農業用マルチ(土壌表面を被覆するもの)は、従来のポリエチレンマルチに加え、近年「生分解性マルチ」の使用量が増えてきました。「生分解性マルチ」とは、微生物によって分解されるマルチのこと。特徴を知れば、かしこい使い方が見えてくるかもしれません。
材料は?なぜ分解しやすい?――大手フィルムメーカー、MKVアドバンス(株)に伺いました。
MKVアドバンス株式会社・安田磨理さん
微生物がアタックしやすい素材
――生分解性マルチはどうして分解するんですか?
一番の原因は微生物です。正確には、微生物がエサを食べるために吐き出す分解酵素。酵素がフィルムの分子をつないでいるチェーンをぶった切って分解していくんです。水分や日光でも多少は分解が進みますが、基本的には微生物の酵素によって、最終的に水と二酸化炭素にまで分解されてしまいます。
普通のポリマルチの主原料はポリエチレンです。かたや生分解性マルチの主原料はポリエステル。どちらもほとんどは石油由来のものですが、ポリエステルはポリエチレンよりも分子をつなぐチェーン自体が弱くて隙間もあったりする。だから自然界の微生物がよりアタックしやすいんです。
原料、作り方で分解しやすさが変わる
――短期タイプと長期タイプは何が違いますか?
微生物がアタックしやすいかどうかを変えています。うちでは「カエルーチ」(展張して約2カ月で分解開始)と、より分解が緩やかな「カエルーチL」(約3カ月で分解開始)を作っています。厚さは同じ0・018㎜ですが、原料が微妙に違う。生分解性ポリエステル樹脂の中にも、硬くて分解しにくいものや柔らかくて分解しやすいものなど、いろいろな種類やグレードがあります(左上表)。われわれフィルムメーカーは、樹脂メーカーから複数の種類を買ってきて、独自のレシピで配合や薬剤を変えて、狙い通りに調整するわけです。
製造時のほんのちょっとした調整でも違ってきます。フィルムは、樹脂を高温で溶かして液状にしてから、風船を作るように空気を送ってプーッと膨らませて薄くのばし、それを切って作ります。この時の、膨らませるスピードや冷やし方などでも出来が変わってくるんです。
微生物と気候が分解速度に大きく影響
――収穫が終わった時、ちょうどよく破れてくれるタイプが欲しいという声をよく聞きますが……。
マルチとして使う間は形を保って、使い終わったらすぐに壊れてほしいってことですよね。まあ生分解性マルチって、そういう無茶苦茶な使命を負わされている。しかも同じマルチでも、圃場の土壌の状態や気候によって、分解スピードが変わってきちゃう。だから作るのも売るのも、ヒジョーに難しいんですよ(笑)。
さきほど言った通りマルチが分解し始める目安は示していますが、まず土壌中に微生物がどれだけいるかでかなり違ってきます。砂丘の砂を入れた畑と、山の腐葉土を入れた畑では、圧倒的に後者のほうが分解が早いはず。それから気温。酵素を生産する微生物にとっては30℃前後が活動しやすい。そこに水気があると、微生物が活発になったり加水分解されたりして分解はどんどん進みます。逆に冬の寒い時期や、昨年の夏のように気温が高すぎて雨も降らない時に使うと、微生物の働きが鈍るので分解は緩やかになります。……
この続きは2024年5月号をご覧ください
現代農業2024年5月号「メーカーに聞く 生分解性マルチってどんなもの?」では、以下の疑問についても載っています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。
- ――有機物をたくさん入れて土づくりを頑張っている畑ほど、分解が早いってことですか?
-
――えっ!? じゃあ田んぼの土をまけば分解スピードを速められる?
-
――ずばり、もっと安くなりませんか?
今月号の試し読み
今月号の取材動画
動画は公開より3ヶ月間無料でご覧いただけます。画像をクリックすると「ルーラル電子図書館」へ移動します。
今月号の「現代農業VOICE」
「現代農業VOICE」は、記事を音声で読み上げるサービスです。画像をクリックするとYouTubeチャンネルへ移動します。
張り方・使い方のコツと裏ワザ
農文協 編
耕種農業にマルチ・トンネルなどは欠かせない。それらをうまくつかいこなせば収量が増えたり身体がラクになったりと経営にとってプラスとなる。本書は、マルチとトンネルのラクな設置・片付け方法、効果的な使い方などのコツと裏ワザから、金のかからない素材や新しい機能性を備えた資材を紹介する。黒マルチをかぶせるだけの超浅植えジャガイモ栽培や換気不要の不織布トンネル、鏡面のごとくぴっちり張ったマルチは虫除け効果もあるという話も面白い。農作業をラクにする情報が満載。