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シニアカーでもできる シャインマスカットの短梢V字仕立て

現代農業2023年1月号の果樹コーナー「夢のような仕立て」の中から、編集部イチオシの記事を公開します。シニアカーに座りながらでも作業がしやすいよう工夫した、青森県・柳沢さんの仕立て方をご覧ください(動画あり)。

青森・柳沢慶次郎

マークは用語解説あり

筆者の柳沢さん(77歳、左)と妻の八重子。シャインマスカットを13a栽培(写真はすべて依田賢吾撮影)
筆者(77歳、左)と妻の八重子。シャインマスカットを13a栽培(写真はすべて依田賢吾撮影)

事故で野菜がつくれなくなった

 57歳で職場を退職し、中古ハウスを5棟購入して、年間を通して八戸市の市場に野菜を出荷していました。しかし、63歳のときにトラクタの事故で頸椎を損傷。術後にリハビリを重ね、杖をついて歩けるまで回復したものの、しゃがむのが難しく、野菜はつくれなくなってしまいました。

 その後しばらくしてから、仲間と行った研修先(南部町)で、はじめてシャインマスカットに出会いました。1房持ち帰り、八戸市の市場関係者と一緒に食べたところ、みな感動。さっそく出荷組合を立ち上げる運びとなりました。

仕立て次第でシャインはつくれる

 栽培するにあたり、メンバーで県内の先進農家へ視察に行きました。その仕立てを見たとき、当時、事故の後遺症で腕を高く上げられなかった私でも、「これならできる!」と直感しました。

 地上1mほどの高さで一文字に分岐させた2本の主枝から、結果枝を左右交互に斜め上方向(V字)に伸ばすという仕立てです(下図)。シャインマスカットは結果枝の本葉3〜5枚の位置に花穂がつくので、1.2mほどの高さで房管理ができる。一般的な平棚栽培では、立った状態での顔の高さほどの位置に花穂がつくことを知っていたので、またとないチャンスだと感じました(私の身長は160cmほど)。

短梢V字仕立て(イメージ図)

ハウスを正面から見た図

ハウスを正面から見た図
地上1mの高さで主枝を分岐させるこの仕立てでは、房の高さは1.2mになる。間口が3間(5.4m)の場合、通路が1.8mずつあればシニアカーの動線を確保できる

樹を横から見た図

樹を横から見た図
主枝は片側6mの長さで止めるので、3年目には骨格が完成する。その後、主枝から発生する新梢(点線)を左右交互に斜め上に伸ばし、結果枝として使う(短梢栽培なので毎年更新)

シニアカーではかどる房管理

 私も栽培を開始し、ビールケースなどをイス代わりにしつつ、定植3年目までは樹づくりに勤しみました。本格的に収穫し始める4年目には、シニアカーを導入。シニアカーは、今や私のシャインマスカット栽培の代名詞となっています。

 私の担当は枝管理、房管理、かん水で、とくに房管理ではシニアカーが重宝します。主枝を一文字に伸ばすこの仕立てでは、花穂も一直線に並びます。シニアカーは直線的な動きが得意なので、座ったまま房管理に専念できて、作業ははかどるばかり。花穂の位置も胸の高さほどなので、長時間、花穂整形摘粒をしても腕が疲れません。

 下写真は私のシャインマスカットの房です。「通常3回に分けてやる摘粒がたった1回ですむ」と評判の「これっきり摘粒」(詳しくは『ブドウ大事典』など)を取り入れ、いい房をラクにつくれるよう腕を磨いています。

花穂整形(かすいせいけい)とは?

 ブドウの花穂の形を整えて、実どまりをよくする作業。房づくりともいう。

摘粒(てきりゅう)とは?

 ブドウの房の小果粒や不良果粒を取り除き、1果房当たりの果粒数を調節すること。

収穫2週間前のシャインマスカットの房。
収穫2週間前のシャインマスカットの房。「これっきり摘粒」で1房500〜600g(35〜40粒)を目標に仕上げる
筆者のブドウつくりのバイブル。
筆者のブドウつくりのバイブル。出荷組合の仲間に負けないように、気になる技術をどんどん取り入れる

新梢管理は高枝切りバサミで

 この仕立ての課題は新梢管理です。結果枝は、斜め上に向けるので、勢いよく伸びます(栄養生長気味)。摘心しても副梢も多く発生するので、高い位置での管理作業が続きます。

 そこで重宝しているのが、高枝切りバサミです(本誌p148)。ときには小型の高所作業車なども活用して、新梢管理の負担も軽くしています。

新梢(しんしょう)とは?

 当年に発生した枝。当年枝や発育枝ともいう。

摘心(てきしん)とは?

 新梢の先端を摘むこと。

動画再生

高枝切りバサミを使った新梢管理(写真は時期外れのため作業を真似てもらった)。シニアカーに座りながらでも問題なく摘心できる
*クリックすると動画がご覧になれます
*この動画には音声がありません

 草刈り、農薬散布、袋掛け、出荷調製など、私ができない作業はすべて妻が担ってくれています。反収3t超えを目指して、これからも妻と二人三脚で頑張っていきます。

(青森県五戸町)

この記事のほか、2023年1月号では低樹高や早期多収をねらった果樹のさまざまな仕立て方の記事も掲載しています。

  • 脚立なし、5年で成園並みの収量 プルーンのジョイント栽培 高見澤良平
  • アンズのジョイント栽培で糖度もアップ 北條昭
  • 捻枝・誘引なしの摘心栽培 ナシの垣根仕立て(山梨・深澤渉さん)

ぜひ本誌でご覧ください。

ブドウの早仕立て新短梢栽培

小川孝郎 著

樹形が明解なため、高齢者や婦人が整枝・せん定の判断や作業に安心して取り組める、2年目から収穫できる。草生栽培によって土づくり、根づくりをし、大玉系の高品質果も安定多収できる栽培法を、豊富な図解で詳述。

ブドウ大事典

農文協 編

ブドウの形態・生理・機能から品種、栽培の実際、最新研究情報、トップ農家の生産事例まで

最新農業技術 果樹vol.10

ブドウ・シャインつくりこなしの新技術/休眠期施肥から生育期施肥へ
農文協 著

ブドウ・シャインつくりこなしの課題と最新技術、ロケット整枝&これっきり摘粒の農家事例、カンキツ効率的年1回施肥法など省力・低コストの新肥培管理、ナシの盛土式根圏制御栽培法、果肉障害、発芽不良対策など。