編集部
農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で人気だった現代農業の過去記事より、すぐに実践できる情報を毎月1本ずつ公開します。
今回のテーマは、「快適なせん定バサミの選び方」。山梨県の果樹産地にある老舗農具店、三森商店から教わりました。最近よく売れているという「アンビル型バサミ」と「電動バサミ」についてもわかります。

「太い枝も切りやすいと思うのか、とにかく大きくてよく切れるせん定バサミをちょうだい、っていってくる農家がとても多いわね。でも、そういう選び方だけだとうまくない」と話すのは、山梨県甲州市にある三森商店の三森孝子さん。
三森商店はブドウやモモの産地で100年以上続く老舗農具店だ。店内には農家に定評あるせん定バサミが並ぶ。ではいったいどんな選び方をすればいいのか。三森さんに教わった。
ハサミ選びの基本
樹種ごとに枝の硬さは違う
せん定バサミが欲しいっていう農家には、まず何を切りたいの?って必ず聞くの。ブドウの枝なのか、モモなのか、家の庭にあるカキなのか、ウメなのか。枝の硬さってみんな違う。ブドウやモモは軟らかい。カキ、ナシ、リンゴは硬い、クリ、ウメもすごく硬い。硬さが違えば必要なハサミだって違ってくる。
硬いものを切りたいなら、できるだけ薄い刃が必要になってくる。薄い紙で手を切るってあるでしょ。薄いほど切れ味は上がるから。でも薄いと刃こぼれもしやすくなる。ブドウのように軟らかい枝なら無理に薄い刃を選ぶ必要もないわけ。


テコの原理でハサミは切る
選ぶときにもう一つ大きなポイントは、自分の手に合うかどうか。これは本当に大事。私はね、ハサミ選びで相談を受けたら、力点、支点、作用点の話から始めるの。
――ハサミと力点、支点、作用点?
そもそもハサミって、テコの原理で刃を動かしてものを切っているのね。刃の部分に作用点があって、持ち手が力点。二つの刃を締め付けているカシメと呼ばれるところが支点。持ち手をしっかり握りしめて、テコをちゃんと働かせて、二つの刃がきれいにかみ合わないとハサミは上手に切れないの。
――いわれてみれば、たしかにテコの原理ですね。
それと、作用点はハサミの種類によって違う。摘粒などに使う手入れバサミは刃先で切るでしょ。だから、作用点となる刃先で刃がかみ合うようにメーカーも作っている。
せん定バサミはもっと刃の根元に近いほうが作用点。せん定バサミを握ってみると、かみ合って摩擦でジャリッと感じるところがあるはず。そこが作用点。そこでしっかりかみ合うように作られているわけよ。

手の大きさと筋力に合うものを
――なるほど。こういう仕組みをちゃんと知ったうえで選ぶといいってことですね。
そう。だから、無理して大きなハサミを使っても、テコが上手に動かせないからハサミの力も発揮されず、作業もはかどらない。握るときの負担が大きくなって、必ず手を痛めてしまう。
せん定バサミはたいてい長さ180mm、200mm、225mmと決まっていて、手のひらと同じくらいのものを選ぶといいっていわれている。でも、あくまでそれは目安。メーカーによってハサミの形も重さも違うから、実際に手に持って試してみないとね。
――たしかに少し大きいだけでもしっかり握れないですね。
手の大きさだけじゃなくて、筋力も大事。私はお客さんが来たら、こっそり親指の付け根あたりの筋肉を見てるんだ。ハサミを握るときって、ここの筋肉を使うから。
最近は、定年までデスクワークだったっていう新規就農者も多い。そういう人は日頃使っていないから、男性でも筋肉が発達してなくて付け根のあたりが平べったい。今日取材に来てくれた、あなたの手もさっきこっそり見たわよ。見事にまっ平ら。ぜーんぜん使ってなさそうね。
――日頃はパソコン仕事ばかりなもので……。
ハサミのバネの強さもメーカーによってさまざまだから、あなたみたいな人には、小ぶりだったり、バネが軽かったり、無理せずしっかり握れるハサミをまずは薦めるかな。それでせん定作業を繰り返して、だんだん筋力がついてきたら、また手に合うハサミに替えていけばいいの。
アンビル型が人気
包丁とまな板に似た片刃のハサミ
――なるほど。ただ、力が弱い人でも硬い枝や太い枝を切ったりする必要もあります。そんなとき、何かいい手はないでしょうか。
リンゴとかだと、刃が横を向いているような津軽型のハサミが使われることが多いね。よく切れるものが多いし、手にムリのない角度で切れるからラクだよね。
あとは、最近よく売れているアンビル型のハサミとかどうかな。切り刃と受け刃の二つの刃で切る従来型と違って、切り刃だけの片刃タイプ。受け刃のほうは刃がなくて、まな板みたいになっているの。切り刃が薄くて、より少ない力でサクサク切れる。それに、切った後に切り刃がまな板状の受け刃でストンと止まるの。パチーンと弾けるような衝撃がないから、手の負担も少ない。


切る対象や使い方、使う人に合わせて、さまざまなせん定バサミが作られてきた。最近人気なのが下の3つのアンビル型。従来型と違い、片刃が特徴で、軽い力で切れる。アンビルとは鉄床(ハンマーなどで金属を打ち付ける際の作業台)の意

――ちょっと試しに枝を切ってみていいですか……。ああ、ほんとだ。たしかにアンビル型はサクッと切れてはっきり感触が違いますね。女性や高齢者にも使いやすそう。
アンビル型はヨーロッパで作られてきたタイプ。以前から日本でもドイツ製のものは販売されていて、愛用している農家もけっこういたの。ただ、替え刃式のもので、ハサミの分解の仕方が複雑でね。説明書をパッと見ただけだとわかりにくくて、私も農家に頼まれて刃を交換してあげるとき苦労したくらい。
それがちょっと前に、分解が簡単な日本製のものが販売されるようになって、最近はベテランの農家にもよく売れるようになったわね。5,000円前後と価格も手ごろだし。
ただ、アンビル型は受け刃に厚みがあるから、どうしても枝を切った跡が小さな切り株のように多少残る。それが気になるっていう農家がいたり、切ったときのパチーンがないのが逆にさみしく感じるなんて農家もいたりするみたい。

電動バサミも流行中
より扱いやすい小型タイプが登場
――なるほど。ただ、力が弱い人でも硬い枝や太い枝を切ったりする必要もあります。そんなとき、何かいい手はないでしょうか。
あとは電動バサミもいいかもね。去年は口コミで広がったのか、うちの店でも売れない日がないくらい売れたんだよ。電動だから力はまったく必要ない。直径2.5cmの枝もラクラク切れる。だいぶ小型のタイプが開発されて、女性や高齢者でもますます使いやすくなったね。

――バッテリーもずいぶん小さいですね。腰に付けても重くない。ただ、トリガーを握るだけでよく切れる刃が自動で動くから、最初はちょっとドキッとするかも……。
この機種はレバーを離すと刃がすぐに止まるから安心ではあるけど、たしかに慣れるまではドキドキするかもね。
操作が心配って人には、細い枝を切るときは手の力だけで切れて、太い枝を切ろうと持ち手に力が強くかかったときだけ、電動で動くタイプもあるよ。電動アシスト自転車の仕組みに似ているね。これなら日頃の感覚に近い感じで作業できるはず。
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ハサミもいろいろ進化している。ただ、どれも販売するときはすごく刃を研いであるから、使い始めはよく切れるんだけど、材質とか職人の腕、製造方法の違いで長切れするものとしないものに分かれるんだよね。やっぱり農家にはいい刃物を選んで使ってほしいけど、それを作れる職人が残念ながら前より減ってきているかな。それでも農家が使ってよかったーっていってくれるハサミをこれからも探していこうって思います。
*月刊『現代農業』2021年9月号(原題:老舗農具店に聞いてみた せん定バサミの選び方)より。情報は掲載時のものです。