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【新連載 有機給食野菜はじめの一歩】有機だからといって難しいわけじゃない(全文公開)

茨城県常陸大宮市では、2022年から有機給食用の野菜づくりがスタートしています。月刊『現代農業』では、栽培指導している「つくば有機農業技術研究所」の松岡尚孝さんに、有機栽培をはじめるときの土づくりや野菜ごとのつくり方などを連載で紹介していただきます。現代農業WEBでは、その連載第1回目を試し読みとして公開します。

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松岡尚孝

有機給食野菜
ジャガイモ畑の通路にクズ麦のワラマルチとリビングマルチを実施

突然、有機給食野菜づくりの先生に

 2021年の暮れも押し詰まった頃、知人の紹介で、JA常陸の顧問と近所の料理屋で面会した。顧問曰く「常陸大宮市の市長から有機給食の食材提供を頼まれているので、有機栽培の指導をしてくれないか」と切羽詰まった声。有機栽培の技術話をしつつ2時間ほど呑んで、引き受けることになった。以前より有機栽培のできる人材を探している話は耳にしていたが、まさか自分に降ってくるとは思わなかった。そして、年明けすぐにJAの本店へ参上し、その場で技術顧問の依頼を正式に受けたのであった。

 それから一週間後、JAの生産子会社・アグリサポートを訪ねたが、社員から「有機やるのは無理!」との洗礼を受けた。有機は手間がかかり、病害虫が出てもできることが少ないとの認識だからだ。しかし、組合長の強い意志もあり、取りあえずすぐ準備できるものからということで、ジャガイモの種イモを確保して進めることになった。そこに至るまでに、気の重たいやり取りがあったのは、いうまでもない。

土壌診断して堆肥や元肥を入れて化学性を整えた後、3月にジャガイモを植え付けた
土壌診断して堆肥や元肥を入れて化学性を整えた後、3月にジャガイモを植え付けた

初心者に伝わりやすいよう見える化

 まずは、アグリサポートが慣行栽培をしていた約1.2haの圃場を見に行き、有機で作付ける畑を決めてそこの土壌分析を依頼した。その間に、年間の作付計画や有機JASで使用可能な資材を抽出して作表したり、必要な資機材の一覧を作成したりする準備に専念した。土壌分析結果が上がってくると、それをもとに肥料設計を作り栽培計画表を作成して「見える化」を図った(JAで入手しやすい肥料を使用)。

 そのいっぽうで、JAの担当職員やアグリサポートの生産スタッフへ有機JASの講習会を開き、有機栽培への理解度を深めていった。

地元の保育園児を招いて、有機栽培したジャガイモの収穫体験
地元の保育園児を招いて、有機栽培したジャガイモの収穫体験

クズ麦で防霜・除草・防虫

 3月に入りジャガイモ(品種はトウヤ)を作付けるための堆肥散布や施肥、ウネ立て、マルチ張りして畑の準備が完了。種イモを植え付けて本格的に有機栽培が始まった。

 茨城県北地域は、冬はマイナス9℃以下になり、遅霜の恐れもある(実際は発芽後に雪が降った)。防霜や防虫、防草を兼ねて、垣根のように圃場周りへクズ麦を播種。ウネ間にも同じくクズ麦のリビングマルチ(生き草マルチ、防草と防虫ねらい)を播種し、敷きワラ(防霜と防草ねらい)を施した。21年は、ニジュウヤホシテントウがかなり出ていた情報もありとても心配したのだが、フタを開けてみれば目立った食害は発生しなかった。また、ヒゲナガアブラムシやそのほかの害虫、疫病などの発生もなく、順調に生育。6月の収穫を迎えたのであった。

社員の目の色が変わった

 初収穫祭として市内の保育園児を招いて、ジャガイモの収穫を行なった。結果約8aで2.5tと上出来であった。ジャガイモからカボチャ、ニンジン、タマネギと次々に収穫して道の駅で販売すると、評判を呼んで売り上げも上々であった結果、アグリサポートやJA職員たちの目の色が変わった。地域担当の普及員も最初は有機栽培に半信半疑だったが、データ取りなど真摯に向き合ってくれた。

 指導するほうも失敗できない崖っぷちでやっているのでハラハラドキドキする中、学校給食にも有機栽培した野菜を供給することができ、実績を認められるようになった。秋作には給食関係からの要望で難易度が高いタマネギも作付け、翌春最後にはべと病の発生が見られたものの、3t近い収穫があった。さらに、23年春作にはダイコンをはじめとして、ミニハクサイやミニキャベツ、トレビス、リーフレタスなど品目を増やした。アグリサポートが自主的な生産に乗り出した結果である。

 有機栽培は順調に軌道に乗り始めたがただひとつ、克服できていない作業がある。育苗である。アグリサポートでイネの育苗は普段からやっているのだが野菜の育苗経験はなかった。さらに有機栽培用の育苗培土は乾くと水をはじきやすいピートモスなどの有機質が多く使われているため、慣行栽培用のものより扱いづらい。プラグトレイへの土詰めの硬さやかん水の塩梅が伝わらず、これが課題として残っている。

身近な微生物で土づくり

 さて、なるべく簡単で手間のかからない有機農業を目指すには、まず健康な土壌を育成する。堆肥や緑肥を組み合わせて、有機JASの基準をクリアした肥料で化学性を整えたらいい土ができる。一朝一夕とはいかないものの及第点の取れる品質の野菜を収穫することは可能である。

 次回詳細を述べるが、土壌微生物や植物を活性化するのに使うのが、納豆(枯草)菌や酵母菌、乳酸菌、光合成細菌である。これらは、安価に培養できるのでおすすめ。放線菌類は培養が難しいので、近くの広葉樹林や竹林などからハンペンと呼ばれる菌塊を採取して、堆肥やボカシなどに混ぜて増殖するのがいい。

防除に使える資材もけっこうある

有機給食野菜

 有機栽培では病虫害を発生させないことが第一目標だ。そして、IPMなどの予防措置を念頭に、野菜や畑の環境を観察することが重要である。しかし、大きな病虫害になりそうなときには、早めの防除が求められる。

 病気の発生予防もしくは軽微な場合には、食酢(酢酸)や納豆菌、乳酸菌等を葉面散布する。糸状菌が病原となっている症状にはけっこうな効果がある。そのほかにもJAS有機の許容資材として、殺菌剤なら銅剤や硫黄剤、殺虫剤なら除虫菊(天然ピレスロイド)やBT剤(バチルスチューリンゲンシス)など。あとは天敵として、アブラバチやチリカブリダニなどがある。これくらいあれば十分防除できるが、幼虫が大きくなっていたり、大量発生したりしたところでは効果が薄い。かといって接触毒は効力が消えるのが早いし弱く、気門封鎖剤は害虫がいなければいくらまいても意味がない。予防的に使用してもほぼ効力がないので、元に戻るが観察をしっかり行なうことが大事である。そんなに構えなくても、有機栽培だからといって難しいわけじゃない。(つくば有機農業技術研究所)

現代農業2024年1月号では、この記事のほかにも有機給食野菜づくりの記事が掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • 【大きいサイズと安定収量をねらって有機給食野菜づくりに挑戦!】ニンジン緑肥&品種選びで給食規格が1.6t出せた 牛久保二三男

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