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【「直売所の漬物が危機」問題】 手洗い場と水道を整備 補助金活用で思ったよりも安く済んだ(全文公開)

食品衛生法の改正(2021年施行)によって、これまで届け出制でよかった漬物製造にも営業許可が必要になりました。加工は保健所の許可が下りた施設で行なわなければならなく、小規模な生産者を中心に加工所の改装なしには漬物生産が続けられなくなる現実があります。このままでは直売所から地域の母ちゃん・父ちゃん自慢の漬物が消えてしまうかもしれない。移行期間終了は2024年5月31日に迫っています。そこで、現代農業では、2024年1月号および3月号で「どうする?「直売所の漬物が危機」問題」と題して、今からでもできることはないか、可能性を探る記事を掲載しています。この記事は、現代農業2024年3月号の試し読みです。詳しくはぜひ本誌にてご覧下さい。

秋田・照井美恵子さん

照井さんの「いぶしたくあん漬け」(1本170g370円)。分厚く切ってもサクサク食感で食べやすい
照井さんの「いぶしたくあん漬け」(1本170g370円)。分厚く切ってもサクサク食感で食べやすい

 2021年に施行された改正食品衛生法により、秋田県ではこれまで届け出だけでよかった漬物製造にも営業許可が必要になった。それに伴い加工所の設備を整える必要も出てきた。「設備投資して続けるか、やめるか」といった現場の動きを探るべく、いぶりがっこ発祥の地といわれる横手市山内〈さんない〉地域の農家を訪問。自宅の加工所を整備した照井美恵子さんに実際に見せていただいた。

あと10年くらいはやりてえから

直売所漬物危機補助金活用2403

 照井さんは、ブドウやカボチャ栽培の傍ら、10年ほど前から「いぶしたくあん漬け」をつくり続けてきた。ダイコンは自家栽培しており、毎年約1万2000本を収穫。6000本は「がっこ(漬物)」に、残りはいぶしたダイコンの状態で、自宅で漬物を楽しむ人たちに販売している。1シーズンの売り上げは合わせて200万円ほどになり、経営の大きな支えだ。

 法改正を機に販売継続を悩む人が何人もいた中、照井さんは続けようと考えたそうだ。「足を悪くしたこととか、年のことも頭をよぎったけど、スパッとやめるとは思ってねがった。あと10年くらいはやりてえと思ってら」。

自己負担は約17万円

 照井さんの自宅の庭にある加工所はもともときりたんぽづくりをするつもりで改正前の食品衛生法には準じる形で設計してもらっていたが、今回の法改正で水回りの工事を行なった。

 まず、手洗い場を増設。加工用のシンクとは別に、手洗い専用の蛇口(自動式かレバー式)と流しを設けることが新たに必要になったためだ(下写真)。

 そして水道水を引く工事。今まで加工所には井戸水(家庭用飲料水としては許可取得済み)を引いていた。はじめはそこに消毒用の塩素を混ぜて対応しようと思っていたが、その場合は定期的な水質検査が必要になる。ランニングコストと比べると、水道水を引いたほうが安く済むとの見積もりで新たに上水道を引くことにした(下写真)。

 かかった費用は合わせて35万円。秋田県と横手市から補助が出て、自己負担は約半額の17万円ほどで済んだ。横手市食農推進課の山本さんによると、「当初は加工所の改装に数百万円必要なところもあると報道されていたが、実際に見積もりを出すと、100万円もかかるところはほとんどなかった」。照井さんの場合も、もともとある程度整備されていた厨房で、補助金が出たこともあり、思ったよりも安く済んだ。

直売所漬物危機補助金活用2403

「私のお客さん」が待ってる!

 寒い中でのがっこづくりは重労働。いぶし小屋で火を焚いているときは連日夜通し火の番だ。それでもつくり続けられるモチベーションは何だろう。

 「そりゃみんなから毎年注文が来るからよ。『今年はまだか~』って電話まで来る」と照井さんはうれしそう。主な売り先は地元の直売所「道の駅さんない」だが、口コミで広がった評判から、全国各地にリピーターもいて、直販もしている。照井さんご夫婦は毎年春になると、関東のお客さんと話をするため車で会いに行くそうだ。高速で約2時間の距離の県内能代市のお客さんのところには、直接商品を届けに行く。こうしたお客さんとの交流も、照井さんの背中を押したのだと思う。

「うちの味」は企業秘密

 照井さんの「いぶしたくあん漬け」の人気の秘訣は食感とやさしい甘さ。食感はダイコンの品種にこだわり、サクサクと歯切れがよく、みずみずしい仕上がりになるものを選んでいる。使っている品種は「秘密」。直売所で販売されているものの中には昔ながらのしっかりと噛み応えのある商品もあるが、あえて軟らかい食感を目指す。これは、小さい子供や歯の弱いお年寄りにも食べやすいようにした工夫。実際に、お客さんからは「歯切れがよくて食べやすい」「漬物嫌いの小さい孫も気に入ってこれしか食べない」といった声もある。甘味料を使わない、ザラメ100%の優しい甘さもこだわり。日常的に漬物を好んで食べない若者や、都会の人にもおいしく食べてもらえる、万人受けする工夫である。

 「私しかこの品種つくってないし、この漬け方も私だけ。お客さんは他のは食べられないって言ってくれる。法が厳しくなって、販売をやめる人は確かにいるかもしれないけど、そういう人も自分用には漬け続けるよ、絶対」と照井さん。

 これは横手市に限らず、全国の漬物生産者が同じように思っていることではないだろうか。「漬物が、いぶりがっこが消える」と、悲観的な報道の中、大変な状況を想像して訪れた横手市だったが、実際の現場はとても元気だった。法改正を機に注目度が上がった今をチャンスととらえる人も多い。地域の食文化としての漬物が消えることはないと、力強く語る横手の人々が印象的だった。

現代農業2024年3月号「どうする?「直売所の漬物が危機」問題 加工所訪問編」コーナーでは、横手市食農推進課の山本さんによる以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)にてご覧ください。

市の共同加工所 いぶりがっこの継続・継承・交流の場に 山本 剛

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