2024 年秋、世間では米不足が騒がれ、米価はここ20 年で最高となりました。高米価は大変喜ばしいですが、次の秋に大きく値崩れするのではないかなど不安もあります。また、高温・大雨・干ばつも引き続き問題になっています。激動の時代、今後どうするのかを農家に聞いてみました。
新潟・横田秀夫さん

コシヒカリが倒れまくった
ゴザでも敷いたかのように、青稲が根元から倒れた田んぼを、何枚見たことか。里から山まで、倒れていない田んぼを見つけるほうが難しいほど。2024年の秋は、コシヒカリが倒れまくっていた。
23年は、高温・干ばつで著しく等級を落とした新潟県産米だったが、24年は夏の夜温が低く品質は良好との報道で期待が膨らんだ。しかしイネ刈りを進めると収量が思ったほど伸びない。クズ米ばかり出る。とくにコシヒカリは倒伏が多く、イネ刈りが遅れ始め、そこに9月19日、100mmを超える豪雨が県内産地を襲った。
長い間新潟県は、遅い穂肥はお米の食味を悪くするという理由で追肥に慎重だった。ところが近年の等級低下を受け、指導機関が積極追肥を推奨。24年は前年の減収分を取り戻そうと、農家の間にも追肥ムードが強くなった。そこに農協の仮渡金が大幅に上がるとの憶測も広がり、穂肥を振る手にやや力が入ったのかもしれない。
しかし話を聞くと、穂肥を振れなかった田んぼも多かったようだ。草丈が伸び、色も落ちず、穂肥を打たなかったのに、最後はびったんこ。こればかりは天候のせいと思うしかない。ただ前年の大干ばつで、眠っていた地力チッソが放出された可能性はあり、「いつも通り」が仇になったことも考えられる。


例年通り収穫できた横田さん
そんな悶々とした年でも、倒すことなく例年通り収穫した人を見つけた。上越市の中山間地、吉川区国田の横田秀夫さんだ。横田さんは地元ではちょっとした有名人。前方後円墳を発見したり、木彫りのカヌーを作ったり、周りを驚かし続けている。
そんな彼の田んぼもまた周囲の注目を集めてきた。というのも、よく目立つ通りの田んぼで、「疎植」が年々、程度を増しているからだ。とくにここ5年ほどは変化が激しく、もともとスカスカ植えていた田んぼが、条抜きも始めたもんで、スッカスカ。「また減らしたぞ」「あんなんじゃ、とれないだろ」という感じで、春は地域の話題を独占する。
ところが秋になると、パタリと話に出なくなる。スカスカしていた条間は大きな止葉と稲穂で隠れ、条抜きだったことなんて忘れてしまうほど茂るからだ。
条抜きで坪28株植え
横田さんの技術の基本は故・井原豊氏が考えた「への字稲作」で、30年続けてきた。井原さん本人にも会い、忠実に実行してきた。
「本に書いてあるとおりやっているだけ。肥料代が安くすんで、毎年同じようにとれる。ほかの人がなんでやらないのか不思議だね」
コシヒカリの収量は地域の平均8俵くらいをずっととり続けてきた。
への字稲作でも基本は疎植なので、イセキの5条植え田植え機でしばらく坪42株植え設定にしていた。しかし年によっては弓なりに倒れることがあり、横田さんはそれが気に食わなかった。
『現代農業』で条抜き技術を知り、4年前に1枚の田んぼで実験。ターン後に1条あけるために既存のマーカーの30cm先に手作りのマーカーを追加した(写真)。これで5条植えて1条抜く、坪35株植えとなったが、収量は確かに変わらない! 翌年は全面積に展開。苗箱が減りずいぶんラクになった。


しかしそれでも飽き足らず、2年前には5条の真ん中を抜き、ターン後も前と同じく1条抜く――つまり、2条植えるごとに1条抜く坪28株植えを実験。これもうまくいくじゃないか!というわけで、いよいよ24年には全面積で実施。苗箱は7.5枚まで減った。

遅植えで出穂を遅らせる
もう一つ、横田さんが工夫している点は、遅く植えること。高温時の出穂はシラタが増えて等級が落ちやすいため、普通8月1~5日出穂のところ、10日以降をねらって田植えをしている。
周囲の農家は5月上旬に植えてしまうが、横田さんは……
この記事の続きは『現代農業』2025年1月号をご覧ください
(写真・取材 鴫谷幸彦)
『現代農業』2025年1月号「どうする!? これからの稲作 「令和の米騒動」を経て」コーナーには、以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。
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農文協 編
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