あいかわらず肥料・資材の値上げが止まりません。農文協から、作物の生育促進と食味向上、さらには地力アップに期待できるという「鉄」活用について、「農家が教える 鉄 とことん活用読本」という本が発行されました。この連載では、本書の読みどころをご紹介します。
タンニン鉄とは…?
鉄は生きものにとって最重要なミネラルの一つだが、自然界ではすぐに酸化して、水に溶けずに沈殿するので、循環しにくい。しかし、アミノ酸や有機酸が鉄を包み込んで錯体化(キレート化)すると、水とともに循環し、植物の根から吸収されやすくなる。従来、自然界での主要なキレート剤は、森の腐葉土に含まれるフルボ酸と考えられてきたが、より人間生活に身近なタンニンも鉄のキレート剤であり、鉄分循環のカギを握る物質として注目されだした。
農文協編 『今さら聞けない 農業・農村用語事典』 p88 「タンニン鉄」より
新谷太一さん(農家)・野中鉄也さん(京都大学)
野菜の味が劇的に変わる
なんと、お茶に鉄を入れると、タンニン鉄を含んだ黒い液体ができ、それを畑の土にかけるだけで野菜の味が劇的に変わるのだとか。今、京都で話題の「鉄ミネラル野菜」って?
三千院で有名な京都市・大原のウエンダ(上田)と呼ばれる土地に、新谷さんの有機無農薬畑がある。茶葉と鉄、水を入れた容器を各畑の隅に設置し、いつでもタンニン鉄を散布できるようにしている。
鉄の供給源は使い古しのロータリ爪。500lタンクに10~15本入れている。
京都府内の産地からもらった廃棄茶葉(製茶機に詰まった粉状のもの)。5kg分ほどを洗濯ネットなどに入れて容器内の水に浸す。
土にかけるだけで、エグ味が消えてフルーティーに
キュウリ定植前の畑。「これからタンニン鉄を全面散布します~」と新谷さん。といっても、ハス口をとったジョウロをふりふりしながら畑を往復するだけ。「簡単ですよー」。
作物の定植時と収穫1週間ほど前に株元にかん注(収穫期の長い果菜類はピークを過ぎた頃にもう1回かける)
10日前にかん注したツルムラサキは、みずみずしくフルーティな甘味があった。かん注しなかった株と食べ比べたが、エグ味が消えて味がまったく違っていた
「ろくなもんがとれん畑」でも、濃厚な味のキュウリ
3年前に借りた畑。地元の人曰く「この畑は何をつくっても、ろくなもん(おいしい野菜)がとれん」。山側が全面コンクリート張りで、用水も手前を流れて畑に入らない。山のミネラルを含んだ沢水から分断された土地だ。「鉄ミネラル野菜の視点で見ると納得できる」と野中先生。
タンニン鉄を補給して栽培。6月15日にタネ播きしたキュウリがとても素直な生育をしていた(7月31日撮影)。元肥は鶏糞のみ(3aで50kg)。タンニン鉄をまくと雑草の生育も旺盛となる。
3段目の収穫が始まったキュウリ。品種はときわかぜみどり(右)と四葉。食べると、実の先端から付け根まで甘くて濃厚。新谷さんの奥さんも含め、配達で野菜を届けるお客さんの中には「鉄ミネラル野菜を食べて貧血が治った」という人もいる・・・
*月刊『現代農業』2019年10月号(原題:お茶と鉄で野菜の味が劇的にうまくなる)より。情報は掲載時のものです。
【鉄のミネラル力】公開予定
農家が教える 鉄 とことん活用読本
農文協 編
1,760円 (税込) B5 148ページ
「森は海の恋人」運動でも注目されるミネラル分としての鉄。野菜を大きく育て、美味しくするタンニン鉄、イネの根腐れ対策や環境の浄化に活躍する純鉄粉など、驚きの鉄の効果、鉄資材の作り方使い方を大公開。