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【大地の再生】分解が速くニオわない大地の再生流「風のトイレ」(全文公開)

広島・下村京子

「大地の再生」とは、造園技師の矢野智徳さんがすすめる手法で、地上と地下の空気と水を循環させることで植物が元気になり、周囲の環境にも好影響をもたらすというものです。近年、各地で講座が開かれるようになり、「大地の再生」を応用した「風のトイレ」作りが話題になっています。この記事は現代農業2023年5月号に掲載された記事です。期間限定で公開します。

分解が速くニオわない大地の再生流「風のトイレ」
2年前に作った「風のトイレ」。木のそばはトイレの機能と相性がいい

自然の循環になじむトイレ

 講座をしていると、個人、または数人のグループで農作業をしている方から、トイレを作れないかと相談を受けることがあります。理由は、そこらへんで適当に用を足すわけにはいかないから。仮設トイレだと経費の負担やニオイなどのデメリットがあるから。そういうときは、生き物の繋がりの世界をけがさず、風景になじみ、気持ちよく使える「風のトイレ」を皆さんで一緒に作ることを提案します。

 風のトイレは、微生物の力を借りるトイレです。水脈と風の通り道をうまく利用し、トイレを自然の循環の一部に組み込めば、分解が速く、ニオイもしません。

筆者。ガーデニングコーディネーターの傍ら「大地の再生」中国支部の活動を行なう(大村嘉正撮影)
筆者。ガーデニングコーディネーターの傍ら「大地の再生」中国支部の活動を行なう(大村嘉正撮影)

水と空気の流れを遮らない場所を探す

 作る場所はかなり重要です。自然環境の中に、建物などの人工物を作るときは大地の循環に悪影響を与えるリスクを伴います。そのリスクをできるだけ背負わないですむように注意が必要です。注意点は二つ。

・水環境(水脈)、生物環境、物質環境の地上と地下の行き来を遮らない

・地上の建物で風通し、光通し、目通しをふさがない

 自然は、生産(植物)→消費(動物)→リサイクル(菌類)のように、森林を構成する樹木を中心とした生き物と自然環境とのやり取りや、そこに棲む生き物同士の関係などで成り立っているからです。

 地形を見て、谷間の水はけが悪い場所や水が集まる場所は避けること。目で確認できる範囲の地形を見るか、わかりにくいときは国土地理院の地理院地図や、「スーパー地形」などのアプリで、等高線を見て谷と尾根を確認します。

 谷間はまわりで降った雨が集まってくる場所です。そこにトイレを設置すると、水がたまってしまいます。ことわざでもあるように「淀む水には芥たまる」。よどみには腐敗が生じやすいという意味です。腐敗は悪臭の原因になります。

 谷間は水だけでなく風も集まるところ(脈になる場所)です。そこにトイレを作ると脈を遮り、その機能が失われてしまいます。空気と水の移動を遮断するのではなく、循環するようにつなげていく必要があります。

 木のそばはトイレと相性がいいのでおすすめしたい場所です。木の根で地形が安定しているのと、根に付いている微生物が排泄物を分解し、水分も調整してくれます。

 木陰がない場合、西日が当たる場所に作らないこと。建物の劣化が早くなります。また、西日が当たると温度が上昇し、土中の微生物のバランスが崩れ、特に暑い時期にはニオイが発生しやすくなります。

できるだけまわりにあるものを使う

 場所が決まったら、トイレの穴と溝を掘り、小屋を作ります(手順は囲みを参照)。風のトイレを作る場合は必要なものをすぐに買いに行くのではなく、まわりにある自然の中から使えるものを探してきます。小屋の骨組みには、竹、杭など折れにくいしっかりしたものを、目隠しには笹竹、ススキ、枝葉など、隙間を埋めていく長さのあるものを使います。

 風のトイレではトイレットペーパーも使えます(人数が多い、使用頻度が高い時は分別をおすすめします)。トイレを使い終わった後は、排泄物の上から炭、オガクズ、または腐葉土を被せます。腐葉土は近くに森や林があれば調達できます。

 経過観察して、ニオイが気になるときは、水がたまっている、分解されていない、穴が埋まってきた……など原因を調べて対処していきます。水がたまる理由は、

・湧水のそば、またはその場所に掘っている

・トイレを水が集まる低い場所に掘っている

・トイレの後ろに掘った溝がトイレに向かって勾配が下がっている(雨が溝を流れて穴に入ってしまう)

などが考えられます。トイレの設置場所を変えたり、溝を掘りなおしたりして対処します。

風のトイレの模式図
風のトイレの模式図
分解が速くニオわない大地の再生流「風のトイレ」
トイレの中の様子。その場所の環境に合わせて作るので一概には言えないが、この大きさのトイレなら1日の利用人数は5人で、頻度は月に2、3日

風のトイレで人間も循環の一部になる

 植物は土から水と養分を吸収して生育しています。微生物の働きは土中に入ってくる有機物を分解し、さまざまな物質変換を行ない、木が吸収できる栄養素にまで分解することです。ミミズやモグラなど、比較的大きな生き物たちもこうした作用を担っています。

 人間は土から野菜、果物など有用なものを受けとっています。この有用なものを消費し、再び循環できるのが、木や草が生えている農地のそばに作った風のトイレの利点です。

 トイレの形や作る場所だけを見るのではなく、そのまわりの環境全体を見ること。トイレのプランを考える前に風や水の流れを把握すること。そのためにとにかく観察し、その場の重要なポイント(水脈や風の流れ)を外さないことが重要です。

 皆さんも自然界の循環を妨げないことを意識してトイレを作り、利用してもらえると幸いです。

分解が速くニオわない大地の再生流「風のトイレ」
入口と反対側から見た様子。完全に密閉せず、木漏れ日のように光が入るようにすると風通しもほどよくなる
分解が速くニオわない大地の再生流「風のトイレ」
小屋を横から見た様子。コンクリートなど、血管のように張り巡らされている水脈や風の流れを遮る素材は使用しない

「風のトイレ」の作り方

作る場所を決める

 ・谷間など、水はけが悪いところや水が集まるところは避ける

 ・西日が当たるところは避ける

穴と溝を掘る

(1)トイレの穴を掘る

 ・利用人数と使う頻度に合わせてほどよく空気が循環する大きさ、深さに

 ・硬いところをガチガチ掘らず、軟らかいところを大地の呼吸を促すように掘る

(2)溝を掘る

 ・トイレの穴の後ろ側から、小屋の外に少し出るくらいの長さに掘る

 ・穴の中の通気性、通水性を確保するための溝なので、空気の逃げ道を作るイメージで

 ・草の生え方や土を見て、少し凹んでいる場所は水や空気が流れているので、それに沿って掘る

 ・トイレに向かって傾斜があると雨水が穴にたまりやすい。傾斜は外に向かって作る

(3)穴と溝の底に炭を敷く

小屋を建てる

(1)穴に足場をかける

 ・杭や板を並べて固定する

 ・使う人に合わせて足場の幅を考える

(2)掘った穴と溝に合わせて骨組みを作る

 ・竹や杭で骨組みを組んで屋根をかける

 ・すでにある小屋を使う場合は小屋に合わせて穴と溝を掘る

(3)骨組みに目隠しをする

 ・笹竹やススキ、枝葉などの長さがあるものを骨組みに編み込むように差し込む

 ・見た目を整えるのではなく、ランダムに四方八方から木の根っこのように組むと丈夫で長持ち

 ・目通し、光通し、風通しを意識して、ギュウギュウに差し込まないように注意

 ・トイレの中にいて木漏れ日のような光と空気の流れを感じられるかどうか、確認しながら作業をする

*月刊『現代農業』2023年5月号(原題:分解が速くニオわない大地の再生流「風のトイレ」)より。情報は掲載時のものです。

取材ビデオを期間限定で公開中です。「スコップと草刈り鎌でできる裏山の防災」
【動画】スコップと草刈り鎌でできる裏山の防災「点穴」の作り方(『季刊地域』取材ビデオより)

*動画(期間限定)は画像をクリックするとルーラル電子図書館へ移動します。

\ 書籍情報 /

矢野智徳 著
大内正伸 著
大地の再生技術研究所 編
定価2,860円 (税込)
ISBNコード:9784540212390

造園技師・矢野智徳氏が長年培ってきた環境再生の考え方と手法を、広く・濃く伝える決定版。
「空気が動かないと水は動かない」―独自の自然認識をもとに提唱する新たな「土・木」施工。その手法を、ふんだんなイラストと写真でわかりやすく解説。身近な農地、庭先、里地・里山から始める環境再生技術。

著者

矢野智徳(やのとものり)1956 年、福岡県北九州市生まれ。合同会社「杜の学校」代表。
1984 年、造園業で独立。環境再生の手法を確立し「大地の再生」講座を全国で展開しながら普及と指導を続けている。クライアントは個人宅や企業敷地ほか、数年にわたる社寺敷地の施業も数多い。近年の活動では宮城県仙台市の高木移植プロジェクト、福島県三春町「福聚寺」、神奈川 県鎌倉市「東慶寺」のほか、災害調査と支援プロジェクトとして福岡県朝倉市、広島県呉市、愛媛県宇和島市、岡山県倉敷市、宮城県丸森町、千葉県市原市などに関わる。
 拠点となる山梨県上野原市に自然農の実践農場のほか、座学や宿泊できる施設に、全国からライセンス取得や施業を学びに有志が集う。2020 年「大地の再生 技術研究所」設立。

WEBサイト:大地の再生 結の杜づくり(https://daichisaisei.net/)

大内正伸(おおうちまさのぶ)1959年生まれ。森林ボランティア経験をもとに林業に関わり技術書を執筆。2004 年より群馬県で山暮らしを始め、2011 年、香川県高松市に転居。2020年、自宅敷地で「大地の再生講座」を開催する。囲炉裏づくり等のワークショップや講演も多数。著書に『これならできる山づくり』『山で暮らす愉しみと基本の技術』ほか