽培力」を磨く。
著者
白木己歳(しらきみとし) 1953年宮崎県生まれ、宮崎県総合農業試験場などに勤務したのち2012年に退職。現在は菱東肥料㈱顧問のかたわら、シラキ農業技術研究所を主宰。国内外(ベトナム、台湾など)で技術指導を行なっている。著書に、『トマトの作業便利帳』、『写真・図解 果菜の苗つくり』、『キュウリの作業便利帳』、『果菜類のセル苗を使いこなす』、『ハウスの新しい太陽熱処理法』いずれも農文協刊。