ジャガイモの植え付けといえば、「種イモを半分に切ってその切り口を上にして……」というイメージですが、今回ご紹介する方法は、「ジャガ芽だけ植え」。手間もかからず、コストも抑えられ、密植が可能なので従来の方法よりも多くのジャガイモを収穫できるとのこと。この方法ならば、家庭菜園やプランターなどでも取り組めそうですね!
福島・今野秀幸

目からウロコのジャガイモ栽培
私は福島県南相馬市で水稲20haと畑50aで野菜を年間20品目作付ける複合経営農家です。今年で就農10年目になります。就農5年目のとき、『現代農業』で埼玉県熊谷市の岡部富雄さんの「ジャガ芽だけ植え」(2020年4月号p44)の記事に出会い、ふつうの栽培しか知らなかった私にとっては、目からウロコの内容にとても感動し、ワクワクしながら読みました。
そこで、この手法で今までの栽培方法よりもお金や手間をかけずに、しかも密植することで、小さい畑でも通常の栽培以上にジャガイモを増収できないか実践してみたくなりました。

低コスト・省力でつくりたい!
植え付け時期の4月は、水稲の春作業やほかの夏秋野菜の作付けも重なり多忙な時期です。正直ジャガイモ栽培は可能な限り省力化したいしコストも削減したい。そんな私にとって、この「ジャガ芽だけ植え」はまさにうってつけの手法でした。
記事を読み、さっそくその年から2a全面積でジャガ芽だけ植えに変更。夏にイモを掘り上げると期待通りの結果で、収量・収入も安定しました。以降、毎年さまざまな品種を試しながらジャガ芽だけ植えで栽培しています。この手法を考案した岡部さんには本当に感謝しています。
種イモの芽はすべて使う
土づくりは、通常の栽培と同様です。私の場合は、前年のうちにモミガラを地表に薄くまいておき、2月に苦土石灰とJAの「馬鈴薯一発肥料」を10a当たり60kgずつまいて耕耘。通路幅70cmで幅90cmの黒マルチを張ります。
次にジャガ芽の準備です。Lサイズ以上の大きい種イモを用意し、芽の周囲1~2cmを残して、カッターナイフで切り取ります。大きな芽や小さな芽も関係なくほぼすべてジャガ芽として使います。切り口を保護するために全体に草木灰をコーティング。草木灰は殺菌効果やリンとカリウムの肥効もあり一石二鳥です。
立ったまま植え付け完了
ジャガ芽の準備ができたら、株間25cm、条間40cmの千鳥で植え付けます。芽だけ植えは1株の芽数が少ないので密植で栽培しています。植え付け個数は多くなりますが、「ハンドプランターなかよしくん(みのる産業)」で立ったままラクに植え付けます。
マルチに移植器の先端をプスッと刺し、上からジャガ芽をポイッと投入。ハンドルを握ると先端がパカッと開いて深さ10cm程度の位置にジャガ芽が入る仕組みです。芽の向きはとくに気にしません。切り取った芽が小さくて心配なときは、ジャガ芽を2片入れます。移植器を引き抜けば、軽く土がかかるので植え付け完了。あとはテンポよくひたすら植え付けるだけです。
ここがすごいぞジャガ芽だけ植え
①種イモ代が5分の1以下
ジャガ芽だけ植えのメリットはさまざまあります。まず、種イモ代が通常栽培の5~10分の1になりました。種イモの数が少なくてとても経済的です。私が初めてジャガ芽だけ植えに取り組んだ年は、たまたま北海道が豪雨災害で種イモが不作で、種苗店でも在庫切れが多く、種イモの数を確保するのが困難でした。しかしこの栽培法ならば、種イモの大きさにもよりますが、一つから芽が5~10片確保でき、この数だけ種イモ代が削減できます。
これまでの栽培経験で、Mサイズ以下の小さい種イモは芽の勢いが弱いため、私はできるだけ大きいLサイズ以上のイモを使うようにしています。大きい種イモの芽のほうが生命力があり植え付け後の育ちも明らかに違いますし、大きなジャガイモをつける傾向にあるようです。
②芽かき、土寄せ、追肥いらず
植え付けから1カ月くらいで地上に芽が出ます。もともと1~2芽だけで植えているので、芽かきの必要はありません。一発肥料を使い、黒マルチを張っているので土寄せや追肥も基本的には必要なし。植え付けたら収穫まで待つだけです。
③肌が綺麗で揃った大きいイモになる
ジャガ芽がちょっと隠れるくらいの浅植えなので、収穫はマルチを破ってイモを拾うだけ。かなりラクです。マルチ栽培なので青イモも少ない。しかも土の中深くもぐっていないイモは肌も綺麗です。形の揃いもよく、肌の綺麗なジャガイモは見た目もよいので直売所でも真っ先に売れます。
④小面積で多収できる
24年はLサイズ以上の種イモからとったジャガ芽一つから約800g、種イモ1個からジャガ芽を10個とったので合計8kg以上収穫できました。密植なので1株当たりのイモ数は少ないですが、大きなイモがよく揃い、結果的に多収できました。初めて取り組んだとき、小イモの少なさにも驚きましたが、それもこの栽培方法の特徴といえます。おそらく、もともとの芽数が少ないので地中の栄養を独占できて、株張りがよくなり、一つ一つのジャガイモにも養分が充分行き渡るからだと思います。
⑤あらゆる品種で実践可能
私はこれまで、人気品種の「男爵」「キタアカリ」「メークイン」ばかりでなく、「とうや」「シンシア」「ホッカイコガネ」「インカのひとみ」などにもジャガ芽だけ植えでチャレンジし、いずれも成功しています。品種によって収穫適期が違うので、植え付け日は同じでも収穫日は試し掘りをしながら変えたほうがいいです。また、秋作にも挑戦しましたが、岡部さんの記事の通り、夏はさすがに暑さで種イモが腐ってしまうので、ジャガ芽だけ植えは向かないことを確認しました。
ジャガ芽だけ植えの手順




ウネ間に防草シートで省力化
やはり野菜栽培の極意は「ウネ間管理にあり」です。防草シートを活用すれば、雑草に潜む病害虫も阻止。雑草に邪魔されずジャガイモがスクスク育ちます。
私が使用するのは、70cm幅の水田用のアゼシート。しかし最近は物価高で資材が高いので、他の作物で使用したマルチの再利用でも充分効果がありました。ウネ間の雑草は作物にとって百害あって一利なしです。春は忙しいので草が繁茂する梅雨までに防草シートを敷いておけば、収穫まで除草いらず。害虫も減るので減農薬や無農薬でも栽培可能です。


地上部が7~8割枯れてから収穫
通常栽培にも共通しますが、とくにジャガ芽だけ植えはもともと芽数が少なく茎葉数が少ないため、まだ茎葉が青々としているときはイモが小さいことが多いです。地上部が枯れあがるくらい充分に養分転流をさせてから収穫するのが、収量増をねらうには重要です。ただし、近年は日差しが強く地上部が完全に枯れるとマルチ下のイモにも日が当たり青イモになってしまいます。7~8割が枯れたタイミングがちょうどいいと思います。

以上、ジャガ芽だけ植えは、低コストで高収益の栽培技術として現代の物価高騰・労働力不足にも対応できる優れた栽培方法であると思います。プランターやちょっとした空き地でも実践できます。みなさんもぜひ、取り組んでみてください。
(福島県南相馬市)
『現代農業』2025年4月号の「野菜・花」コーナーには、以下も記事も掲載されています。
- フルボ酸+キトサンで元肥半減、軟腐病に負けない 超多収 お化けジャガイモ 森田彰
- 体がラク トウモロコシのチェーンポット定植 川上和浩
- 【ネギ】有機ベースでチッソ量を半減 佐藤晴樹
- 【イチゴ】新葉を見て冬でも草丈25cmを維持(佐賀・伊東鎮範さん、吉村晃太朗さん)
- 【草花】チョウジソウ 菅家博昭
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農家が教える 野菜づくりのコツと裏ワザ
農文協 著
農家が思いついた野菜づくりの裏ワザ大集合。土寄せなしで白ネギがとれる「穴底植え」、種イモ不要の「ジャガ芽挿し」など、常識破りのやり方で野菜づくりがもっと楽しくなる。すべての記事に共通項目として「発想の着眼点」「作物の特性」「栽培カレンダーと品種」「栽培の実際」「病害虫対策」「収穫と利用の工夫」などを載せているからわかりやすい。