現代農業2023年10月号「処分に困る残渣をお宝に変える」コーナーの記事のなかから、まわりの農家から集めたネギ残渣を堆肥にしている石川さんの記事を公開します。
北海道・ 石川卓也
規模拡大で堆肥が 足りない!
昨今の肥料代高騰もあり低価格の肥料利用や堆肥施用など、各農家が試行錯誤されていることと思います。わが家ではおよそ30年前から、イナワラ堆肥を作って畑に散布していました。しかし、離れた場所にある畑地(約8ha)の購入を機に、既存の堆肥では到底まかないきれなくなりました。6~15 年前に畑の一部(60坪)を第2堆肥場として整備し、その畑分の堆肥を生産することにしました。
主にネギガラ(ネギの収穫残渣)とムギワラ(またはイナワラ)、モミガラを少々入れて堆肥化しています。ネギ100%とはいきませんが、目測で90%以上はあります。わが家は水稲と小麦、ダイズが中心の農家。ネギを栽培していないにもかかわらず、なぜ 60坪の堆肥場を埋め尽くすほどの残渣が用意できるか……答えは簡単、近隣のネギ農家から受け入れているからです。
近年町内でネギの作付けが増えていて、残渣の処分は各々で行なっていますが、これは産業廃棄物でネギ農家を悩ませています。それならばと、肥料代節約を見込み、3軒の農家からネギガラを受け入れることにしました。
3カ月で 人より高いネギガラの山
7月中旬に差しかかると、ネギガラを積んだネギ農家の運搬ダンプがやってきます。前年に作った堆肥の横の空いたところに次々と搬入。堆積スペースがなくなると、置いておいたユンボを使って搬入した農家自身に積み上げてもらい、さらに運んでは積む作業を繰り返します。
イネ刈りが終わったころ、近所から商品にならないイナワラロールや処分しきれないムギワラロールも投げさせて(捨てさせて)くれと持ち込まれます。秋の終わり、すべてのネギガラの搬入が完了。山は2階建てほどの高さになっています。
前年の堆肥を種菌に残す
ネギガラの搬入と並行して前年に作った堆肥を散布します。わが家では4 ha 前後の畑2枚でムギとダイズをローテーションしており、そこに堆肥を入れます。まずはお盆過ぎにムギを刈り取った後の畑に堆肥の約半分(4t積めるマニュアスプレッダー約3台分)を 10 a当たり3tまきます。
ダイズの収穫が終われば次作の小麦の播種前にもう半分の堆肥を散布します。でもすべてはまかず、次の堆肥作りの種肥(種菌)として、2tダンプ2~3杯分は残します。
5月までにボロボロに変化
雪が降り始める前の 11 月に、1回目の切り返しを行ないます。これは、積み上げたネギガラの山を整えてムギワラロールと混ぜ合わせるのと、堆肥内に空気を入れての発酵促進が目的です。それと種肥も同時に混和しますが、山が大きく全体へ均一に混ぜ込むことは不可能なので、だいたいでOK。発酵促進剤はとくに使いません。この段階は堆肥の山が最も高く、ネギ特有のニオイも強烈です。
春の仕事が始まる3月末から4月頭に、2回目の切り返しを行ないます。まだ雪が 30 ㎝は残っていますが、堆肥の中は軽い酸欠状態なので、十分に空気に触れさせながら作業します。雪の重みと微生物による分解で、体積がいくらか減り、全体をよく切り返せるスペースが確保できるようになります。ネギガラの状態は、山の場所によりますが、大部分は葉の緑色がわかるくらいです。視界が遮られるほど、水蒸気がモクモクと立ち上がります。順調に発酵が進んでいる証拠ですが、過去には通りかかった人が火事だと誤解して消防車を呼んでしまったことも。
3回目は5月頭。この頃には発酵がだいぶ進んできており、ネギガラがボロボロとした土っぽい状態になってきます。とはいえまだネギの面影はあるので、前回と同様に空気に触れさせるために表面のネギを中に入れ、塊を崩しながら切り返していきます。
カリやミネラルの補給になる
7月に最後の切り返しをします。堆肥の体積は4割以下に減っています。このころになると、ネギガラの大部分が分解されて黒土のような状態になり、所々にネギが散見できるくらいです。本来はもう1年かけて完熟堆肥にしたほうがよいのですが、そこまで置く場所がないので、この状態で畑にまいています。
この堆肥を使っている畑はもともと沼を干拓して造成したので、やせた部類の土地でした。したがって以前は購入鶏糞を多用したわけですが、ネギにはカリやカルシウム、ミネラルが多く含まれており、堆肥としてそれらを補給できるようになり、肥料の節約に一役買っています。とくにカリとカルシウムが多いようです。たとえばミネラルが欲しいと思っても、肥料の値段は安いもんじゃありません。そして、ネギ農家が残渣を処分するのも安いもんじゃありません。ここでお互いWin- winな関係が構築できるのであれば、手間はかかりますがやってみる価値はあると思います。
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