人工受粉しても着果しない、花が飛んだ、樹がバテてしまった……。昨年は高温がトマトの生育に大打撃。秋の収量がガクンと落ちた農家も多かった。全国の夏秋トマト農家はこの猛暑にどう立ち向かったのか。
鳥取・平岡竜也
暑くても過去最高の収量
大玉トマトを生産して14年目になります。単棟の雨よけハウス18棟(27a)で、5月下旬に定植、7月中旬から11月上旬まで収穫(12~13段)。2014年から「りんか409(サカタ)」を栽培しています。
体感では22年より23年のほうが暑いと感じました。ハウスに設置したプロファインダーの日平均気温を見ると、7~9月のほとんどの日で23年の気温が22年を上回っていました。去年は、秋になってくると他産地でも暑さに苦戦しているという話を聞くようになり、9月のトマトの平均単価は660円/kg、10月は830円/kgと過去にない高単価で推移しました。
そんな状況でしたが私の収量は12.8t/10aと一昨年の12.3tから微増。過去最高の収量になりました。10月の高単価期は多少収量が落ちましたが、高値だったこともあり売り上げも1,600万円と過去最高額の年でした。なぜ猛暑でも増収できたのかというと、植物生理に基づいた再現性の高い栽培に注力したからです。
栽培環境が違っても応用できる
トマト栽培3年目のとき、収量が6.3t/10aしかとれず、このままではまずいという危機感から日々トマトの情報を貪欲に吸収していました。学問的な農業知識が素人同然だった私は、まずは基礎知識、とくに植物生理が必要だと判断し、農業高校の教科書から始まり、専門書までトマトに関する書籍で目に付くものはすべて読み漁りました。
14年、『現代農業』で斉藤章さんの指導を受けた越冬長期どりをしているミニトマト農家の記事を読みました(14年7月号p62)。記事にはかん水量を地域の人の2~4倍与えたことや、日射量に応じてかん水や給液ECを変化させること、蒸散がはじまってからかん水を開始することなど、いままで知らなかった情報が掲載されていました。品目や作型など自分の環境とは違う点が多かったのですが、トマトの植物生理というフィルターを通してみると、この記事の内容は自分の栽培にも落とし込めるな、と思いました。
当時は日射比例かん水装置が高価で手が出せなかったので、1日の細かな天気予報を見てタイマーかん水装置のかん水回数を調整していました。いま思えば的外れなこともたくさんやりましたが、私なりに試行錯誤して収量は徐々に増えていきました。22年からはデルフィージャパンのコンサルティングを受けるようになり、収量が飛躍的に増加。猛暑だった23年には、地域で収量ナンバーワンになりました。
増収につながった栽培管理
22年から実践した取り組みの中から、暑さ対策にも役立ったと思われるものを挙げます。
①蒸散量を増やし気化熱で冷やす
まず、天気と栽培時期で決めていたかん水量を、積算日射量とトマトの葉面積などで決定するようになりました(20年8月号p174)。栽植密度も地域慣行より高めの2.77本/m²に変更(23年3月号p132)。
適正な量をかん水することで、光合成量を増やし蒸散量も最適化されます。蒸散の気化熱でハウス内の気温が下がりました。栽植密度が上がることでも蒸散量は増えます。
②遮熱剤で減った日射量を白黒マルチで補う
5月下旬の定植直前に、ハウスビニールへ遮熱剤(レディヒート)を塗布(23年7月号p138)。日中のハウス内の気温は、外気温に比べて約10%低下しました。遮熱剤によって日射量が15%ほど低下します。それを補うため、全面を白黒マルチで被覆し、条間を70㎝以上に広げ、日射を効率的に利用できるようにしました。
③早朝受粉で着果率が安定
トマトトーンによる人工受粉は、日の出後すぐやるようにしました。150倍に希釈し、約2300株分を2時間で処理します。朝ではなく午前中処理していたときは、高温期(7月中旬から8月下旬)に開花する段の花が飛んで9~10月の収穫が少なくなっていました。日の出後すぐの処理に変えて着果が安定し、秋もとれるようになりました。
④花と葉を落として樹勢低下を防ぐ
以前は、1段当たりの目標果数以上が着果してから摘果していましたが、今は開花時(2花咲いたころ)に摘花することで無駄な糖の消費を抑えられました(22年11月号p148)。葉かきは以前は盆過ぎに第1果房下の段の7葉だけしていましたが、生育に応じて中位葉も向こうがすけるぐらい積極的に実施。摘心後まで続けました(23年11月号p132)。
葉が多すぎると呼吸消耗が大きく蒸散もエネルギーを使うので糖の無駄遣いにつながり、生育が低下します。積極的に葉かきすることで過剰な蒸散を抑え、呼吸量が最適化されて生理障害果が減りました。
ベースは積算日射量に合わせたかん水
かん水についてもう少し詳しく説明します。私は18棟のハウスを0.9aずつ3ブロックに分けて管理しています。かん水量は……
この続きは2024年7月号をご覧ください
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農文協 編
農薬の成分から選び方、混ぜ方までQ&A方式でよくわかる。たとえば、農薬の「成分」って何のこと? 商品名は違うのに成分が同じ農薬は多い? ミニトマトはトマトと同じ農薬でいいの? といった「基本的なことだけど大事な話」が満載。さらに、RACコードって何? 混ぜると効き目がアップする農薬は? 多品目畑で使いやすい農薬は? といった現場の悩みにも応える。農薬の効かせ上手になって減農薬につながる一冊!。