現代農業2023年10月号「土壌診断やってみた 減肥できた」のコーナーのなかから、苦土カリ比の改善でハウスキュウリの収量をアップさせた大木さん(宮崎県)の記事を試し読みとして公開します。
宮崎・ 大木雅人
苦土欠だけど 苦土は足りていた
夫婦で農業を始めて10年近く経ち、ハウスキュウリを15aつくっています。3、4年前から、作の最初は特に問題ないのに、中盤から葉の黄化が目立ち始め収量が減少する状態が続いていました。最初は退緑黄化病などのウイルス性の病気だと思っていましたが、営農指導員に見てもらったところ、「この黄化は苦土欠ですね」と言われました。
なるほど、苦土が足りないのかと思い、苦土を元肥と追肥で例年よりも積極的に施用しましたが症状は改善されません。そこで21年に土壌診断を行ない、土の中がいったいどのような状態なのか確認してみることにしました。そうすると、チッソは不足、カリウム・リン酸は過剰、苦土・石灰は適量といった結果が出ました。
苦土カリ比ってなんだ?
なんだ、苦土は適量あるじゃないか。それじゃなんで欠乏症状が出るんだ?と頭を悩ませていた時に、目に入ったのが土壌診断データの苦土カリ比。この数値が低かったのです。この項目はなぜ書かれているのか、この数値はいったい何を表わしているのだろうと気になり始めました。
そこでネット検索してみると、この比率が非常に重要なことがわかりました。土の中に苦土が適量あってもカリが過剰な場合、拮抗作用(下図)が働いて苦土の吸収が阻害され、苦土欠乏の症状が出る。これだ!!と思い、自分の圃場ではカリが多すぎるので苦土が吸収できなくなっているという仮説を立て、その対策を練りました。
カリを減らして苦土欠解消
次の22年度作では、元肥に入れていた肥料を今までのバランス型(8-8-8)からカリ・リン酸を極力おさえたL字型(8-2-2)に変更。拮抗作用が働かないように、追肥でもカリの施用を減らし、苦土、そして苦土の吸収に相乗作用のあるチッソを多めに施用していきました。
また、株の負担にならないよう追肥のやり方も変えました。尿素などを数日おきにドン!とやっていたのを、毎日、もしくは1日おきに少しずつやる形にしました。
その結果、見事に苦土欠乏症状が改善されました。それどころか不安定だった収量も増加。地域では反収10tとれば経営が成り立つといわれる中、前作で平均9t弱だったのが11t弱まで増えました。施肥量を変え土壌中の塩基バランスが改善された結果、今まで吸収できずにいた肥料が吸収されるようになり、樹勢が強くなったからだと思います。
肥料代も減らせた
また、今まで使用していたカリ、リン酸肥料の使用量が減ったことで肥料高騰にもかかわらず例年並みの肥料代に抑えられ、思わぬところでコストカットもできました。
私の実践は、土質の違いもあるのですべての圃場において効果があるとは限りません。しかし何か問題を抱えているのなら、土壌診断をやっておいて損はないと思います。本来目に見えない土中の状態がリアルタイムでデータとして出るので、改めて土壌診断の大切さが身に染みました。今後は定期的に行ない、常に勉強しながらキュウリの生長を妨げない環境を整え、さらなる収量増加につなげていきたいと考えています。
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