現代農業WEB

令和6(2024)年
5月28日 (火)
皐月
 赤口 壬 辰
旧4月21日

あああ

ホーム » 2023年 » 2月号 » 2分半で調理できる香り米 なぜか人気急上昇のサリークイーン

2分半で調理できる香り米 なぜか人気急上昇のサリークイーン

現代農業2023年2月号「国産長粒米に需要あり」コーナーの中から、編集部イチオシの記事を公開します。アジアン料理ブームで人気の長粒米。栽培のポイントは?精米はどうする?

岡山・柴田雅人

サラサラとしなやかさの奇跡的なバランス

 岡山の米農家、柴田と申します(以下、しばと略す)。18馬力2条刈りの小さなコンバインで、2ha弱の田んぼをつくる零細サラリーマン農家。でも、イネの品種「サリークイーン」(以下、サリー君)の栽培歴は、2023年で30作目になるベテランなんじゃ。

 インド品種(インディカ米)の「バスマティ」と、日本品種(ジャポニカ米)「日本晴」の交配から生まれたサリー君……インド品種のサラサラ感と華やかな香りと、日本品種のしなやかさとを、奇跡的なバランスで兼ね備えた長粒種なんよね。

 原種のバスマティは、普通の日本人にはちょっとクセが強いかもしれない。だけど、インド米と日本米のちょうど中間に位置するサリー君は、インド米の魅力を鮮烈に感じさせつつ、じつに日本人好みのバランスに仕上がってる。まさにマジック! なにこれ、こんなお米食べたことない!っていう驚きがすごい。

筆者(59歳)とサリー君(サリークイーン)。ずっと自家用に100㎏程度つくってきたが、10年ほど前から口コミで需要が急増

倒伏しやすく、刈り取りは最後

 そんなサリー君じゃが、栽培上のポイントはとくにない(笑)。いやホント、田植え機もコンバインもモミすり機も、手持ちのものでOKなんじゃもん(笑)。ただ、ちょっと気難しいところもあり、以下に記すと――。

▼種モミの入手先が少ない――農研機構系のマイナー品種を供給する「彩の国籾種生産組合」(埼玉県)で入手可能。しばもこちらから購入してます。

▼コケる――しばはすべて無肥料無農薬のレンゲ栽培だけど、それでもコケる(倒伏する)。チッソ何kg?って聞かれても、やってないからわからん(笑)。普通栽培よりかなり少肥では?とっても自然栽培向きの品種。

▼イネ刈りは最後――最重要のポイントは、日本米が混ざらないよう注意すること。ウチは日本米をすべて済ませてから最後に刈ってる。コンバイン、乾燥機、モミすり機を徹底的に掃除してからサリー君を刈る。

 ちなみに、岡山県は全国有数の晩生地帯で、10月中旬に「ヒノヒカリ」を刈り、10月下旬に「朝日」、そこから猛然と掃除して11月にサリー君を刈る。ん?よく考えると、すごい遅刈りに耐えとるな。

▼収量は期待しないで――分けつが少なく1穂当たりのモミ数も控えめで、日本米なら20gある千粒重もサリー君は15g。つまり収量はまったくとれず、ウチでは反収5俵(300kg)ほど。値段は日本米の倍にしてるけど、単純な話収量が半分だから(涙)。え?あまりお金にならんの?そんなのムダ!と思うかもしれん。

 しばの考えはこう。このサリー君のマジック(魅力)は、確実に若者の心をつかむ。つまり、消費量が上がる。さらに同じ量をとるのに倍の面積がいる。すなわち、使う田んぼが増える。今のニッポン米余り。多収品種つくって田んぼを余らせるより、収量低めの品種をうっすら広範につくるほうがよいのでは(私見です)?

田んぼのサリー君。現在30aで無肥料無農薬のレンゲ栽培。6月下旬にポット成苗を植える。22年は40a栽培

細い粒だけに、調製には試行錯誤

▼モミガラむけん!――品種特性だろうけど、モミガラがむけにくいうえに、使うのは日本米用モミすり機じゃろ? 粒が細いサリー君には、ロール間隔が広すぎるんじゃろな。手動で隙間を狭く調整して、その分めっちゃ負荷がかかるから流入量を半分ぐらいに絞っておる。

 1.2mm網で選別できるそうじゃが、そんなもん持ってないから選別機にかけられない。だから玄米にモミが入るし、茶米や黒米も入る。外注で玄米色選にかけとるが、より夾雑物のリスクを避けるために、今のところ販売は精米のみで、玄米対応はなしにしとる。

▼精米どうする?――粒が長くて精米時の折れが怖いサリー君。しばは前はコイン精米所で精米してたけど、今は山本製作所の縦型精米機を使っとる。が!折れるの怖さで、しばが試さなかった循環式精米に挑戦した友人から、「折れないじゃん」と報告あり。なんでもOKなのかも?

パスタのように茹でこぼす!?

 日本は炊飯器で炊くけど、インドではざぶざぶの湯で茹でて、ザルで茹でこぼすんよ。そう、パスタやそうめんのように。サリー君はこのやり方だと、なんと2分半で炊けてしまう。マジック!

 下図に、試行錯誤したしば直伝の茹でこぼし炊き(湯取り法)を大公開。 

 炊けたら、普段通りのカレーで食べてみて、っていつもお願いしてる。土台のお米が違うだけでこんなにも世界が違うのかー!って衝撃がデカくなるから。もちろんピラフ、パエリア、カオマンガイなど、油とスパイスを使う世界中の米料理と相性抜群! チャーハンは、もうじつに恐るべき麻薬のような仕上がりに。

口コミで販路拡大

 コツコツ営業してきたけど、一番効くのはファンの方の口コミじゃ。おかげ様で小売店は岡山県内の7店舗、関東関西4店舗、飲食では県内外4店舗に納品。ネットは「岡山AKIAGRI」のECサイトにて。

 パン、パスタ、ラーメン、餃子……小麦の世界は魅力的で多様性に富んでいて、対抗するのは容易じゃない。何か当たり前じゃないガツンと尖った、心に刺さるお米ないかな? そして出会ったのがサリー君。以来30年、売れもせず注目もされず(笑)。それがなぜか最近動き始めた。サリー君の魅力に時代が気付き始めたのかな?

 以前は「今サリー君の栽培を始めれば、岡山の独り勝ちじゃね?」って思ってたしば。今は違う。サリー君は「日本の宝、国民の財産」そして「農村の希望」だと思うんよ。だから皆で切磋琢磨して大きく育てなきゃ。

 しばの夢は、インド通でもなんでもない普通の日本の皆さんにサリー君をお届けすること。産地間競争もいいけど、パイの奪い合いじゃなく、若者を米界に呼び戻してパイ自体を大きくしないと。

 100年前はトマトを食べなかった日本人が、今は普通にトマトを食べているように、今は珍しいインド米がいつか普通に食べられる日が来ればいいな。「日本の宝」サリー君がその糸口になればな、と願っとる。

(岡山市)

この記事の続きは2023年2月号をご覧ください

2023年2月号では、この記事のほか、「国産長粒米に需要あり」と題して以下の記事を掲載しています。ぜひ本誌でご覧ください。

  • 「カレー専用」の華麗舞 三重・タカノファーム
  • エキゾチックな香り プリンセスサリー 及川正喜