この記事は「現代農業WEB」限定のオリジナル連載です。今年(2023年)、はじめてアイガモ農法にチャレンジする著者と、アイガモの成長、地域のようすなどを月に1回お届けします。
第4話は、ついに成長したヒナたちの田んぼでの活躍のようすが見られます。ぜひご覧下さい。
大分・長野恵里子
6月下旬、友人らに温かく見守られながら田んぼに放たれたヒナたち。群がって田んぼを泳ぎまわるヒナたちの可愛さに、通りがかった人たちも思わず立ち止まる。今年は「ひとめぼれ」という早生種を栽培しているため、田植えの2カ月後(7月下旬)にはもう出穂がはじまる。今回は、稲の出穂までのアイガモたちの様子をお届けしたい。
毎日のアイガモのお世話
前回(第3話)お話したとおり、ヒナたちを無事田んぼに送り出すことができたものの、夕方小屋へ入ってくれるか、カラスや獣に襲われやしないか、雨風をしのげるかなど心配がつきなかった。
毎日の世話としては、朝は少量のエサと水を与えて田んぼへ放った後、小屋の中の糞掃除をする。夕方には田んぼから小屋へ戻し、エサと水を与える。エサは、ヒナのうちは野菜クズを刻んだものや古米などをメインに与えた。水も驚くほどよく飲む。心配していた小屋じまいの方は、1週間もすれば人の声とエサに反応して、スムーズに小屋へ入ってくれるようになった。
4週齢目
小屋の中のヒナたち(7月5日) 小屋の中では餌の争奪戦 *クリックすると動画がご覧になれます
「水慣らし」の甲斐(成果)あって、放鳥直後からスイスイと田んぼを泳ぎまわるヒナたち *クリックすると動画がご覧になれます
7週齢目
朝、田んぼでひと仕事を終えて小屋でくつろぐようす(7月27日) *クリックすると動画がご覧になれます
毛が生え変わる頃。田んぼの水位をおとしているが、元気に歩き回っている *クリックすると動画がご覧になれます
弱ったヒナを救出
ヒナたちは日に日に大きくなっていったが、中には介抱が必要なものもいた。とくに最初の頃はよく観察して、寒さに震えていたり、弱っているヒナを見つけたら、家に連れて帰って温めてやらなければならない。
7月に入ったある日の夕方、小屋に帰ってきたヒナたちを数えると、1羽足りない。慌ててあたりを探し回ると、田んぼのど真ん中で動けなくなっているヒナを見つけた。どうやら、足が立たなくなっているようだった。7月に入り、中干しを始めて水位が落ちた田んぼで、足に負荷がかかったのだろうか。その日は家に連れて帰って一晩過ごしたら、翌日には歩けるようになったので群れに戻した。その後も、同じようなことが2回続いた。それもあってかこのヒナは妙にヒトに懐いてしまい、「Pちゃん」と私に名付けられ、その愛嬌ある行動から皆に愛される存在となっていった。
自宅で療養中のPちゃん。群(なかま)についていく体力がない。本当によく眠る
弱ったヒナPちゃん。ひたすら眠る・・ *クリックすると動画がご覧になれます
小屋の大移動
早生品種のイネだと、田植え後2カ月ほどで出穂がはじまる。5月下旬に田植えをした我々の田んぼは、7月下旬から出穂することとなる。アイガモがイネのモミ(実)を食べてしまわないよう、この頃にはアイガモたちを田んぼから引き揚げて、別の場所で飼育(肥育)をするのだが、そのアイガモをどこで飼うかが悩みどころだ。
「敷地内に新たに小屋を設けて飼う」「果樹園(ブドウ畑)で放飼する」なども考えたが、最終的に、隣接する休耕田に水を張って飼うことにした。ここであれば飼育に必要な十分な水があり、かつ休耕田の雑草管理にもなると考えたからだ。早速、小屋の移動、ネット柵の設置、そしてテグス張りを仲間たちと進めていったが、なにせ皆会社員なので作業が夜になることも…
アイガモ田んぼ(新天地)のビフォーアフター
知っていると便利! ネットやテグスのヒモの結び方「巻き結び」
支柱にテグス糸やネット柵のひもを固定するときの結び方。巻き結びは、緩んだら引くだけで輪が小さくなので、いちいち結び目をほどかなくても大丈夫。
①輪っかを2つ作って、先に作った輪を上にして重ねる。②星印(★)に支柱や結びたいものを入れる
「鴨部」の結成
これは予想外のことだったが、夕方アイガモのエサやりをしていると、近所の女の子たちが毎日のように見に来てくれるようになった。後から知ったことだが、その中学生のみゆちゃんは、自分でニワトリやウズラを孵化させたり、ザーネン種の大型の雄ヤギを自在に操る、ツワモノだった。
このみゆちゃんが仕切ってくれて、7月末に、その名も「鴨部(かもぶ)」が結成された。メンバーは、みゆちゃんと、そのお姉ちゃんで高校生のさくらちゃん、彼女たちのおじいちゃん、そして大家さんと私だ。
活動は、夕方のアイガモの小屋じまいとエサやりがメインで、毎日行なう。鴨部は、私が不在のときでも頼れる心強い存在となった。動物好きのご近所さんには、本当に色々と助けてもらいながら一緒にアイガモを育てていくことができたので、この場を借りて感謝を伝えたい!
次回は、「カモはその後どうなるの?」(12月上旬)です。 乞うご期待ください。
農業系出版社や国際協力(アフリカ駐在)などを経て、現在、国際耕種株式会社に勤務。主に途上国の農業開発に携わる。移住先の大分県竹田市の古民家でリモートワークしながら、農業に興味を持つ若者たちとともにアイガモ稲作や自給菜園を実践中。