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ジャガイモ在来種――山村で守り続けるイモの話

元農研機構種苗管理センター・野口健

現代農業2023年2月号の特集「ジャガイモ&サツマイモ」の記事の中から「ローカルポテトサミット開催!」にあわせて読んでいただきたい過去の記事を期間限定で公開します。この記事は、日本各地に伝わるジャガイモの在来種について書かれたものです。長年種イモを更新せずに栽培していて、病気にはかからないのでしょうか??ぜひご覧ください。

在来ジャガイモの栽培地。奥深い山間地で、急傾斜な場所が多い
在来ジャガイモの栽培地。奥深い山間地で、急傾斜な場所が多い

自家採種でつくり継ぐジャガイモ

 ジャガイモは減収を避けるため、種イモの更新が常識となっている。ところが、種イモを自家採種してつくり継ぐ在来ジャガイモが今も各地で栽培されているという話を聞いた。当時、優良種イモの生産に関わっていた筆者にとって大変な驚きであった。

 そこで、2007年5月、全国のジャガイモ在来種の栽培地といわれている各地を巡った。現地調査したところ、一般に流通している70品種ほどのジャガイモとは異なると思われ、茎の頂部を採集し、挿し木してできた苗から詳細な調査を行なった。その結果、1都10県で28品種の在来種を確認した。

在来ジャガイモ

加工品で地域おこしにも貢献

 ジャガイモ在来種の栽培地は、奥深い山間地の急斜面を切り開いた小石交じりの畑が象徴的である。多くの栽培地で「標高が高く、やせ地で、水はけのよい砂利土の傾斜地でうまいイモができる」という話を聞いた。

 植え付け時期は3~4月で、肥料は一般栽培のジャガイモに比べて少なめの農家が多い。病害虫防除は、疫病対策に殺菌剤散布を1回行なうという農家が数軒だけあった。どの農家の畑も雑草はほとんど見られず、大切に育てている様子がうかがえる。収穫は6~7月で、後作にはソバなどが栽培される。管理はほとんどが手作業である。最近は、畑の周囲に害獣侵入防止柵の設置が不可欠で、設置には多くの労力と経費を要している。

「こんなに苦労をされて、なぜ在来ジャガイモをつくるのですか」と尋ねると「うまいから」と返ってくる。さらに「町に出ている子供が収穫を待っている」とも聞く。

 収穫したイモは、丸のまま茹でて油で炒めたり、味噌を付けたり、ゴマ和えにしたりするそうだ。長野県天龍村の「昔いも」の味噌田楽は客人などをもてなす料理だともいう。

 地域おこしにも一役買い、長野県平谷村の甘辛く炒める「ピリピリいも」など、在来種を利用した加工品が各地にある。また、徳島県三好市祖谷地域の「ごうしゅういも」は赤と白のイモをセットにして「源平いも」と名付けて関西圏に出荷している。

中津川いも
埼玉県秩父市の「中津川いも」。大きいイモは料理に使い、小さいイモは丸ごとゴマ味噌和えにするのが定番
長野県天龍村で食べられている「昔いも」の味噌田楽
長野県天龍村で食べられている「昔いも」の味噌田楽

長い時を経て各地へ広がった

 ジャガイモ在来種28品種の挿し木苗を栽培し、塊茎の皮と肉の色、花の色など形態的特性を調べたところ、六つのグループに分けられた。

 続いて、葉からDNAを抽出して品種の識別も行なった。その結果、偶然にも形態的特性でグループ分けした品種はすべてが同じ遺伝子型を示した。このことから、同じグループの品種は、異名同種品種もしくは変異品種と考えられ、もともとは同じ品種だったものが、各地に広がるうちにその地域特有の呼び名で栽培され、現在に至ったものと考えられた。

 農家に在来種の来歴を尋ねると「ずっと昔から」などの答えが返ってくる。品種ごとに言い伝えがあり、檜原村の「オイネのつる芋」は、オイネさんが神奈川県相模原市から種イモをもらったと伝えられている。また、群馬県神流町の「赤いも」は、「慶応元年(1865年)生まれの曽祖父が、明治の大火災で種イモを焼失したが、その後もう一度種イモを探し集め、今に継がれている」という。かなり具体的で江戸時代から栽培されている可能性を感じるが、江戸時代まで遡ろうとすると記録は少ない。ただ、1706年に北海道で栽培記録がある。また、救荒作物として奨励されていたことが、高野長英の「二物考」という書物などに記載されている。

ウイルスに負けない不思議な力

 東京都奥多摩町の「治助《じすけ》」の栽培農家は「今の品種は種イモを買って2、3年すると病気で縮み収量が落ちる。だが治助は縮まない」という。実際に畑も見せてもらったが、種イモを購入した「キタアカリ」は株が縮んでいた。だからこそ優良種イモの毎年更新が推奨されてきたのだが、その横で繁茂する治助の草姿には恐れ入った。

 株が縮む主な原因はアブラムシ類などによって感染するウイルス病である。現地調査では、各地ともアブラムシ類の寄生はきわめて少なかった。また、ウイルス病の病徴調査では、明瞭な病徴を示す株は少なく、軽微なモザイク症状や下葉がわずかに巻く程度であり、えそ症状は認められず、見かけはほとんどの株が健全だった。

 国内に発生記録のある12種のウイルスについて感染状況を調べた結果が次ページ表だ。未検定の「赤いも(神流町)」を除き、全品種が複数のウイルスに感染していた。

 ウイルスの系統を調べたところ、一部のウイルスは毒力の弱い系統であった。また、各品種のウイルスへの感受性は一様ではなく、試験的に無毒株にウイルスを接種すると、まったく発症しないものもあれば、激しい症状を示すものもあった。これらのことから、ジャガイモ在来種とウイルスの間に、干渉効果などのある種のバランスがあるのではないかと推察された。

立毛株の病害虫調査と保毒ウイルスの検出
立毛株の病害虫調査と保毒ウイルスの検出

継承への熱い思いも大切な力

東京都奥多摩町で栽培されている在来ジャガイモ「治助」。左下で縮れているキタアカリと違い、種イモ更新をしていないにもかかわらず、旺盛に育っている
東京都奥多摩町で栽培されている在来ジャガイモ「治助」。左下で縮れているキタアカリと違い、種イモ更新をしていないにもかかわらず、旺盛に育っている

 2016年、以前調査した栽培地を再訪したり、農家に電話で近況を聞いたりした。群馬県神流町の「赤いも」、長野県平谷村の「平谷いも」、徳島県三好市の「ごうしゅういも」などは地域ぐるみでの栽培が続いていた。また、埼玉県秩父市や静岡県浜松市にあるジャガイモ在来種を使った郷土料理店も盛況と聞いた。長野県飯田市では、「下栗二度芋」の6次産業化を成し遂げ、いもせんべいや焼酎が土産品として売れ筋だという。

 一方で、高齢で獣との闘いに疲れるなど、やむなく種イモを絶やしてしまわれたという切ない思いも聞いた。長野県飯田市の「くだりさわ」の農家は「つくっても全部イノシシに食われてしまうので、やめてしまった。本当に悲しいよ」と嘆かれた。ジャガイモをつくることを1年でも休むと、その種を失う。先祖代々継がれてきた種イモを失う切なさはいかばかりであっただろうか。

 ただ、山梨県上野原市の「ふじのねがた」の栽培農家は、本人は10年前に亡くなっていたが、生前に枕元で「このイモだけはなにがなんでも絶やすな」といって、筆者が送った調査のお礼状と調査報告書を息子に渡されたそうである。そのご子息が電話で「今もこれからもつくり続ける覚悟だ」と話してくれた。その話を聞き、ジャガイモ在来種の存続の謎は、品種やウイルスとの関連もさることながら、大切なものを親が子に伝えていく伝統、人の熱い思いも大きな要因の一つだと確信した。

*月刊『現代農業』2022年1月号(原題:ジャガイモ在来種――山村で守り続けるイモの話)より。情報は掲載時のものです。

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