2023年8月にスタートした本連載。はじめてアイガモ農法にチャレンジする著者と、アイガモの成長、地域のようすなどを毎月お届けしてきました。今回が最終回です。毎回、愛らしいカモたちには大いに癒やされました。アイガモ農法と聞くと、こだわりの米作りや草刈り動物のイメージがあり、ややとっつきにくい印象がありましたが、いち農法を超え、アイガモを通じた人と人とのつながり、命の循環を見せていただきました。著者の長野さん、地域のみなさま、鴨部のみなさま、そしてアイガモさんたち…どうもありがとうございました。
大分・長野恵里子
最終回は、残されたアイガモさんたちのその後、そしてアイガモ農法の挑戦を振り返ります!
カモも私もお引越し
かねてから家探しを続けていた私は、アイガモを通じて知り合った地元の方に素敵な借家を紹介してもらい、10月初旬にようやく引っ越しをすることができた。そして県内にいる家族とも相談し、愛着の湧いてしまったPちゃんと、残されたカモたちの計5羽を実家で引き取ることにした。その他、「鴨部」メンバーの自宅とアイガモ師匠の森岡さん宅にも、それぞれ2羽のアヒルのつがいがもらわれていった。
カモ小屋づくり、再び―ビニールハウス廃材でつくる
カモたちを実家に迎えるにあたり、再び小屋が必要となった。
時間的な余裕がなかったので、小屋は家にあるビニールハウスの廃材を使ってつくることにした。
骨格は、パイプ10本を組み合わせ、横2m×縦3mの大きさにした。正面の扉と両サイドは、樹脂製ネットを張り、通気性とともに強度を確保した。後方は鳥用の通用口として、木の板を張り、その一部をくりぬいて小さな扉をつくった。天井はハウスビニールと遮光ネット、そして冬用にブルーシートを重ねた。
趣味でニワトリを飼っている叔父一家に手伝ってもらい、正味2日間ほどでつくりあげることができた。
待ちに待った卵
カモたちに期待していたのは「卵」。産卵は、生後6カ月頃からと聞いていたので、12月中旬辺りかなあと見込んでいた。実家で日々カモのお世話をしてくれている母は、私以上に、まだかまだかと首を長くして待ちわびていた。
鴨部メンバー宅のアヒルが卵を産んで間もない年末の朝、ついに我が家の小屋で卵を発見!おそるおそる手に取り、大事に家に持ち帰って食べてみた。
アイガモ(アヒル含む)の卵は1個60g程度で、殻の色は白っぽいクリーム色か、少し青みがかったものもある。殻が厚く、簡単には割れない。鶏卵と比べると、黄身が大きく、また黄身も白身もかなりの弾力がある。そして、気になるお味の方は・・・黄身が濃厚ですごく美味しい!!3羽のメスがいるが、その後も毎日2個のペースで卵を産んでくれている。
循環型農業の実践にむけて
農業の実践と雑草対策、そして動物を飼いたいという想いが合致して初めて挑戦した、アイガモ農法。新天地でアイガモを通じた人との出会いがあり、大変さに勝る動物と暮らす楽しみや喜びがあった。そして、「アイガモメガネ」をかけると、地域の自然や人が新しい視座で見えることがわかった。この地の水の豊かさとその利用、草や食品残渣の活用、観察を通じて動物の生態や行動を理解するおもしろさ、動物を飼育する畜産農家への畏敬の念、他の家畜への興味関心、ものづくりや修理がさっと器用にできる人への憧れ、などである。
動物を飼うことは責任も大きいが、農業に関心を持つ仲間や地域の人との協力の輪の中で飼う方法を模索したり、また家畜と農地を組み合わせた循環型農業の可能性を、この地で追求してみたい。
引っ越し先の集落ではヤギを飼っているお隣さんがいて、話を聞くと、シイタケやサンショウなどの林産物の栽培もやっているようだ。道ですれ違ったご近所のおじいさんには、田んぼや水源の話を聞く。それぞれがもつ地域の歴史や自然の知識を、これから交流の中で学んでいきたい。そして、一歩ずつ、自分の目指す「地域循環型農業」をかたちづくっていきたいと思う。
これまで、「アイガモさんいらっしゃい」をお読み頂き、ありがとうございました!!
農業系出版社や国際協力(アフリカ駐在)などを経て、現在、国際耕種株式会社に勤務。主に途上国の農業開発に携わる。移住先の大分県竹田市の古民家でリモートワークしながら、農業に興味を持つ若者たちとともにアイガモ稲作や自給菜園を実践中。