栽培のコツ 2022年 試し読み 11月号 果樹 ブドウ新短梢栽培 ワクワク奮闘記(最終回)早期発見、早期治療 白紋羽病 2022-10-04 長野・丸山三恵子 ◆マークは用語解説あり 筆者(赤松富仁撮影) 「エッ? なんだ、これは!……(絶句)」 就農した15年前、6月上旬の朝の出来事です。巨峰の樹(5年生樹、◆長梢栽培)1本全体の新梢が、だらんと萎れていました。展葉8枚頃の新梢が、生気を失っています。(ウソォー! 昨日までなんともなかったぞぅー) 「お前、どうしたんだ?」と、幹を手で押したら、幹がユラッと揺れるではありませんか。根元(株基部)が軟らかくなっていて、そこがヌルヌルしていました。昨日まで他の巨峰の樹と同じような顔をして生長していたのに、一晩明けたら力尽きるなんて……。いったいこの病気はなんだろう? これが「◆白紋羽病」との出合いの朝でした。 長梢栽培とは? ブドウの栽培法の一つ。主枝をX字に仕立てるのを基本とし、新短梢栽培のように結果母枝を一律に1芽残して切るのではなく、樹勢に応じて切っていく。ブドウは「負け枝」が発生しやすく、主幹の近くから出る枝はよく伸びるが遠くから出る枝は生育が妨げられ、衰弱しやすい。負け枝を作らないよう樹形バランスを考えながらせん定する必要がある。 白紋羽病とは? ナシ、リンゴ、モモ、ブドウなどで問題になる土壌病害。感染すると、葉色が淡く、花芽が多くなり、早期落葉する。地上部の症状が出る頃には根の腐敗が進み、急に枯死することもある。 すべての樹の根元を掘って調べたら…… この巨峰畑は、数年前までナシを育てていました。ナシの根に感染していた、白紋羽病菌が土壌に潜んでいたのかもしれません。この年は、この畑の巨峰の根元(株基部)を点検し、次の年は、全園のブドウの樹、約220本の点検をしました。力尽きたあの樹の映像は、済まない気持ちとともに、今も胸の中に残っています。 総当たりで点検をしていくと、あることに気づきました。白紋羽病に罹患するスタートの場所です。私の畑では、株基部と土の触れ合う地際部でした。『病害虫百科第2版(ブドウ・カキ)』(農文協)によると、「本病菌の増殖に必須のものは、酸素と適度の水分とセルロースを主成分とする粗大有機物などである。……土壌中では、菌は5〜30℃で生育し、25℃が最適である」(執筆・那須英夫)――とすると、株基部と土の触れ合う地際部は、「酸素と湿気と25℃前後」の、白紋羽病菌が生育するのには好条件なのかもしれない、と思うようになりました。 紋羽病菌の菌糸。粗大有機物をエサに晩春から秋にかけてよく伸長。1年で1mほど伸びる ワイヤーブラシで擦って、薬剤をかける その後、4月中旬、主幹に巻く霜除けのワラを取り外したら、こんな手順で治療を行なっています。 (1)根元周りの草をとる。(2)幹の粗皮を、台木を含めて剥ぐ(カイガラムシの点検も兼ねる)。(3)地際の土を幹から根に分かれるところまでとる(ここで、白紋羽病菌の罹患状況がわかる)。(4)罹患している根の表皮を剥ぐ。罹患した白い表皮は、畑に棄てず処分する(バケツや袋などに入れ、畑から外へ)。(5)罹患した部分をワイヤーブラシで擦る。(6)フロンサイドSCの500倍液を、(5)の擦った場所にかける(擦った面積が小さければ、薬液も少なくてすむ)。(7)そのまま根元を出して乾かす。 粗皮削りの際に地際部の白紋羽病も点検し、早期治療する。左から罹患部を削り取るワイヤーブラシ、粗皮削り用のスクレーパー、削り鎌、草刈り鎌、罹患した表皮を回収するバケツとビニール袋 苗木の予防にフジワン粒剤 全園の樹を点検したとき、親の代から引き継いだおいしいナイヤガラの樹が白紋羽病に罹患していました。この樹に長生きしてもらいたくて、罹患している根をたどり、土を取り除いて表皮を剥いでいきました。半径約1m、深さが20㎝ほども白い菌糸が見えました。ワイヤーブラシをかけ終わるまで、1日がかりの作業。薬液は、たっぷりとかけられるように1000倍液にして60ℓほど使いましたが、さらに根元を乾かしてから土を戻すときにも、その土に薬液をかけました。 この樹には、負担をかけないように、樹冠を狭めることにしました。 今も昔ながらの味で、おいしいナイヤガラを実らせていますが、治療の時期が遅れると作業は何倍も大変になるのだと知りました。ヒトの病気と一緒で「早期発見、早期治療」が大事なのは、白紋羽病対策にも当てはまりそうです。 そこで、苗木を植えるときからの予防に、白紋羽病に効くイソプロチオランが入っていて土壌混和できるフジワン粒剤を使ってみることにしました。 植える場所の土にフジワン粒剤をまき、トラクタで混ぜておきます。定植の2週間くらい前です。土壌消毒のつもりで土と混ぜます。深植えは、白紋羽病になりやすいので、植え方にも気をつけます。 また、幼木の移植時にすでに根が罹患している場合は、フロンサイドSCの500倍液に根を20分間浸してからの移植を試みています(使ったことはありませんが、トップジンM水和剤にも、植える前に根を10分間浸漬の使用方法が記されています)。 樹のしもべになって手をかける 毎年、春に粗皮削りをしています。品種ごとにローテーションしながら3年に1度は全園をカバー。そのときに、白紋羽病の点検と治療も行なっています。ただ、今年は治療後1、2年の樹がどうなっているのかが無性に知りたくなって、ほぼ全園204本の樹を点検してみました。 3年に1回は全園の樹を粗皮削りできるよう、毎年ローテーションで作業している 2年前、治療したはずの樹でも、一部分うっすらと白い粉が見えます。1年前に治療した樹は半分以上が大丈夫でしたが、よく見るとうっすらとあやしいものもありました。フジワン粒剤で土壌消毒をしてから植えた樹でも、10年も経てば地際部に罹患が見られます。どうやら、白紋羽病菌が畑からまったくいなくならない限り、完全に罹患を防ぐのは難しいようです。 でも、もちろん、どの樹も地上部は元気そのもの。早期治療には、やはり大きな効果がありました。 樹には「手」がないから、痒くてもそこに届かない。樹はがんばっているんだから、病気や虫への対応は(手のある)私の責任なんだなー、と思います。樹の根元で治療をしていると、なんだか樹たちのしもべになっているようでちょっとうれしい、不思議な感覚になります。 「大丈夫。白紋羽には負けないよ」とブドウの声が返ってくるようです。 (長野県塩尻市) 「ブドウ新短梢栽培 ワクワク奮闘記」の連載は今回で最終回。これまでの連載記事はルーラル電子図書館でご覧いただけます。 ・第1回 せん定にかかる時間は、10分の1(2021年8月号) ・第2回 主枝はどこまで切り戻す?(2021年9月号) ・第3回 摘心のタイミングはいつ?(2021年11月号) ・第4回 やきもちやきの女の子 シナノスマイル(2021年12月号) ・第5回 露地でも裂果させないナガノパープル(2022年1月号) ・第6回 ライ麦とミミズが土をつくる(2022年3月号) ・第7回 長梢せん定も楽しい(2022年4月号) ・第8回 作業性バツグン、新短梢棚(2022年5月号) ・第9回 害虫とのたたかい トラカミキリ編(2022年7月号) ・第10回 害虫とのたたかい コナカイガラムシ編(2022年8月号) ・ 第11回 害虫とのたたかい サビダニ編(2022年9月号)現代農業WEBで試し読みできます ・第12回・最終回 早期発見、早期治療 白紋羽病(2022年11月号) 2022年11月号を注文する 最新号を注文する 最新号から定期購読する 過去のバックナンバーをみる 2022年11月号の試し読み 〈今こそトラクタの油代を減らす〉軽油が年間100L減 低燃費・高速耕耘法の効果は絶大でした 〈油の買い方〉自分でやれば300万円弱 農園の専用ガソリンスタンドを作った 〈燃料代ゼロ円作戦〉発電、不耕起、バイオトイレ…… 脱化石燃料化で千年続く農業へ 【新連載】イチゴの未分化定植・本圃増殖栽培 育苗本数が半分!? 夏の作業がラク!? 11月号の読みどころへ戻る ブドウの早仕立て新短梢栽培 小川孝郎 著 樹形が明解なため、高齢者や婦人が整枝・せん定の判断や作業に安心して取り組める、2年目から収穫できる。草生栽培によって土づくり、根づくりをし、大玉系の高品質果も安定多収できる栽培法を、豊富な図解で詳述。 原色 果樹病害虫百科 第2版 第3巻 ブドウ・カキ 農文協 編 18年ぶりの増補大改訂で最新の診断・防除情報を提供現場の第一線の研究者・指導者370名の総力を結集。農薬は「改正農薬取締法」にあわせて全面大改訂被害の様子、診断のポイント、病害虫の生態・生活史、発生しやすい条件、防除の実際、効果の判定など、診断から防除まで実際的に詳しく解説。 Tags: 白紋羽病, ブドウ