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【農家が教える 鉄のミネラル力】第2回 かんたん液肥でつくる鉄ミネラル野菜

あいかわらず肥料・資材の値上げが止まりません。農文協から、作物の生育促進と食味向上、さらには地力アップに期待できるという「鉄」活用について、「農家が教える 鉄 とことん活用読本」という本が発行されました。この連載では、本書の読みどころをご紹介します。

タンニン鉄とは…?

鉄は生きものにとって最重要なミネラルの一つだが、自然界ではすぐに酸化して、水に溶けずに沈殿するので、循環しにくい。しかし、アミノ酸や有機酸が鉄を包み込んで錯体化(キレート化)すると、水とともに循環し、植物の根から吸収されやすくなる。従来、自然界での主要なキレート剤は、森の腐葉土に含まれるフルボ酸と考えられてきたが、より人間生活に身近なタンニンも鉄のキレート剤であり、鉄分循環のカギを握る物質として注目されだした。

農文協編 『今さら聞けない 農業・農村用語事典』 p88 「タンニン鉄」より

京都・新谷太一

野菜の味が劇的に変わる

筆者(45歳)。タンニン鉄を投入している田んぼの前で。鉄の供給源は使い古しのロータリ爪

 私は8年前から京都市左京区大原で田んぼを借りて、タンニン鉄を利用した農法を実践しています。3年前に新規就農し、現在は田んぼ2反と畑3反を耕しています。

 鉄には、就農以前から関心がありました。前職で日本酒やワインの仕入れの仕事をしていたことと、白ワイン好きが高じて、それに相性のよいカキの産地巡りを始めました。知識を深めたいと出会った本が、「森は海の恋人」運動で有名な畠山重篤さんの『牡蠣礼讃』(文藝春秋)。森(広葉樹林)の水が運ぶミネラル分が海中のプランクトンを育成しカキをおいしく育てる。なかでも重要なミネラルが、腐葉土に含まれるフルボ酸と反応した鉄分であると述べられています。

 そして2011年に京都市内で開かれたある講演会で、偶然隣の席に座った京都大学の野中鉄也氏(104ページ)との雑談のなかから、タンニン鉄もまた同じ仕組みで発生することを教わりました。お茶に浸かった鉄釘は、数分もあれば溶け出します。最初、黒いモヤモヤしたものが現われて、やがてお茶が真っ黒になります。この真っ黒の正体がタンニン鉄、つまり、森(広葉樹林)の力そのものです。

 広葉樹の腐葉土に含まれるタンニン(ポリフェノール)が地中の鉄分と反応し、動植物に吸収されやすい形(タンニン鉄)となって沢に流れ込み、すべての生物の活力となるというのが野中氏の考察です。私はフルボ酸鉄によるミネラル循環を肯定していますが、それにも増して野中氏のタンニン鉄説に魅力を感じました。

少量の茶葉と鉄があればOK

 理由の一つは、再生(作り方)が簡単だから。水出しのお茶に鉄を入れるだけで、森の力を再生できる点です。

 お茶の葉は、京都府内の製茶工場から出るクズ茶を使っています。鉄は、鋳物があれば最良ですが、ない場合はすり減ったロータリ爪を使います。私の場合、500lタンクに茶葉5kg、ロータリ爪は10~15本投入しています。

 数日でタンク内の溶液が漆黒に変化します。それを、畑全体に散布して耕耘し、定植後にも株元に直接注ぎ込みます。さらに収穫の1週間ほど前にも株元に注ぎます(収穫期間の長い果菜類は、ピークを過ぎた頃にもかける)。

 森の力を再生するために大量の落ち葉・腐葉土を用意しなくても、タンニンの抽出目的で比較的少量の乾燥茶葉を使うのみです。私のように新規就農で労働力が一人であっても、無理なく取り入れられます。

ミネラル循環の一端を担う

 二つ目の理由は、タンニン鉄が人間の生活文化に溶け込んでいたことです。

 興味深い事例を挙げると、温暖で腐葉土が形成されにくい亜熱帯の沖縄では、昔、タンニンを多く含むマングローブの樹皮から煮汁をとり、漁網を浸け込んでその耐久性を上げていたそうです。これは、鉄ミネラルを使う私からすれば、こう解釈できます。

 日々の生活のなかで知らず知らずのうちにタンニンを抽出し、漁をしながら川や海に拡散させる。そこに自然界の鉄分が反応して、生物に吸収されやすい形状のタンニン鉄へと変容させていた――。

 つまり、ミネラル循環の一端を人間が担っていたのです。同様にタンニン豊富な柿渋もさまざまな生活場面で使われていました。泥染め、なめし、お歯黒、黒インクなどはタンニンと鉄の反応そのものです。

 おそらく日本人に鉄分不足が多いのも、戦後に生活スタイルが大きく変化し、タンニン鉄との関係が薄れたことに原因があるのではないでしょうか? その最たるものが、鉄分を循環させる動力源であった広葉樹林が針葉樹の植林事業によって激減したことだと思います。

 ミネラル循環の崩壊が、人の鉄分不足や沿岸漁業の漁獲減少の一因ではないか。そう考えると、農業で鉄ミネラルを使うことは、品質の高い作物をつくる目的の他に、人間の生活とミネラル循環との良好な関係を再生させる一つのアプローチにもなると思うのです。

野菜本来の甘み、旨みが出る

 さて、これまで試行錯誤しながら、お茶のタンニンと鉄を反応させた鉄ミネラルを、自分の農業に活用してきました。もっとも大きな効果は、食味の変化、あるいは葉や果実のハリ・ツヤといった質感の違いです。

 とくに食味に関して私の野菜では、渋み、エグミのない透明感のある後味と野菜本来のもつ甘みや旨みが素直に感じられます。おそらく、植物に吸収された鉄分が、渋み、エグミの元であるタンニンと反応することで、野菜の味を変化させていると考えられます。鉄分が野菜の中の酵素を活性化させて細胞壁を強くする効果もあり、シャキシャキ感が増すとともに、野菜の日持ちもよくなります。

 実際にウネごとにタンニン鉄をまいた野菜、そうでない野菜をつくり、そのことを伏せたまま第三者に味見してもらうと、みなさん味に大きな違いがあるのに驚かれます。

田んぼではラン藻・浮き草が元気に

 水稲に活用する場合は、洗濯ネットに10a当たり20kg程度の茶葉と鉄(ロータリ爪5~10本)を入れ、代かき時に水口に置いておきます。2週間もすれば、ラン藻や浮き草が旺盛に発生します。

 これらを利用した抑草法を実験中ですが、水稲の生育初期段階で遮光され水温が上がらないリスクもあります。したがって私の場合、抑草効果よりはラン藻による酸素供給とチッソ固定を期待し、施肥を少量に抑えながら根を張らせる効果に重点をおいて使用しています。

田んぼの水口にも、茶葉と鉄

大きな洗濯袋に茶葉とロータリ爪を入れて、水口に設置。時期になると水口にホウネンエビやカブトエビが大発生する
落水後なのでわかりにくいが、浮き草やラン藻が旺盛に繁殖する。ラン藻による酸素供給、チッソ固定を期待。無肥料で反当300kgほどの収量。今年は鶏糞もまいた

摂取するものから、巡るものへ

株元に鉄ミネラル液を注ぐ 「森の沢水をイメージしながら注ぐ!」

 収穫した野菜や米は、おもに個人宅配中心で販売しています。現在の配達先は40軒ほどあり、毎週、おまかせ&定額で6~7種類の野菜を届けています。宣伝は一切していませんが、口コミで鉄ミネラル野菜は広がっています。

 実際、購入のきっかけは「鉄分不足による体調管理が必要だから」という方が多く、ほとんどのみなさんがその後も継続的に購入を続けています。

 ちなみに私の家内も、もともと日常生活に支障が出るほど貧血がひどくて鉄剤を服用していましたが、なかなか改善されませんでした。鉄剤から鉄ミネラル野菜の摂取に切り替えて、半年ほどで貧血による諸症状が緩和してきました。こうした事例を目の当たりにすると、鉄は錠剤として摂取するものではなく、森から畑、野菜、人間へと巡るものだと実感します。

鉄ミネラル技術の本質とは?

 ここまで、タンニン鉄の扱い方や鉄ミネラル野菜の性質について書いてきましたが、この農法は野菜本来の味を超えて極端に食味を向上させたり、姿形をとびきり大きくさせたりする技術とは、また違うところに位置する農法だと思います。

 鉄ミネラル技術の本質は、循環の経過で生物本来の活性を取り戻すところにあります。土にまけば、鉄ミネラルをエサに微生物が活性化する。その微生物がつくり上げた健全な土に根を広げた植物もまた鉄を吸収して育ち、それを食べる動物が生命の糧にする。

 この農法は、滞ったミネラル循環の流れを、野菜やイネの力を借りて潤滑に巡らせる作業だといえるかもしれません。

*月刊『現代農業』2019年10月号(原題:かんたん液肥でつくる鉄ミネラル野菜)より。情報は掲載時のものです。

鉄の効用やタンニン鉄の作り方、使い方がよく分かる新刊が出ました。

農家が教える 鉄 とことん活用読本

農文協 編

1,760円 (税込) B5 148ページ

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