この記事は「現代農業WEB」限定のオリジナル連載です。今年(2023年)、はじめてアイガモ農法にチャレンジする著者と、アイガモの成長、地域のようすなどを月に1回お届けします。
※閲覧にご注意ください※ 今回の記事では、カモのさばき方の一部を写真入りで紹介しています。ご理解の上ご覧いただきますようお願いいたします。
大分・長野恵里子
7月下旬、イネの出穂に先立って、隣接する休耕田へとお引越ししたカモさんたち(アヒル含む)。この広々とした田んぼで10月中旬まで飼育を続けた。徐々に毛も生え変わり、鳴き声も「ピーピー」から「ガーガー」へと変わる。日に日に大きく成長する姿に驚きと喜びを感じつつも、いつか来る「あの日」のことがいつも頭のどこかに……。
台風到来、カモとイネは大丈夫か!?
引越し早々の8月初旬、台風6号の接近がニュースで流れてきた。この大型台風に備えて、カモ小屋は友人にロープで縛って補強してもらった。田んぼは、余分な水が流れ出るよう排水口の掃除を行なう。イネの方は、ちょうど出穂から開花の時期。この頃は「穂」に対して台風の被害を最も受けやすく、収穫量が著しく低下する可能性があるそうなのだ。
台風当日は心配で眠れない一夜を過ごしたが、翌日田んぼへいくと、カモたちはぴんぴんしていた。幸いイネも倒れるなどの被害はなく、ひと安心。その後、8月末の大雨で一部倒伏してしまったものの、9月下旬には無事にイネ刈りへこぎつけた。
いよいよその日はやってきた
10月14日、目が覚めるとまだ午前3時。これから起こることに胸がざわざわして、二度寝なんかできそうにない。仕方がないので何とか時間をつぶして、鴨部のみんなと約束した午前8時に、田んぼへ向かった。
これからいよいよカモをさばくのだ。これまで毎日触れ合ってきたカモさんたちとのお別れ前に、田んぼで最後の記念写真をとった。
カモをさばく
この日の作業は、鴨部メンバーと友人の4人で行なった。友人らは、この日までに地元の料理人からさばき方を教わり、すでに数羽のカモをさばいていた。今日は私が彼らから手ほどきを受ける番だ。
【下準備】
まず底の深い容器(今回はペール缶を使用)に水を張って、温度が70~80℃程度になるまで沸かす。鳥の羽はそのままでは抜けにくいのでお湯につけるが、とくに水鳥の羽は抜けにくいため、ニワトリの時(60℃)よりも温度を少し高め(70~80℃)にするのがポイントだ。
【血抜きする】
お湯が沸くまでの間に、カモの足を紐で縛り、逆さに吊るして5分程度そのまま置く。カモたちは驚くほど静かだったが、逆さになった頭を持ち上げて必死に重力に抵抗していた。そして刃物で首の頸動脈を切り、頭を落として、5分程度血抜きをする。ただ、宙に吊した状態で素早く頸動脈を切ることは難しく、試行錯誤ののち、台の上で首元を固定して作業できる木枠をつくった。
【毛をむしる】
血抜きした後、1分程度お湯の中に全身をくぐらせてから、手早く毛をむしっていく。毛の量は多いが、思ったより簡単に抜けた。ある程度毛が無くなったら、最後は産毛(うぶげ)をバーナーで焼き切る。太い毛根が気になれば、ピンセットで抜く。
午前11時から午後4時頃まで、お昼休憩を挟んで、5時間。6羽をさばききったところで、心身ともに疲労こんぱいとなり、終了することにした。
「いのち」を頂く
その日の夕方は、お世話になっている近所のご家族(鴨部メンバー)を招いての、収穫祭を企画した。
しめたばかりのカモは、4羽は内臓だけ取り出して冷凍保存し、2羽を調理用に解体していった。胸を開くとまず内臓が出てくるので、そこから心臓、レバー、砂肝をていねいに取り出す。続いて、モモ、手羽、ムネと部位ごとに切り分けていく。「生き物」たちが、だんだんと「食べ物」へと変わっていく瞬間だ。
この日のメニューは、カモ鍋、カモ肉の炭火焼、そしてアイガモ米(新米!)。参加者総動員で準備をして、皆でアイガモ料理を頂く。カモ肉は本当に味わい深く、特に皮の脂はうまみがすごかった。
なんだかひどく疲れた一日だったが、私一人では到底この日を迎えることも、乗り切ることもできなかっただろう。自ら育てた生き物を自らさばいて頂くというのは、「いのち」についてものすごく考えさせられる機会だ。それを、カモを通じて繋がった人の輪の中でともに経験できたことが、私にとっていちばん得難いことであった。
次回(年明け)はいよいよ最終話。循環型農法としてのアイガモ農法を振り返りつつ、残されたカモたちのその後についてお伝えしたいと思います!
農業系出版社や国際協力(アフリカ駐在)などを経て、現在、国際耕種株式会社に勤務。主に途上国の農業開発に携わる。移住先の大分県竹田市の古民家でリモートワークしながら、農業に興味を持つ若者たちとともにアイガモ稲作や自給菜園を実践中。