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研究・くん炭覆土 効果のヒミツは地温ではなさそうだ…

現代農業2022年12月号の特集「モミガラくん炭&竹炭」とあわせて読みたい過去の記事を期間限定で公開します。こちらは2011年3月号の記事。くん炭を覆土すると苗の生育がぐっとよくなる、そのメカニズムについてです。

野菜茶業研究所・佐藤文生

モミガラくん炭 モミガラを炭にやいたもの(編集部撮影)

有機肥料でのセル育苗は生育遅延が課題

 培地資材の節減や作業の省力化といった観点から、有機栽培でも育苗にセル育苗を取り入れる生産者が増えています。セル育苗はポット育苗などに比べて根域容量が極端に小さいため、育苗中に肥切れしないように追肥をする必要があります。

 コーンスターチを製造する過程で生産されるコーンスティープリカー(Corn steep liquor)は、アミノ酸やペプチドといった易分解性の有機物をおもなチッソ成分として含むことから、セル育苗の追肥用有機液肥として利用されています。しかし肥効がすぐに現れる化学肥料の液肥に比べると苗の生育は遅く、とくに有機物の分解が遅くなる低温期には苗の生育遅延が顕著に現れてしまいます。私どもは、この苗の生育遅延を改善することを目的に研究に取り組んでいます。本稿では、レタスの育苗における有機肥料での生育遅延の改善策として、くん炭覆土が有効であることを紹介します。

くん炭覆土で明らかに生育が促進

 まずはじめに考えたのは、培地を温めてやれば有機物の分解が早まり、苗の生育もよくなるのではないかということでした。そこで着目したのがくん炭です。くん炭は、全体が熱を吸収しやすい黒色をしています。温度の確保に効果があるとされ、古くは水稲の保温折衷苗代の培地資材として利用されています。これを播種時に覆土して培地面全体を黒くすれば、培地温度が高まるのではないかと期待しました。

 試験方法として、播種時にくん炭を覆土した「覆土区」と、近隣地域(茨城県県西地区)の慣行法で、覆土せずに播種後のかん水でタネに培地をなじませた「慣行区」を設け、十二~二月の寒い時期に育苗し、苗の生育を比較しました。二〇〇穴のセルトレイに、ピートモス主体のセル育苗培養土を用い、播種後二週間目から六日おきにコーンスティープリカーの三〇〇倍希釈液を施用しました。

 その結果、覆土区の苗は、発芽後しばらくは胚軸が長くやや頼りない姿でしたが、日が経つにつれて生育が旺盛になり、定植時には慣行区の苗より大きく、葉色も濃くなりました(上写真)。また覆土区の苗は、移植後の初期生育も速く、最終的な結球重も二割程度大きいことが確認されました(上表)。

培地温の上昇が要因じゃなかった!?

 このように、くん炭覆土は苗の生育促進に高い効果がありましたが、ではいったいなぜなのでしょうか。

 最初に期待していた培地温の上昇ですが、その期待は裏切られ、一日を通じて覆土区と慣行区で培地温(深さ一~二cm)に差はほとんどありませんでした(図1)。

くん炭を覆土しても培地中の温度はほとんど 変わらない

 ただし光が当たっている培地の表面温度に差が出ている可能性があります。また覆土区では、くん炭を覆土している分だけ培地の量が慣行区より増えています。その上くん炭は培養土の物理性をよくするので、追肥しても流亡せずに培地に蓄えられる肥料分が、慣行区より覆土区で多くなったということも考えられます。

 そこでこれらのことを確かめるために、前述の覆土区と慣行区に加え、くん炭を培養土に混ぜた「混和区」を設け、さらにそれらの培地面を遮光資材で覆って培地に光が当たらない条件と、通常の光が当たる条件で苗の生育を比較してみました。

 覆土区と混和区はセルに詰まっている培養土とくん炭の量が同じです。もし、苗の生育促進が培地の増量によるものならば、混和区の苗も覆土区と同じように生育が促進するはずです。また培地表面の温度上昇によるものならば、培地表面に光が当たらなくなると生育促進効果は失われるはずです。

 図2に苗の生育量を示しました。培地に光が当たる条件では、混和区の苗は慣行区より生育が速くなったものの、覆土区と比べると遅いことが認められました。また培地面に光が当たらない条件では、苗の生育に差がありませんでした。

 このことから、くん炭覆土による苗の生育促進効果は培地量の増加によるものではなく、くん炭が培地表面に露出していることが重要なポイントになるようです。

くん炭覆土下では有機物の分解が早い!?

 ではやはり、培地表面の温度上昇によって苗の生育が促進したということでしょうか。そこで培地表面の温度がどの程度上昇したのかを確かめるために、光が当たっている培地表面をサーモグラフィーで見てみました。その結果、図3に示すように培地の部分の温度は差がほとんどありませんでした。むしろくん炭よりセルトレイの樹脂のほうが高温になりやすく、セルトレイ全体でみると、覆土区より樹脂の露出が多い慣行区で表面温度が高い傾向にありました。

日が当たっていてもくん炭の表面温度(左)はくん炭を覆土していない培地面の温度(右)とほ とんど変わらない。セルトレイの樹脂のほうが高温になりやすく、セルトレイ全体の表面温度は 樹脂の露出が多い分だけ覆土区より慣行区で高い

ここで誤解がないように述べておきますが、くん炭は光に当たっても温かくならないということではありません。乾いた状態のくん炭は光に当たると温かくなりますが、水分を含んだくん炭は光が当たっても気化熱により培養土と温度が変わらなくなります。試験では、かん水でくん炭は乾くことなく常に湿っていましたので、培地表面の温度上昇により苗の生育が促進したという可能性は低いと考えています。

 ではなぜくん炭の覆土で、苗の生育が促進したのでしょうか。その答えはまだ得られていませんが、その後の研究の中でいろいろと明らかになってきました。

 一つは、化学肥料の液肥を追肥した育苗では、くん炭を覆土しても苗の生育促進効果は認められないこと、もう一つは、有機液肥を追肥した育苗では、くん炭覆土により培地の無機態チッソの量が増えることです。

 これらのことから、培地表面のくん炭に光が当たると微生物による有機液肥の分解活性が活発化して、植物に吸収されやすい無機態チッソ(硝酸態チッソ)がたくさん生成されるのではないかという推論が成り立ちます。

 しかしこの点については、前段で温度との関連は考えにくいことを述べました(培地温上昇はまだ完全に否定されたわけではありませんが)。また光自体の影響を温度の影響と切り離して探ってみる必要もあります。温度・光・培地中の微生物、この三つの関わり合いがくん炭覆土の効果のメカニズムを解明していくうえで重要なカギになると考えています。

くん炭覆土を試される方へ

 この記事を読まれて、くん炭覆土を実際に試してみようとされる方もおられるかと思いますが、試すにあたって留意して頂きたい点があります。

 まずくん炭覆土の効果のメカニズムが明らかにされてない現時点では、育苗に使う資材やその用法が私どもの場合と異なると、効果が現れなくなる可能性があります。

 くん炭の覆土効果は、レタスの他、トマトやコマツナなどでも確認していますが、コーンスティープリカー(サカタのタネの「ネイチャーエイド」)以外の有機液肥で追肥した場合の効果は不明です。培養土も複数のピートモス主体の低チッソタイプ培養土で効果を確認していますが、肥料成分の高いものや粒状培土などでは効果がない可能性があります。

 また、効果に微生物の関与が示唆されていますので、殺菌剤や塩素を含む水道水の利用は避けてください。さらにくん炭は乾くと温度が高くなります。高温期は苗に高温障害をもたらす危険性がありますので、気温の低い時期に行なってください。

 最後に、自家生産されることが多いくん炭ですが、生やけややき過ぎのくん炭は発芽障害の原因となります。あらかじめタネが正常に発芽することを確認したうえで試してください。

*月刊『現代農業』2011年3月号(原題: 研究・くん炭覆土 効果のヒミツは地温ではなさそうだ…)より。情報は掲載時のものです。

この記事が掲載された現代農業2011年3月号「すごいぞ!モミガラくん炭覆土」には、他にもこんな記事が載っています。

  • くん炭覆土でホントに差が出た
  • 炭に光が当たると微生物が殖える

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