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監訳者の村本穣司さんにインタビュー! |『アグロエコロジー』公開セミナーを開催しました

現代農業WEB取材班

2023年12月12日(火)、埼玉県戸田市の農文協本社にて、『アグロエコロジー 持続可能なフードシステムの生態学』(スティーヴン・グリースマン著)の邦訳出版を記念した公開セミナーが開催されました。今回のセミナーは、オンライン参加も併用したハイブリッド開催となり、視聴者は約300人(オンライン含む)にのぼりました。農家から行政、研究者、流通関係者、料理家、ジャーナリスト、一般の方まで、多くの方にご参加いただきました。

今回は、セミナー当日の様子と、訳者の村本穣司さんへのインタビューをお届けします。

インタビュー_ 7

「アグロエコロジー」ってなに?

21世紀に入り地球環境問題と食料安全保障が重要な課題となるなか、資源やエネルギーを大量投入し、規模と効率を追求する工業的農業が立ちゆかないことが明らかになっています。

アグロエコロジー(農生態学)とは、それらを乗り越えるサステナブルな農業生産と食料消費を実現するため、さまざまな視点から探求する学問のこと。「科学」と「実践」と「運動」をつなぐ新しいキーワードとして、国際的に注目されています。

詳細は「農文協プレスリリース」をご覧ください。

当日の様子

当日は、著者のスティーヴン・グリースマン氏(カリフォルニア大学サンタクルーズ校 名誉教授)からのメッセージ、監訳者の村本穣司氏(カリフォルニア大学サンタクルーズ校・有機農業スペシャリスト)、浅岡みどり氏 (立教大学大学院博士課程)、澤登早苗氏(恵泉女学園大学人間社会学部教授)、小松﨑将一氏(茨城大学農学部附属国際農学センター教授)、嶺田拓也氏(農研機構植物防疫研究部門)による事例報告が行なわれました。

スティーヴン・グリースマン氏からのビデオメッセージの様子

【当日のプログラム】

総合司会 小谷あゆみ (農ジャーナリスト/アナウンサー)

1. 著者からのメッセージ

スティーヴン・グリースマン(カリフォルニア大学サンタクルーズ校名誉教授)

2. 監訳者からの報告 アグロエコロジーとは何か

村本穣司(カリフォルニア大学サンタクルーズ校・有機農業スペシャリスト)

3. 今なぜ、持続可能なフードシステムが必要なのか

〔報告 1 〕 アグロエコロジーをベースとした教育、社会実践

浅岡みどり (立教大学大学院博士課程)

〔報告2 〕 Condor’s Hope グリースマンのブドウ園を訪問して――日本のワイン用ブドウ栽培との相違点と共通点

澤登早苗 (恵泉女学園大学人間社会学部教授)

〔報告3 〕 家庭菜園をアグロエコロジーの視点で考えてみると?

小松﨑将一(茨城大学農学部附属国際農学センター教授)

〔報告 4 〕 日本におけるアグロエコロジーの展望と期待(オンライン)

嶺田拓也(農研機構植物防疫研究部門)

セミナー終了後、監訳者の村本穣司さんにインタビュー!

左から、小松﨑将一さん、浅岡みどりさん、澤登早苗さん、村本穣司さん、小谷あゆみさん、農文協の編集担当

現代農業WEB取材班(以下、現農WEB) 本日はカリフォルニアから日本までご足労いただき、ありがとうございました。セミナーを終えて、感想を教えてください。

村本穣司さん(以下、村本さん) こちらこそ貴重な機会をいただきありがとうございました。今日お話された5名それぞれが、アグロエコロジーをさまざまな言葉で表現し、それぞれのアプローチで試行錯誤されていましたね。私自身日本でのアグロエコロジー的取り組みについて話を聞く機会がこれまであまりなかったので、新鮮な気持ちで伺い、勉強になりました。

現農WEB 今日の先生のお話のなかで、「日本版のアグロエコロジーを考える必要がある」という言葉がとても印象的でした。もし、日本版アグロエコロジーをつくるとしたら、どういった部分が他の国との違いになりますか?

村本さん 他の先生方も言っていたように、日本の独自性について考える必要がありますね。特に日本特有の自然環境や文化についてです。国土の約7割が森林であることや、四季があって高温多湿な気候、生物多様性に富んだ田んぼが全国にあること……など、日本版アグロエコロジーは、豊かな自然環境や多様な地域文化にもとづいて考えるべきだと思います。

現農WEB さまざまな要因が絡み合っているんですね。気候も文化も多様な日本で暮らす私たちがすぐに実践できることってなんでしょうか。

村本さん 環境や文化がさまざまでも、「アグロエコロジー」という原理は世界共通です。日本というフィールドで応用しようとしたときに、どのような理解ができるかをすり合わせる作業が必要になります。

「アグロエコロジー」は農業の原理を説明するものでもあります。例えば農法がさまざまであっても、「アグロエコロジー」というレンズを通して見てみたら、共通項もみえてくるのではないでしょうか。この共通項をみつけて、それぞれの持続性を高めることにアグロエコロジーは役立つのではないかと思います。

現農WEB 「アグロエコロジーというレンズを通してみてみる」、面白いです!家庭菜園でも、スーパーでも、さまざま場所で「アグロエコロジー」を考えるきっかけがありますね!

村本さん そう、日常にも食と農に関わるアグロエコロジー的な考え方があるんです。この本は、もともと学生が使える教科書として書かれていますが、食と農と環境に興味をお持ちの市民の方々にも役立つのではないか、と期待しています。本の章ごとにある「思考の糧」という項目にも問題提起があるので、ぜひ活用してみてください。

(思考の糧については、現代農業WEB「『アグロエコロジー』制作秘話②|誌面デザインのこだわりと帯コメント」をご覧ください)

現農WEB 最後に、(厚かましいお願いで恐縮ですが)我々農文協の職員にひとこと、いただけますか?

村本さん 『アグロエコロジー』の邦訳出版をさせていただき、本当にありがとうございました。私自身、長年農文協のファンなんです。『現代農業』もずっと読んでました。農文協は、農家の知恵や技術を引き上げてシェアする、非常にユニークで重要な出版社です。『アグロエコロジー』では「生産者」と「消費者」の関係を対等に、と言っていますが、「農家」と「研究者」の関係も対等にしていく必要があると思います。農文協にはこうした課題にも取り組んでいっていただきたいです。私はこれからも海の向こうから応援しています。

現農WEB なんと、あたたかくてありがたいお言葉…!励みになります(涙)

村本さん、ありがとうございました!

アグロエコロジー、全国各地で盛り上がっています!

2023年12月9日、10日 、大阪府枚方市の摂南大学で開催された第24回日本有機農業学会大会では、「未来を切り拓くアグロエコロジー」の特別セッションが行なわれ、『アグロエコロジー』の訳者メンバーが登壇しました。本学会には、研究者を中心に約100名の参加があり、大いに盛り上がりました。

その後の懇親会では、訳者の小林舞さんが司会をするなか、『テーマで探究 世界の食・農林漁業・環境』(農文協刊)の編著者・池上甲一さん、『アグロエコロジー』の表紙のイラストを手がけた、イラストレーターのNiky Roehrekeさんもかけつけてくれました。

第24回日本有機農業学会の様子
左から、農文協の編集担当者、池上甲一さん、Niky Roehrekeさん、小林舞さん

2023年12月13日、東京農業大学世田谷キャンパスの榎本ホールで開催された公開セミナー「アグロエコロジーって何?」では、訳者の村本穣司氏、小松﨑将一氏、日鷹一雅氏、宮浦理恵氏が、それぞれの専門から研究事例を織り交ぜてアグロエコロジーについて解説しました。セミナー会場には、農大の教員や学生を中心に約100名(オンライン含む)の参加があり、大いに盛り上がりました。

東京農業大学の会場の様子

アグロエコロジー 持続可能なフードシステムの生態学

スティーヴン・グリースマン 著
村本穣司 監訳
日鷹一雅 監訳
宮浦理恵 監訳
アグロエコロジー翻訳グループ 訳

持続可能な食と農のあり方を考える「科学・実践・運動」の新しいアプローチ『アグロエコロジー(Agroecology)』待望の日本語訳。アグロエコロジー(直訳すると「農生態学」)は、飢餓や環境破壊を引き起こす大規模・集約的な農業のあり方を変えるために生まれた新しい「科学」であり、原著は欧米を中心に教科書として広く使われている。アグロエコロジーは、自然の力を高める有機農業や自然農法の「実践」を広げる。また、環境や農業の分野に留まらず、経済・社会・文化の多様性を目指し、既存の価値観を転換する「社会運動」でもある。

本書の読者からの反応や書評など、本の内容に関わる情報は「とれたて便」から見ることができます。