サトちゃん流ダブル管暗渠施工(下)塩ビ管で、水をスムーズに流す
福島県北塩原村・佐藤次幸さん
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稲作作業名人のサトちゃんは、昨年暗渠を自作し転作圃場の排水改善にチャレンジした。目標は、ソバのよく育つ畑。前回(1月号)は、バックホーでの穴の掘り方を紹介した。今回は、暗渠管の作製と設置について――。
メインはあくまで塩ビ管
昨年12月号でも紹介したように、サトちゃん考案の「ダブル管暗渠」は塩ビ管と◆コルゲート管の2種類を使ったもの。細かい穴のあいたコルゲート管は集水性や排水性に優れるため、これ一本を暗渠とする場合が多い。しかしサトちゃんによると、ダブル管でおもに排水を担うのは塩ビ管。コルゲート管はあくまで補助で、砕石などの疎水材の代わりなのだという。
「コルゲート管が水を塩ビ管に受け渡して、確実に水を排水するイメージ。コルゲート管だと下から水が逃げちゃうけど、塩ビ管は一度水が入れば抜けることなく流れるし、コルゲート管より丈夫でつぶれにくいのも利点よ」
塩ビ管メインの暗渠は、今回施工した圃場の性質にも合っている。というのも、「常に水が湧き出る場所」がピンポイントでわかっているため。その水が管に入るよう設置すれば、ストレートに効率よく流れていくわけだ。
ステップドリルでラクラク穴あけ
ところで、サトちゃんが買ってきたのは通常の安い塩ビ管。当然、入り口は両端にしかなく、管の側面からの集水はゼロ。これでは、コルゲート管から水を受け取れないが……。
サトちゃんによると、側面部分には自分で穴をあけるのだという。とはいえ、しっかり集水するためには、2cm程度の大きな穴をあける必要がある。ドリルビットやホールドリルで大きな穴をあけると、時間がかかったり、中にゴミがたくさん入ったり、仕上がりが汚くなったりしやすい。そこで、サトちゃんが使っているのが、ひみつ道具の「ステップドリル」だ。
このドリル、先から元にかけて細かく段が付いていて、どこまで挿し入れるかによって穴の太さを変えることができる優れもの。しかも、小さい穴を段々と広げていく形なので、負荷もかかりにくい。一瞬でまん丸の穴があくので、作業はガンガン続いていく。
穴のあけ方は自由自在だ。水源などたくさん水を集めたい場所では大きな穴にしたり、多めにあけたり、単純に水を流したい場所では、確実に流れるよう穴を少なくしたり。自主施工だからこその調整が利くのだ。
ステップドリルでの穴あけ作業

写真左:ステップドリル。タケノコ型で、どの段まで挿し込むかによって、穴の大きさを調整できる。金属用や木工用など用途別に売っていて、径の種類もさまざま。サトちゃんのものは約1500円

写真左:今回あけた穴。ドリルの最大である2.2cm径。なめらかできれいな穴になる
サンダーでの代用


防草シートで目詰まりなし
できあがった塩ビ管は、前回掘った穴に敷いていく。ソケットを使い、水源から水尻までつなげたら、水が勢いよく排水路に流れ出てきた。続けて、コルゲート管を敷いていく。こちらは単純に、塩ビ管に寄り添わせるように敷設。そして、最後に田んぼのアゼに使う「防草シート」を入れる。
「管をくるんで砂や石が入らないようにして、目詰まりを防ぐわけよ。このシート、入れたのと入れないのとじゃ、暗渠の持ちがぜんぜん違う。水はちゃんと通すから、集水性も下がらないよ」
管をくるんだ上から、さらにもう一枚防草シートを敷けば、土や石への対策は完璧。最後は上からバックホーで土をかけ、埋めてしまったら完成だ。
暗渠からは水が流れ続け、水はけの悪さはだいぶ解消。昨夏は目標のソバを播くことができた。だがしかし、ここでソバがガッツリ実っている姿を紹介することはできない。なんと、イノシシの食害で、かなりみすぼらしい畑になってしまったのだという。
「今度は獣害対策か。これはこれで、工夫のしがいがあるってもんよ」(編)
ダブル管暗渠の設置









記事といっしょに 編集部取材ビデオ
[ことば解説]
コルゲート管(こるげーとかん)
表面形状が凹凸によるコルゲート(波型)になっている管。有孔のものは、暗渠管として広く使われる。凹凸形状によって管を曲げやすく、運搬が容易。直径や穴のあき方にはさまざまな種類がある。
著者紹介
佐藤次幸(さとう・つぐゆき)
福島県北塩原村在住。「月刊現代農業」(農文協)でおなじみのサトちゃん、『イネつくり作業名人になる』著者。 水田と、ハウスや露地で野菜やハーブを栽培する。「農業には捨てるものがない。すべてが資源」という佐藤さんは、「ムダ」なことが大嫌い。だからイネも自分で育っていけるよう仕組む。畦草は牛のエサ。米も野菜も自分で販売する。自分が食べるものは自分でつくる。発想ゆたかに仕事も暮らしも楽しむサトちゃんを追う。
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