3月末発売『改訂新版 農家農業法人の労務管理』の著者である特定社会保険労務士の福島公夫さんに「農家の雇用」の注意点を、最新情報と併せてご紹介いただきました。試し読みとして一部公開します。
福島公夫
労働時間の規制が農業には適用除外
家族ではない人を雇うと、労働基準法が適用になります。取り締まっている役所は労働基準監督署(労基署)です。労基署にいる労働基準監督官は、警察官と同じように逮捕や書類送検できる権限が与えられています(労基署には手錠や腰縄も備えられています)。
でも、そんなに心配しないでください。農業は天候に左右されるなどの理由で、工場や商店などの他産業より労働基準法の適用が少なくなっています。とくに、他産業で取り締まりの主要事項になっている労働時間の規制が、農業は適用除外になっているのです。
他産業では、1日8時間、1週 40 時間を超えて労働させてはならないと定められています。その時間を超えて労働させるには、時間外・休日労働協定(通称 36 協定)を労基署へ届け出しなければなりません。また、この時間外・休日労働時間にも上限があり、1カ月100時間未満、複数月平均 80 時間以内、年間720時間以内とされています。
しかし、これらは農業には適用されません。また、休憩や休日についての定めも農業は適用除外になっています(下表)。
とはいえ、安全配慮面から時間配分が必要
このように、農業は労働時間に関する労働基準法上の規制はありませんが、長時間労働で休日が少ないと人は集まりません。また、農業の使用者にも次の「安全配慮義務」があるのです。
安全配慮義務とは、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と労働契約法第5条で定めているものです。
もし仮に、労働者と合意のうえであっても、休日なしで長時間労働させ、過労が原因で労働者が死亡した場合は、遺族から安全配慮義務違反で損害賠償請求される恐れがあります。建設業に多くの裁判例があります。
ですから農業も、繁忙月であっても月労働時間は250時間以内、休憩1時間以上、1週間に少なくとも1日は休日を設けることが、安全配慮義務からも必要です。
働き方改革関連法の影響3点
近年の大きな変更点として、2019年に「働き方改革関連法」が施行されたことは、農業の労務管理にも影響を与えています。主な内容は次の通りです。
(1)年5日の有休取得の義務化
年次有給休暇(有休)とは、入社から①6カ月間継続勤務し、②その期間の全労働日の8割以上出勤していれば、労働者に10日の有休を付与する制度です。
以前は労働者から「有休を取らせてください」と申し出がなければ、まったく付与せずとも違法ではありませんでした。今回の変更で、当年の有休付与日数が10日以上ある労働者には、使用者が希望を聞き、付与日から1年以内に最低年5日は時季を指定して有休を取らせることが義務づけされました。さもないと労働基準法違反として、罰金30万円を科せられる可能性があります。
(2) 労働時間の把握義務
労働者の健康管理の観点から、労働時間を客観的・適切な方法で把握することが労働安全衛生法で義務づけられました(現代農業2024年4月号p.264 からも参照)。
労働時間の把握は、「①タイムカードによる記録、②パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法、③その他の適切な方法」とされています。加えて、使用者が手書きで労働者の始業・終業時刻を記録する出勤簿も認められています。
(3)同一労働同一賃金
正社員と非正規社員(アルバイト)との間で、その待遇に不合理な差をつけることが禁止されました。
また、非正規社員から正社員との待遇差の内容や理由を聞かれた場合に、説明することが義務となりました。アルバイトだから正社員より給与が低い、という理由は通じません。正社員と非正規社員で給与差があれば、合理的な説明ができるようにしておく必要があります。
とくに、通勤手当などの「手当」に差がある場合は対応が必要です。私の知り合いの農家では、勤務日数の少ないアルバイトにも日割りで通勤手当を支給するようにしました。
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改訂新版 農家・農業法人の労務管理
福島公夫、福島邦子 著
働き方改革関連法や農業の労働市場の変化を受け、10年ぶりに大改訂。正社員・パート・1日アルバイト・外国人労働者など、多様な人材確保に役立つ就業規則のつくり方から賃金、労働・社会保険の考え方まで、他産業とは違う農業ならではの労務管理のポイントを平易に解説する。農業の就業規則、法定3帳簿、労使協定、人事評価表など、使える例文や実例に基づく「労務相談 ここが聞きたいQ&A」付き。