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【英語の原文あり】ご先祖たちと ターキーレッド|新連載 レイモンドからの手紙

北海道で、畑を耕さない「大地再生農業」を実践するレイモンド・エップさんが、3歳の孫のあやめちゃんに自身のルーツや半生を綴る。

🔤レイモンド・エップさんが書いた原文(英語)はこちらご覧いただけます

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  レイモンド・エップ/荒谷明子訳

筆者(64歳)。アメリカ合衆国ネブラスカ州出身 (下段丞治撮影)
筆者(64歳)。アメリカ合衆国ネブラスカ州出身 (下段丞治撮影)

あやめちゃん

 ジイジは毎日のように君に会えるのが、とても幸運なことだと思っています。君がどんどん新しい言葉を覚え、お母さんやお父さんと一緒に新しい出来事を学んでいく姿に日々驚かされています。

 君はジイジが育った世界とはあらゆる意味で違った世界で生きていくことになるのでしょうね。昔はよかったとか、素敵だったと言いたいわけではない。今も昔も変わらないことは、人が生きるのに本当にしなければならないことは何か、生きる意味とは何かを探し求めなければならないことです。

 人は、現在の世界の辛いことやひどいことと向き合って日々生まれ変わって生きています。ジイジのひいおじいさん、ひいおばあさん、あやめちゃんにはひいひいひいおじいさんやひいひいひいおばあさんや、もっと前のご先祖たちが、ずっと生きることの意味を探し求めてきたのは、それが生き死にに関わることだったからなんです。

1930年代のターキーレッドの小麦畑。左の少年は筆者の亡父
1930年代のターキーレッドの小麦畑。左の少年は筆者の亡父
孫のあやめ
孫のあやめ

誰も取り残されない、 助け合う世界

 ジイジは恥じることなく、誇りをもって君に伝えます。君は何世代も続いてきた農民の子孫です。500年以上前から、ご先祖は神の子として生きるとはどういう意味なのか考え続けてきました。仲間と一緒に聖書を読み、どう生きたらいいかと探求してきました。

 誰かに無理な命令をされたり力で従わせられるのはおかしいこと。自分も人もそれぞれが大切な存在なのだから、誰かが他の人よりも優れていることはないと聖書から学びました。ご先祖たちは農地、森林、放牧地を心をこめて手入れし、みんなで大切に使おうとしました。その生き方がお金持ちや政府の考えと違っていたので、暮らしを脅かされたこともありました。

 1524年に起きた ド イツ農民戦争(*)として知られている出来事もそうです。誰も取り残されないような助け合う国をつくろうと、農民が力を合わせた運動でしたが、当時のキリスト教会と政治指導者たちは半年の間に 10 万人以上の農民を殺し運動を終わらせたのです。

*ドイツ農民戦争

1524年から25年にかけて南西ドイツを中心に起きた農民一揆。農奴制廃止や地代の軽減、裁判の公正など12カ条の要求を掲げて蜂起したが、領主たちの諸侯軍に弾圧された。

ウクライナの 美しく豊かな土地へ

 ドイツ北部にいた君のご先祖たちは、生き残ったそのときから、安心して暮らせる場所を求めて生きてきました。優れた農民たちだという噂がエカテリーナ女帝の耳に入り、1753年ロシアに招かれました。現在のウクライナ、ドニエプル川の両岸の土地です。

 そこは美しく豊かな地域でしたが、まだ農地が開かれていませんでした。よい畑にしてくれるなら、政治も教育も自分たちのやり方でやっていいし、ロシアの兵隊にならなくてもいいと約束してくれたので、ご先祖たちは一生懸命働いて、そこにいくつもの集落をつくりました。

 ところが、1860年代、当時のロシア皇帝はそれらの特権を取り上げようとしたのです。これからはロシアの政府に税金を払いなさい、学校ではロシアのやり方で子どもたちを教えなさい、そして若者はみんなロシアの兵隊になりなさいと言われたのです。

1万8000人が国を出た

新連載レイモンド手紙05

 君のご先祖たちは、大変なことに出会ったときはいつもしているように、みんなで集まり、神さまに祈り、どうしたらいいのか考えました。そして、皇帝の布告に従うよりも、国を出て、アメリカの肥沃な草原地帯で新しい暮らしを始めることを選んだのです。1万8000人もの人々が出ていくと決めたことで、政府はとてもびっくりして、最後にはロシア皇帝も方針を変えました。でも、もうそのときにはご先祖たちは、神が自分たちを新しい土地に呼んでおられるとアメリカへ向かう決心をしていたのです。

 ドニエプル川のほとりにある メ ノナイト(*)集落を離れる時が来ました。それぞれの家族は荷物を入れる木製のトランクを作りました。二度と戻ってこないという思いで、そこに家族にとって大切なものを選んで入れました。そして美しい 象嵌細工ぞうがんざいくが施された蓋を閉じる前に、衣類やキルトの間にターキーレッド小麦の種子を注ぎ込みました。

 彼らはトランクをドイツのハンブルク行きの列車に積み込み、そこから石炭を運ぶための蒸気船に乗ってニューヨークに向かう長い旅に出たのです。ニューヨークには、到着した彼らを出迎える自由の女神はまだ居ませんでした。彼らが到着した1874年のあとに建造されたためです(1886年建造)。

*メノナイト

キリスト教プロテスタントの一派。絶対平和主義や教会と国家の分離、信者の自由意志による再洗礼が基本的な教え。兵役を拒否したため迫害を受けた歴史をもつ。

ターキーレッドの穂 (佐藤敏光撮影)
ターキーレッドの穂

草が高く生い茂る土地を 新しい故郷に

 ニューヨークから列車でネブラスカ州リンカーンに移動したご先祖たちは、定住する土地を探しました。最初に鉄道会社の人が案内してくれた西部の土地は草の丈が低く、これではよい作物は育ちそうにないと考え、諦めました。

 戻る途中で、鉄道員たちが、興味を持てそうな土地が一つあると話してくれたので、ネブラスカ州サットンに立ち寄り、馬で 15 ㎞ほど北上した場所に到着すると、なんと、そこでは馬の背に乗っている人が隠れてしまうほど草が高く生い茂っていたのです。

 君のひいひいひいおじいさん、ひいひいひいおばあさんを含む 35 軒の家族は、ここを自分たちの新しい故郷にしようと決めました。その後、耕作用道具や家畜を購入し、最初の冬を過ごすために鉄道会社が建ててくれた簡素な家に到着すると、女性たちの瞳から涙が流れ落ちたそうです。

ターキーレッドで厳しい冬を乗り越えた

ご先祖たちがウクライナからアメリカに移住した際に運んだトランク
ご先祖たちがウクライナからアメリカに移住した際に運んだトランク

 冬が近づいていたので、ゆっくりする暇はありません。男たちは土地を耕し、土を整える作業に取りかかり、女たちは貴重な種子を一粒もなくさないように気をつけながら、慎重に荷物を取り出し、トランクを空にしてから、タネを拾い上げ、畑に播きました。

 ターキーレッドは、驚くほどよく育ちました。そのときアメリカで育てられていたどんな小麦よりたくさんの実をならせたし、それで焼いたパンはふんわりと膨らみ、味も香りも比べものにならないほどでした。 35 家族が一つ屋根の下で暮らすのは大変だったけれど、この小麦のおかげで、誰もお腹を空かすことなく最初の冬を越すことができました。

 評判が広がり、ターキーレッドはすぐにアメリカの主要な小麦品種となりました。背の高い麦の穂が夏のそよ風に吹かれて海のように波打つ様はとてもきれいです。ターキーレッドは1940年代初頭まで農村風景を彩り続けました。

 しかしながら、その後、ある出来事を境にこの小麦は姿を消していくことになります。それについてはこの次にお話しすることにしましょう。

(北海道長沼町)

レイモンドさんが書いた英語の原文は、こちらでご覧になれます。

📖あわせて読みたい

レイモンド・エップさんの農業実践

  • 2023年5月号p 37「微生物が喜ぶ、土が肥える ローラークリンパーで倒して敷き草に」
  • 2023年 10 月号p 70「カバークロップとヒツジ放牧で大地再生農業」
  • 2024年 1 月号p 70「高温・干ばつ、豪雨に負けなかった 大地再生農業の土を見た」
  • 2024年2月号p 155「無肥料・不耕起の小麦には、『ターキーレッド』『きたほなみ』がいい」

今月号の試し読み

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張り方・使い方のコツと裏ワザ

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アグロエコロジー 持続可能なフードシステムの生態学

スティーヴン・グリースマン 著
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日鷹一雅 監訳
宮浦理恵 監訳
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持続可能な食と農のあり方を考える「科学・実践・運動」の新しいアプローチ『アグロエコロジー(Agroecology)』待望の日本語訳。アグロエコロジー(直訳すると「農生態学」)は、飢餓や環境破壊を引き起こす大規模・集約的な農業のあり方を変えるために生まれた新しい「科学」であり、原著は欧米を中心に教科書として広く使われている。アグロエコロジーは、自然の力を高める有機農業や自然農法の「実践」を広げる。また、環境や農業の分野に留まらず、経済・社会・文化の多様性を目指し、既存の価値観を転換する「社会運動」でもある。

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