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新芽、未熟果、葉っぱ、枝……スギ林から売れるものたくさん見つけた

福島県の水野さんは、家族と共にスギ人工林で木材生産を行なう一方、林内で採れる草木をインスタグラムで紹介し、飲食店などに販売しています。販売する草木は、娘さんとの散歩代わりに山へ行って採ってきます。月に3~5万円のちょうどいいお小遣いにもなっています。

福島・水野奈緒

娘と一緒にスギの新芽をもぐ筆者。ハサミと袋さえあれば、いつでもピクニック気分で草木が採集できる

スギ人工林で草木を採集

 こんにちは。福島県南部に位置する古殿町で農林業を営んでいる大原林業の水野奈緒と申します。家業の農林業を継いで7年目の夫と、集落のおじさんたち3人と共に、現在は150haの山林を管理しています。

 経営の中心はスギ人工林の間伐による木材生産ですが、そのかたわらで山林に自生する草木を採集し、SNSを利用して販売を行なっています。

 人工林と聞くと、薄暗くて他の草木が少ないイメージがあるかもしれませんが、しっかり管理されている人工林内には、さまざまな種類が自生しています。山で採れるものといえば、キノコや山菜?と思われるかもしれませんが、私たちは四季折々のいろんな草木を一年中採っています。

未知の香りや味が眠っていた

 きっかけは、夫が趣味で記録していた、所有する山林に自生する植物のリスト。気づいたのは、山には木材や山菜として利用されるもの以外にも、さまざまな種類の草木が眠っていて、そのほとんどが無名で、あまり販売されていないということでした。香り、味、どれもこんなに魅力的なのにもったいない! 使ってくれる人に届けられないかと考えるようになりました。

 そこで、私は夫の調べた植物リストを片手に、変わった植物をレシピに取り入れているお菓子屋さんなど、興味がありそうな方々をSNSで探して「こんな草木があるのですが使ってもらえませんか?」と声をかけることから始めました。そうして最初に取り引きが始まったのが、草木を使ったサイダーなど、日本の里山に自生する植物の商品化を手がける「日本草木研究所」でした。依頼されるものは、ハーブソルトの材料にするためのスギの新芽やアブラチャンの花、蒸留してジンに香りをつけるためのカヤの葉などで、まさに私たちのイメージしていた、森の草木の魅力を十分に活かしてくれるところでした。

レストランに人気の季節の草木の詰め合わせセット(写真は秋の草木)

ハサミ1本持って出かける

 収穫は、朝の家事が一通り終わった時間。近所を散歩する代わりに、娘を背負って山へ行って採ってきます。木を切るのと違って葉や実を採るだけなので、チェンソーも重機も必要ありません。ハサミと収穫袋をポケットに入れて出かけます。林道を車で走りながらドライブスルー方式で収穫もできるので、とてもお手軽。夫にもお使い感覚でお願いして、林業の休憩時間や仕事終わりに採ってきてもらいます。

 夫がふだんあまり行かない山を訪れる時には、そこに自生する植物をメモしてリスト化するようにお願いしています。また、林道沿いは車で通りながら、何が生えてるか頭に入れておきます。そうやって、周囲の山では現在までに樹木だけでも154種を確認しています。

月3万~5万円のお小遣いに

 販売は、主にSNS(インスタグラム)を利用しています。まずは、スマートフォンで撮影した旬の草木の写真を投稿します。説明文には、植物図鑑のようにただ見分け方などを載せるのではなく、味や香りなどの特徴を中心に伝えるようにして、飲食店で使うイメージを持ってもらえるような投稿を心がけています。その投稿を見た方から連絡が入ったら、値段を伝え、何g欲しいかなどのやり取りをして注文を受けます。

 採集は注文を受けたあとに行なうので、保存の必要も採り過ぎのロスもありません。クロネコヤマトの冷蔵便で請求書と一緒に発送し、料金を振り込んでいただく形式です。花や葉は傷みやすいので、100均で買えるエチレン吸収袋に入れて保存・発送しています。実などは潰れないようにプラスチックのパックに入れて発送します。

 価格は、世に出回っているものはネット検索して相場を調べて決めます。ほかで販売されていないものは、収穫にかかる時間から時給1000円以上になるように計算して決めています。だいたい毎月3万〜5万円の売り上げがあり、ちょうどいいお小遣いになっています。「今日はこれだけ売り上げがあったから」と、ついいつもよりおいしいものを買ってしまいます(笑)。

近隣の飲食店もおすすめ

 2024年の秋は、キンモクセイの花、ガマズミ、ヤマボウシの実、キハダの実などの問い合わせがレストランからありました。ご自身の所に生えてる方々、狙いめですよ! 最近は、ご当地サイダーとして森や畑の草木を使っている飲料メーカーや飲食店が各県に結構あります。近隣のお店に、ご自身の山に生えている草木リストを持っていったら、使ってくれるかもしれません。生ものなので、近くの飲食店だと、よりよい状態で届けることができると思います。

季節ごとの主な植物
季節ごとの主な植物(詳しくは本誌をご覧ください)

森が宝の山に見えてくる

 この事業を始めてから、レストランやバーの方が私達の山に訪れてくれるようになりました。「この草木、使えますよ」と教えてもらえるのもありがたいですし、「フレッシュでおもしろい草木を送ってくれてありがとう」などと生の声をいただけることに喜びを感じます。私たち自身も、森を見る目が変わり、すごく価値のある宝の山に見えるようになりました。山に入るのが楽しくてしかたないです。

 これらの草木は、農地や山林がしっかり管理されてきたからこそ、採集できるものも多くあります。田んぼのアゼ草刈りをしっかりしているからノビルやヤブカンゾウが採れますし、人工林を適切に間伐しているからこそ、林内に陽が適度に入ってサンショウやアブラチャンがたくさん採れます。

 直接消費者と関わる機会の少ない林業ですが、こういった事業も取り入れることで新しい人とのかかわりが生まれ、やりがいや自信にもつながるのではないかと感じています。なんといっても、栽培の手間がなく、家族みんなでピクニック気分で仕事ができることがなによりの楽しさです。みなさんもぜひ、山でお小遣い稼ぎしましょう!

筆者と夫の研介。150haの山林での木材生産が主業

(福島県古殿町)

この記事の詳細は現代農業』2025年1月号をご覧ください

現代農業』2025年1月号「山・特産」コーナーには、以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。

  • 家のまわりから 売れる枝物たくさん見つけた(群馬・五十里とみえさん)

  • 【日本ミツバチ質問箱7】冬越しの巣箱は何段がいい? 立石靖司

試し読み

①
つるちゃん的植物ホルモン劇場 株式会社「植物」で働く愉快な面々
④
スギ林から売れるものたくさん見つけた
②
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⑤
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③
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