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【イチゴ「8トンクラブ」の挑戦】紙ポットで花芽分化を少しでも早くする

『現代農業』2025年1月号から、佐賀県のイチゴ農家グループ「8トンクラブ」の活動を追った連載が始まります。8トンクラブは2016年に結成し、10a当たり8tの収量を目指しています。現在は、新品種「いちごさん」を栽培し、高収量に挑戦中。「いちごさん」は着花数が多く多収が期待される一方、環境変化に敏感で難しい品種ですが、メンバーの中には7.9tを達成した例もあり、成果を上げています。

佐賀県・8トンクラブのみなさん

苗を囲み、ざっくばらんにイチゴづくりについて語り合う8トンクラブのみなさん(写真はすべて赤松富仁撮影)

目指せ、イチゴの8tどり

 佐賀県に「8トンクラブ」なるイチゴ農家のグループがある。2016年11月に誕生し、その名の通り8tどりを目指す農家集団だ。立ち上げ当時、佐賀県で広く栽培されていた品種は「さがほのか」。収量を上げるのが難しく、10a8tなんて一握りのレジェンドがとる量だった。「その8tをとってやろうじゃないか」という野望を胸に、栽培経験や栽培方法問わず、県内各地から農家が集まった。

 現在、メンバーは26人で、栽培するのは18年デビューの新品種「いちごさん」。着花数が多く「さがほのか」より多収しやすいといわれているが、環境の変化に敏感で、花芽も上がりにくい難しい品種である。だが、近年の異常気象のなか、実際に7.9tとったメンバーも出てきた。育苗ラストスパートの9月初め、育苗巡回すると聞きつけて現地に行ってみた。

発起人の伊東鎮範さん。18aのハウスで高設栽培をしている

気軽に話し、高め合える場が欲しい

 8トンクラブは、鹿島市の伊東鎮範さん(57歳)が発起人になって結成された。伊東さんは一度会社に勤めたあと、38歳のときに地元に戻りイチゴ農家を継いだ。当時、地域で開催されたイチゴの研修会で、若手が発言しづらい空気に疑問を持ったそうだ。

「地域を飛び越えて、話しやすい空気とライバル心を刺激し合える勉強会があればいいのに……」

 そう思って県や農協に広域の勉強会グループの設立を提案すれど、なかなかいい返事が返ってこない。そこで、環境制御の勉強会などで知り合った農家に声をかけ、自分たちでイチゴの勉強会グループを立ち上げたのだ。16年に5人で始まってから徐々にメンバーが増え、今シーズンは26人。伊東さんは8年やったクラブのまとめ役を退き、今シーズンから神埼市の増田善人さんに託したところだ。

反あたりじゃなくて株あたりの収量

9月の巡回に参加したみなさん。前列中央が伊東さん、前列右端が今シーズンからまとめ役になった増田さん。車で2時間かかる地域から参加する人もいた

8トンクラブの主な活動

●写真の共有

毎月1日と15日の2回、ハウス全体や株に寄って撮影し、メンバーのLINEグループに写真を送る。定期的にお互いの生育状況を見る。

●ハウスの巡回

年に数回メンバーのハウスを訪れ、株の生育状況やハウスの設備などを実際に見て回る。各地に散らばっているので、比較的近い農家のハウスは1日で次々巡る。

●振り返り

収量が出揃った夏に前年の反省会とこれから定植が始まる作の意気込みを発表する。このとき、反収(kg)や坪当たりの収量(パック数)のほか、株あたりの収量(g)まで全員で共有する。

「8トンクラブと名付けたからには、年をとって年金をもらうようになるまでには8tとりたいですね」と伊東さん。8トンクラブでは、株あたりの収量データもとっている。

「いまはいいけど、年をとっていくので労力をかけられなくなります。株あたりの収量を増やせれば、植える本数を減らして少ない労力でも収量を維持できるじゃないですか」

「いちごさん」の品種特性

「さがほのか」の後継品種として佐賀県が育種。2018年に正式にデビューし、佐賀県で半数以上の農家が栽培している。1果房あたりの着花数が多いので多収しやすいといわれているが、さがほのかよりも花芽が上がりにくく、ダニに弱く、まだら果が出やすいなど課題も多い。

 いちごさんは株間23cmで10aあたり6000~6500株植える人が多いなか、一昨シーズン伊東さんは10a4900本に挑戦して株あたりの収量の増加を狙った。結果、シーズンを通した株あたりの収量は1.2kg。反収としては5.9tだった(21年は約6000本定植で6.9t)。

 計算上では株あたりの収量1.3kg以上で10a6000本植えれば、8tどりも見えてくる。同じ農協出荷で1.3kgを超えた人は現状一人だけ。目前まではきているのだ。伊東さんは今シーズンは6000株植えながらも、株収量1.3kg到達を目指すという。

育苗巡回

低温処理なしで、どう分化させる?

 この日、育苗巡回では、限られた時間内で8人の苗場を次々回った。

「黒の遮光ネットを使うと徒長すると思って、シルバーを使いました」という人がいると、すかさず「何%を使ったの?」「45%です」。少し離れたところでは、苗を覗き込んでは「この葉色はいいな」「花むすめ(IB化成)は3粒か……」「うちはタブレット(粒状の肥料)を1回入れた」など思い思いに話している。

 足早に、まとまりなく巡回しているようにも見えたが、みんなの共通の関心は、この暑さでどうやって花芽分化させるか、だった。イチゴ花芽分化の条件は、低温・短日・低チッソの三つ。いちごさんは、さがほのかより晩生の品種で花芽が上がりにくい(花芽分化しにくい)。従来は、短日夜冷処理(夜冷)や低温暗黒処理(株冷)をしなくても11月から収穫できていたのだが、このところ11月になると市場から「いちごさんはまだ出荷できませんか?」とせっつかれてしまう。しかし、近年の暑さの中でそう簡単にはいかない。

 24年も8月は最高気温が35°C以上の日や最低気温も25°C以下にならない日が続いた。「23年よりも平均気温が2°C高い」と太良町から参加している村口慎一さんが教えてくれた。

紙ポットで花芽分化を早く

 少しでも花芽分化を早くするため、佐賀で広まり始めているのが紙ポット(大石産業)での育苗だ。普及率に地域差はあるようだが、今回会った農家8人はみんな使っていた。数年前から検討を始め、今シーズンから本格的に使い始めたという人も多い。

 伊東さんは22年に500株ほど試作した。検鏡に出したところ、従来の黒のポリポット(9cm)より5日から1週間分化が早かったという。……

この記事の続きは現代農業』2025年1月号をご覧ください

現代農業』2025年1月号「野菜・花」コーナーには、以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。

  • 激夏のコマツナ栽培 かん水、カルシウム、防除で乗り越える(千葉・平野徹さん、東京・小原英行さん)

  • 超ラクチンなアスパラガスの不耕起改植 吉村俊弘

  • 【激夏に増収したトマト4】激夏でも樹の温度は下げられる 平岡竜也

  • 【新連載 野趣ある草花をつくる】ニンジンの園芸種のダウカス・キャロータ 菅家博昭

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農文協 編

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