カンキツ農家の菊池さん(愛媛)は、「着果側(右半分)を丸坊主にする」という大胆な仕立てで、有機栽培でも高品質・多収を実現しています。現代農業2023年12月号のなかから、試し読みとして記事の一部公開します。
愛媛・菊池正晴さん
カンキツの一大産地・愛媛県八幡浜市で、極早生、早生品種を中心に温州ミカンを1.5haつくる菊池正晴さん(72歳)。2006年に有機JASを取得し、現在、中晩柑を含めたすべての品種を有機栽培中。できた果実はどれも「甘みとコクがある」と評判で、卸し先の商品カタログの表紙を飾るほど腕利きの農家だ。
そんな菊池さんの有機ミカンの栽培を学ぶべく、毎年多くの視察が来る。菊池さんの樹を初めて見た人は驚き、決まって「常識はずれ」というそうだ。でも、菊池さんが意図を説明すると「確かにこれなら病害虫が出にくいから、有機でいける」と納得し、その後も足しげく通うようになるという――。
樹の半分だけに果実が鈴なり
極早生の収穫が始まった10月上旬。菊池さんのミカン畑を訪ねると、右ページのように樹の半分だけに果実がなっていた。この樹は約30年生の日南1号(極早生)だが、樹齢や品種は関係ない。畑一面、ぜーんぶこんななり姿なのだ。
近寄ってみると、着果側の結果母枝(けっかぼし)はどれもS~M玉が4~5個ついて、鈴なり状態(下)。無摘果(むてきか)とのことで着果ストレスもかかるからか、おいしいミカンの特徴といわれる扁平で果皮とじょうのうの薄い小玉果ばかりである。
疑われるほど果皮がきれい
驚いたのは、有機栽培なのに果皮がきれいなことだ。ところどころ黒点病やミカンサビダニの被害果があるものの、さほど気にならない。枝葉も青々としている。
慣行の場合、年間の防除回数はおおむね20回前後。それと比べて有機JASは防除回数も使える農薬の種類も制限されるので、ふつうならもっと病害虫の被害が目立つはずだが……。なんでも、果皮がきれいすぎた年には、「本当に有機栽培?」と疑われたこともあったのだとか。
「うちは基本、防除は基本1回だけやで」という菊池さんに、この樹が植わっている畑の、23年作の作業の流れを聞いた。防除は計2回で、1回目は黒点病、ミカンサビダニ、カイガラムシ類の初発時期が重なる6月頭。今年はミカンサビダニが多かったので7月に2回目をやったが、通常は1回だけという。
「せやけども、これ見てみ」と菊池さんが指さす結果母枝には、イセリアカイガラムシがポツンと1匹いるだけ。すでに死んでいて、触るとポロっと下に落ちた。
「防除が少ない分、天敵も多いんやと思う。害虫の密度が高まる前に、天敵が食べる。いいバランスがとれとるんやろな。ほら、これらもうちの従業員よ」という菊池さんの畑は、そこらじゅうクモの巣だらけだ(下)。
せん定で着果側を丸坊主に!?
「うちらみたいに有機でしよるもんは、農薬を使わずに病害虫の発生率を下げないけんのですよ。やけん、20年くらい前にこのやり方を取り入れたんよ」
1本の樹をおおまかに半分(着果側と無着果側)に分けて、一作ごとに交互に入れ替えるこの方法は「半樹交互結実」などと呼ばれ、以前から隔年結果(かくねんけっか)対策の一つとして各産地の慣行栽培でも取り入れられている。もちろん菊池さんもそれをねらっている。
しかし、「常識はずれ」といわれるのはこのなり姿そのものではなく、無着果側の発育枝(はついくし)のつくり方だ。ミカンは発育枝が翌年の結果母枝になる。そのため、従来の方法は生育途中に樹の半分を全摘果して無着果側を設け、そこに発育枝を出させるというもの。一方、菊池さんの場合は――、
「前年に実をならした側は、せん定で母枝を全部切り戻して丸坊主にするんよ」
着果側を丸坊主? 論より証拠、まずは下の写真を見てほしい。これは右半分が着果側だった樹の、2月のせん定直後のようす。「右半分だけ枯れた?」と思ってしまうほど、着果側はほぼ骨格枝しか残っていない。その後、発育枝を出させるという。
「みんなが驚くのはここよ。せん定っていうよりも刈り込みって感じ。常緑樹を丸坊主にするなんて、ふつう考えんやろ(笑)」
確かになんとも大胆な方法だ。でも、丸坊主にして病害虫の発生率が下がるのはどうしてだろう?……
この続きは本誌2023年12月号をご覧ください
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農文協 編
かつての増産多収から品質重視、そして省力・軽労化の追求とともに、今日では温暖化に対応した管理の見直し、また中晩カン類を含む個性的な品種群を安定してつくりこなす技術も必要に。これらに関わるカンキツ栽培情報を、第一線の研究者、指導者、生産者が総力で執筆。