「ノー・ディグ農法」がヨーロッパやアメリカの家庭菜園を中心にブームになっている。不耕起の畑に段ボールマルチをし、その上に堆肥でウネを盛って苗を定植するという、なんとも奇抜な発想だ。イギリスで実践するサンディーレーンファームのジョージ・ベネットさんにメールで連絡してみたところ、日本のみなさんの役に立てばと、英語で原稿を送ってくれた。
🔤ジョージ・ベネットさんが送ってくれたメールの原文(一部)をこちらでご覧いただけます。
ジョージ・ベネット
段ボールを置いて堆肥でウネをつくるだけ
サンディーレーンファームでは年間300種類以上の有機野菜をつくっていて、数年前から不耕起栽培に取り組んでいます。
段ボールと堆肥のマルチを使った不耕起栽培「ノー・ディグ(NoDig)」は、雑草が抑えられ、小面積で収量が上がるのでヨーロッパでも人気が出ています。今回は私の農園で実践している方法を紹介します。
不耕起栽培でまず困るのは雑草。雑草が生える地表に段ボールを置き堆肥を盛ってウネをつくり、物理的に抑えるのが「ノー・ディグ」のやり方です。雑草を抜いたり土を耕したりしなくてもすぐに作物を植えられるウネができるのがいいところです。うちではより確実に雑草を抑えるために、作付け予定地に夏の間黒マルチを張り雑草を減らしています。
定植時期になったら、畑一面に段ボールを敷き、ウネにしたいところに8㎝以上の厚さで完熟堆肥を置きます。通路にも8㎝以上、ウッドチップを敷きます。段ボールはだいたい2~3カ月もあれば分解されてなくなります。役割としては初期の草抑えといった感じです。
堆肥の層に植え穴をあけ、苗を定植。すると自然に作物の根が分解中の段ボールを突き抜けて、地面の層まで根を張っていきます。
除草しやすい作物もローテーションに組み込む
うちの不耕起畑は5年で1周のローテーションを組んでいて、作目は①フダンソウ、ホウレンソウ、②レタス、セロリ、フェンネル、③マメ、④ズッキーニ、⑤ニンニクとしています。除草が大変な葉物やハーブだけでなく、鍬で除草がしやすいマメやニンニクを交互に作付けると年々雑草を抑えやすくなります。
マメとズッキーニの年には土づくりのために作物の株元にファセリア、クリムソンクローバ、ペルシアンクローバなどの緑肥を播きます。霜が降りれば自然に枯れますし、これも草抑えになります。雑草は悪ではないですが、抑えることで作業性や収量が上がるのも事実です。
保水性が上がり収量2倍
私たちの畑は砂地で、夏は乾燥気味ですが、不耕起のウネにしてからかん水を減らせました。湿度が安定して雑草と競合しないので、作物がかなり早く生長することにも気付きました。特に「切ってはまた生えてくるタイプ」の作物、フダンソウやホウレンソウは、夏なら3週間に1度のペースで再生し、収穫できます。耕している時と比べて収量は2倍以上。ニンニク、セロリ、セルリアックも不耕起と相性がいいようで、大きくていいものができます。
ただしトラクタを走らせるのと比べれば準備に手間がかかるのと、かなりの堆肥が必要なのがデメリット。大規模で商業的に育てられるジャガイモ、タマネギ、ネギ、スイートコーン、キャベツ、カボチャといった作物を育てる畑は、うちでもトラクタで耕して栽培します。狭い面積での増収に限界があり、一定の量を確保するにはある程度の面積が必要だからです。大面積を段ボールと堆肥マルチすることを考えると、機械を使うほうが圧倒的に効率がいい。
といっても不耕起はやっぱり効率を超えた魅力があります。土の健康や生物多様性、持続可能性などを考えると追究したいテーマです。日本のみなさん、グッドラック!
(イギリス オックスフォード)
この記事の英語の原文はこちらでご覧いただけます。
現代農業2024年5月号「有機物マル チに ますます期待」コーナーでは、以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。
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張り方・使い方のコツと裏ワザ
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耕種農業にマルチ・トンネルなどは欠かせない。それらをうまくつかいこなせば収量が増えたり身体がラクになったりと経営にとってプラスとなる。本書は、マルチとトンネルのラクな設置・片付け方法、効果的な使い方などのコツと裏ワザから、金のかからない素材や新しい機能性を備えた資材を紹介する。黒マルチをかぶせるだけの超浅植えジャガイモ栽培や換気不要の不織布トンネル、鏡面のごとくぴっちり張ったマルチは虫除け効果もあるという話も面白い。農作業をラクにする情報が満載。